6-19 やっぱりそうなるんだ
前話の木魔天蓼の話の続きです。
え。あ。はい。
ジュライさんと共に、あの木魔天蓼の枝がある場所へと急行した。
目の前にある魔蠅の子入りの果実。そのぶくぶくと歪に膨らんだ緑色の塊。これの採取時に傷を付けてはいけない。
見れば、それなりの数の果実が虫瘤で膨らんでいた。それで、ひとつひとつと丁寧に採取をした果実を入れた袋が、どんどんと膨らんでいく。
それなりの時間が経った頃。
ジュライさんは、徐に採取する手を止める。そして袋の中身のほうへと視線を移した。その横顔はとても明るく嬉しそうだ。
「意外と多くを採れた。これで十分だ」
はい。
これは、頷くしかない。
凄い。この大きな袋が採集をした果実で山盛りだよ。これは、とても貴重な果実だと聞いたのにね。豊作、豊作。
何か、こちらまで嬉しくなってきた。
「次は、正常な果実の採集だ。おまいらの土産用となる。これは、傷がついても食用となるから乱暴に入れて構わぬ。採取した実はこの袋に入れて欲しい」
彼女はそう言って、こちらに厚手の袋を手渡した。この袋を受け取ると、とてもずっしりとしている。
革の袋? うーん。空の袋でも重い。
「何だ。袋が気になるのか」
そうだね。気になるといえば、気になる。
「この袋は、魔道具でも何でもない。ごく普通の素材のものだ。魔道具が多いといわれるニサンでも、そう魔道具がある訳ではない」
それもそうだね。だけど、何の素材とかの説明はなかったね。
……ふう。
「何だ、ラケルタ。今度は、ため息をついているのか?」
ジュライさんは、不思議そうな顔をしてこちらの顔を覗き込む。
いや。ん……ま。いいか。
うん。もういいよ。言われたとおりに正常な形の果実を採取しよっと。
ジュライさんの顔を見て、にこりと笑う。そんな些細なことで、彼女を煩わせることはない。
こちらの笑顔を見たジュライさんは、安心をした表情をした。
「そうか。それでは、採集をしてくれ。だが、これも勝手に食うなよ」
え。あ。はい。
そのつるりとした小さな渋柿みたいな、木魔天蓼の正常な形の果実。これを採取していく。もちろんこれは、たくさん生っている。当たり前かもしれないけど、虫入りの果実よりも高い確率で見つかっていった。
なので、すぐにその実で袋が満たされた。そしてこの袋を彼女に手渡し返す。
ジュライさんは、渡した正常な果実を入れた袋の中から、実のひとつを取り出し、力強いながらも優しい笑顔で微笑む。
「ほう。速く採れたな。それに、どれも潰れてもいない。素晴らしいぞ」
この実は柔らかくはないけど、そう硬くもない。だから乱暴に扱って良いと言われても、その通りに扱えば、そのいくつかは潰れてしまっただろう。
「そうだな。どうだ、ひとつ食うか?」
あ。はい。こちらは再び、にこりと笑ってみる。
食べたことがないんだよね。これ。
施設内の食堂では見かけたことがない。そしてこれは、土産にするというもの。だから、とても旨いんじゃないかな。これが貰えるのは嬉しい。期待が高まる。
ジュライさんは、満足げな顔をして、こちらを眺める。そして、その形良い唇の両の端が上がって開く。
「嬉しいか。ならば、これを食え」
ジュライさんが、ひとつの木魔天蓼の実を手渡してくれた。
お。やったね。
早速、この果実を齧り、口に含んでみた。
ん。あれ。何も味がしない? 齧り取った果肉の、そのつるりとした表面。味も香りも何もない。強いていえば、微かな甘みと渋み?
ん? あれ。
「キュグルルルル!」うわ、辛っ!
後味にある、あの独特な旨味。旨味そのものが辛い。旨いんだけど辛い。
かっ、かっ、か。
喉を押さえ、その緑色の果実を吐き出す。
うー。涙がでるよ。まだ、喉に痺れるような辛さが残る。
「何だ、苦手か? 珍しいこともあるものだな」
それこそ、きょとんとしたような顔をして、こちらを見るジュライさん。
「擬態種だといっても、その本態は魔爬虫類のリザイア目リザドリスク科なのであろう? 火の系統が好みではなかったか、ラケルタ?」
うーん。擬態は擬態でも、少し異なるんだけどね。
「なるほど。これが、ラケルタが変種といわれている所以のひとつか」
勝手に納得をしてくれている、ジュライさん。
「それはそうと、私の従魔たちフェリスアン属種は、この果実に目がない。徒に魔蠅の子入りの実に傷をつけられると困る」
そして、こちらの背中にある袋を指して言う。
「だが、先に偽魔山椒の実を見つけたのは幸いした。それを私に渡せ。ラケルタ」
え。あ。これ。
その袋を肩から外して、ジュライさんに渡す。すると彼女は、採集をした虫瘤がある方の木魔天蓼の実の上に偽魔山椒を丁寧に重ねていった。
「これでいいだろう。さて」
これは、タイミングが良い、というのだろうか。
『姉御ぉ、そこだったか。だけど俺は、これ以上進みたくない』
ゴトラン氏の声。それには、少し情けない感じの、悲痛な感情が籠もる。
「我慢して来てくれ。持って行って欲しいものがある」
『……承知いたしました』
やはり、ゴトラン氏は、正式な従魔というべきか。ジュライさんの命令の通り、棘があり、フェリスアン属種にとって、とても嫌な臭いのする偽魔山椒の木の間を掻い潜って、ここまでやって来た。
そう。これらの木のほとんどが雄性の木とのことで、実は生っていないけど、この一帯は偽魔山椒の木が群生してる。
「ご苦労。ゴトラン。この袋だ」
かなりズシリとしてるもんね、この袋。どうやら、ジュライさんは、こちらでは背負うことが困難だと判断したらしい。
『う。これも偽魔山椒の臭い……合点です、姉御』
そうこうして、開けた場所にでる。そして岩盤伝いにあの泉の前まで戻った。
そして泉の前を見ると、他の皆、従魔候補の先輩たちと、残りの3体のフェリスアン属種の従魔たちがいる。そして、それぞれが採集した食材とかの袋を山積みに置いてあった。まだ馬車は戻って来ていないらしい。
「ご苦労、ゴトラン。ちょっとした珍しいものをやろう。他のものは、町に戻ってからだ。私の従魔であるフェリスアン属種は、これが大変好物でな。ゴトランには、少しばかり我慢を強いたので、先に与える」
『お。木魔天蓼の実。これは素晴らしい』
ゴトラン氏は、歓喜の声を上げる。
受け取った実を鼻に付け、すりすりした後、齧っていた。
彼はしばらくすると、うっとりしたような、とろんとした表情になった。
あれ、酔っぱらっている?
木魔天蓼の実。
あ。木天蓼、マタタビだ。
ほんと。ゴトラン氏は、猫にマタタビを与えた状態となっている。
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