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1-09 魔プラム

異世界食レポです。

「ほれ、そこに‘座れ’」


 こちらの身体が自動的にしゃがみ、足を投げ出してペタリと座った。どうのこうのと考えなくていいから楽ではある。だけど、何か嫌な気分だ。


「次に、食料だ。お前はトカゲ系統だろ。で、リザイア用の食料を用意した。ふむ。もしやお前、人間が食う食い物も食ったことがあるか? なら、俺のがある。食ってみろ」


 男はそう言うと、抱えていた、大きなずだ袋のようなものを下ろした。そして、綺麗な木目もくめがある、大きなお椀のような器をいくつか取り出す。


 その器に、数種類の木の実のようなもの、大きな白い芋虫を干したようなもの、何かの動物の肉を干したようなもの、そして赤くて丸いプラムのような果物のようなものを、それぞれこんもりと盛った。


 それが終わると、今度は、こちらの目の前の床に布を広げる。そして、フランスパンのようなものに、葉野菜とソーセージとポテトサラダらしいのが挟んであるサンドイッチと、カップに入ったコンソメスープのようなものを置いた。


 ふーん。リザイア用の食料ね。リザイアって何だろう? トカゲ系統とか言っているから、トカゲの一種かな。


 それと、食料、食べ物か。色々ある。芋虫のようなもの以外なら、食べられそうだな。


 あ。先程までの状況からすると、これらを強制的に食べさせられるのか? 夢の中でも、それは嫌だ。勘弁して欲しい。


「ほれ、遠慮せずに食え。これはお前の自由意思だ。そんなもん、強制したかないぞ? ま。お前が餓死寸前で抵抗をするために食わんと言うのなら、やむなく命令をするかもしれんが。それとも、この中に食うものが何もないのか?」


 こちらの気持ちが、すんなりと通じたようだ。この意地悪な夢の中で珍しい。


 でも、どうしようか。


 はっきり言って、よく知っている食べ物はこの中に存在しない。男の分だと言っているものだって、似ているものから類推しているだけだ。


 それに、それなりに時間が経っているのに、腹も減っていない。


 ん。腹が減らない。そうか。これは夢の中だった。味なんてないかもしれない。夢の中で何かを食べようとすると目が覚めたと言う経験もある。それなら、食べてみるのも一興かな。


 では、無難そうな果物からいくか。


 木の器から、プラムのような先が尖った赤くて丸い実を手に取る。匂いを嗅ぐと、ふわっと甘い良い香りがした。唾液が出てくる。食欲をそそる香りだ。


 プラム系、スモモ類はもともと好きで、季節になるとよく買って食べる。


 いつもは、洗ってからだけど、まあ。いいか。


 その実は白く粉がふいていたので、何となくこすってから皮ごと齧る。


 んー。甘酸っぱい。見た目と同じような味。酸味系の早生わせ種に近いか。


 お。いけるな。その実を丸ごと口に含む。


 あ。これは意外。


 酸味か渋みを予想していた種の近くで、じんわりとした甘さが広がる。


 嬉しい誤算だ。独特な旨さを伴う甘さを感じる。こんな奥深い甘さのある旨いプラムは初めてだ。


 いやぁ、旨い。旨くて、口について出る。


「ルゥー、キュルウルル!」


 鳥のような鳴き声? いや、構わない。旨いから。


 これだけで幸せになれる程、とても旨い。


 ふと我に返り、男を見る。男は、にやにやと笑っていた。


「やはり、お前は人間の姿をしていても、魔動物だな。魔プラムを好むか。こいつは魔素含有量が比較的多いのでな、人間には渋過ぎて食用にならん。俗に言う魔物の好物だな」


 渋くて食用にならないとか言っているがウソだろ。これは凄く旨いぞ。こんなに旨いものだったら、後で食べる用にキープさせてくれ。


 魔プラムの入った器を抱え込むようにして、こちらに寄せる。上目遣いをしてしまったかもしれない……。


「ははは。誰も奪い取りはせん。欲しいのなら、その魔プラムは、全てお前のものだ。ま。それは良いとして。他はどうだ? 食わんのか?」


 笑われた。いや、まぁ、だな。味なんてないものと思っていたものが、凄く旨いものだったので、我を忘れた。これなら、他も期待できるかもしれない。


 魔プラムの器をこちら側の横に寄せて、と。


 布の上に置かれたサンドイッチを手に取って食べてみた。


 魔プラムのような驚きはないが、これはこれで美味しい。自然志向のオーガニック何とかとかと言う高級店で食べるような優しい味だ。


 んー。そうだな。このサンドイッチをよく知っている食べ物で例えれば……


 焼けた小麦の甘い香りが香ばしく、皮はパリパリで中はしっとりしたフランスパン。葉野菜は少し苦味のあるチコリとシャキシャキのチシャ。


 中に入っているポテトサラダは、マッシュされたポテトや、銀杏切りの人参は自然な甘さで、玉ねぎとニンニクを合わせたようなエシャロットのスライスが、ぴりりとした辛みのアクセント。


 ソーセージはプチリと歯切れよく、胡椒の辛みとコモンセージの香りが品よく効き、程よくカッティングされた肉のブロックの中から、微かにキャラウェイの甘い香りと共に肉汁がジュワッと広がる。とかかな。


 いやぁ。なかなか楽しい。ちょっとした食レポ気分だ。


 ついでにスープも手に取る。


 うん。コンソメスープも本格的な味だ。これも旨い。


 木の実と干し肉は、そのままナッツとビーフジャーキーのような味。まあ、旨いには旨いが、よくある無難な味だった。


 干し芋虫は躊躇したが、好奇心に負けて手に取った。


 それはワイルドな見た目とは異なり、丁寧に炒ってあり、食欲をそそる香ばしい香りがする。おそるおそる齧ってみると、中身は高級蟹クリームコロッケの中身のような濃厚な味だった。


 外見はあれだが、慣れるか、目をつむって食べれば、結構上質な旨い味だと思う。あるいはソースにしてしまうのも手かもしれない。


 結局、これで出された食べ物を全種類食べたことになる。


 これらの食べ物を食べている時は、ここが夢の中であることを失念していた。


 ……本当に、ここは夢の中なのだろうかね。


 こう、味とか匂いとかを実感していると、自信が無くなるよ。



酸味系のプラムは皮の近くが一番甘くておいしいですよね。


投稿した時は、すでに秋。あープラムよ。来年が待ち遠しい(溜め息)。


異世界食レポ、ちょっと先になりますが、後の話にもあります。

というか、ある意味メインです。

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