EP.FNー07 少年から見た彼女ーGOSSIP Hー
EP.FNー07
「おお!起きたか坊主!」
少年が目を覚ますと、視界に写ったのはどこか見たことのある天井だった。木の骨組みと白い布でできた簡易な屋根だ。
「…………ここは……。」
「ん?ここか?ここは、馬車の中だ。いやー、運が良かったな!お前!あそこのお嬢さんに助けてもらわなけりゃ今頃はモンスターの餌食だっぞ。」
答えた男の顔にも見覚えがある。大柄でいるだけで人に圧迫感を与えそうなのに、その軽い口調と柔和な表情でそう感じさせない男。たしか、フランツという男で、「今回の依頼」で行動を共にしたDランクにあたる冒険者だ。
「ホント、運が良かったなよなオメェさん。オレはパーティからはぐれた時は、死んだかと思ったぞ!いやホント。」
ああ、そうだ。僕はたしか「とある調査任務」で荷物運びとしてフランツさんの所属するパーティに入って街の外に出たんだ。その途中で起きた魔物の襲撃の時に僕だけパーティからはぐれたんだった。それから、あらかじめ決めておいた合流地点に戻ろうとしてーー。
「………ッ!?ッッ!!」
「お、おいおい。坊主、急に起きんなや。回復魔法はかけといたが、魔力量の関係で完治してるわけじゃねぇんだからな。」
フランツさんの言う通り、跳ね起きたと同時に背中に痛みが走る。
「い、いえ。大丈夫です。それよりも助けて頂いてありがとうございます。」
「おう!感謝し尽くせ!……って言いてぇとこなんだが、お礼を言う相手を間違えてるぜ。さっき、言っただろ。お前さんを助けたのは、真ん中で寝ている超絶美少女のお嬢さんだぜ。」
フランツさんの指差す方向を視線で追う。
「………ッ!」
息を呑む。視線の先で身体を丸くして寝ていた少女は綺麗とかそういうレベルではない。
場違い。そう、まさしく生きている世界が違う。それこそ、お伽話の世界から迷い出てきたのではと思えるほどだ。着ている服から髪の艶、肌の色。頭頂から足先まで、その全てが場違い。少なくとも、街の外で……しかも、こんな荷馬車と対して変わらないもので寝息をたてていていい存在ではない。証拠にフランツさんを含めた六人全員が居心地悪そうに馬車の端によっている。
ゴクリ、と意味も分からず生唾を飲み込む僕。
「………襲うなよ。」
ボソリ、とそんなことを言うフランツさん。
「バッ……だ、誰が襲いますか!?ええ、しません!しませんよ僕は!!」
な、なんてことを言うんだ、この人は!?
「ははは、冗談だ。冗談だよ坊主。そんなデカい声だしたらお嬢さんが起きちまうぜ。」
「あーー!あんーーー!!あーーッ!!」
あんたが言うな!!そう言おうとするが、吃って上手く声を出せない僕。
「はっはっはっ!初心だねぇ〜。いいよその反応。…………しっかし、このお嬢さん。な〜んで、あんな危険な森ん中にいたんだろうね〜。身なりとか、このむっさい男しかいない空間で平気で寝れるとことかから見るに、どっかの世間知らずなお貴族様って感じだしなぁ。」
それは僕も思った。僕を助けてくれたらしいことから森にいたようだけど、この子はなぜ、あんな所にいたんだろうか?
うん、その辺は後で聞いてみるか。それより先にお礼を言うべきだろうし。
「おいおい、まさかマジで襲う気じゃーー。」
「襲いませんよ!!ただ、アンタの言う通りーー。」
「やっぱり、襲うのか。」
「襲わねぇってつってんがろうがッ!!助けてくれた礼を言うだけだつーの!!」
怒りで口調が変わってしまった。何言ってんだコイツ。
「…………ちょっと五月蝿いぞ、お前ら。人の安眠を妨害するとか……お前らの常識はどうなってるんだ?え?」
声が聞こえた。場違いな声が。口調に若干ながら粗暴な雰囲気があるが、間違いなく女の美声。
声がした方を見ると、概ね予想通りの光景が写っていた。
「ふわ……。全く、ナビィといいコイツ等といい、何故、人の安眠を妨げるウスラバカ共がこんなにもいるんだろうか。…………………(う)るせぇよ。ただ、今回はもともと夢見が悪かっただけだっつうの。」
起き上がってから欠伸をする。その一挙手一投足が絵になる。ただ、口調が荒々しいが。そして、件の彼女の紅眼が僕を捉える。
「ん?ああ、お前か……。その様子だと大丈夫そうだな。てっきり、肋骨が根元辺りからやられてたと、思ったんだがな。……ああ、魔法があったんだったな。まあ、あれだ。無事で何よりというやつだ、少年。」
見た目に反しての粗暴な口調に固まっていた僕だが、こちらに話しかけられて止まっていた思考が再開し始める。………というか、「少年」って。
「あ、ああ。たしか、君が助けてくれたんだよね。どうも、ありがとう。それと、僕にはヒューイという名前があってね。その『少年』っていうのをーー。」
「そうかい、少年の名前はヒューイというのか。取り敢えず、少年のことを忘れるまでは覚えておくよ。」
「…………もう、いいよ。それで。」
完全に覚える気がないよこの子。まあ、いいけど。
「それでは、『私』はもうひと眠りさせてもらうよ。」
「え!?ちょっ、待って!」
「…………何だよ。」
物凄い不機嫌だ。感情の起伏が激しすぎないだろうか。
これは余談だが、"彼"はヒューイ少年の思う通り、「感情の起伏が激しい」わけではない。安眠の妨害や日中のペナルティなどで、起きたときから機嫌が悪い。ただ、二回目の睡眠の邪魔に取り繕うのをやめただけである。
咄嗟に止めてしまったけど、何て言おう。
「そ、そうだ!君の名前!名前を教えてもらえるかい?」
彼女は一度考えるような間を取ってから、
「……クロノア。」
とだけ答えた。
「あ、あともう一つ!」
「……………………何だ。」
なぜこんなに彼女と会話をしようとしているのだろうか。と思いつつも、僕は殆ど自棄になりながらも聞く。
「君はなぜあんな危険な森にいたんだい?あそこには魔物が沢山いるのに。」
その質問に軽い舌打ちを聞いた気がした。
「…………お前には関係の無い話だ。」
それだけ答えて再び眠りについた。
えー。何それー。
「…………何かあれだな。嵐みたい?なお嬢さんだったな。」
フランツさんが唖然としつつも答える。周りの人たちもフランツさん同様唖然としている。
「そうですね。」
そう言いつつ、僕はクロノアと名乗った少女を見る。
そこにいる彼女はどうしようもなく可愛らしい人形のようで、先程の粗暴な口調の彼女と同一人物だとは思えない。でも、この馬車のど真ん中かつ、我が物顔で寝ている彼女はとてもしっくりしている気がした。
なぜ、こうなったのだろうか。
ヒューイ君と一緒に自分もそう思います。
何でこんな性格になっちゃったんだろうかクロノアよ……。
当初はFFのライトニングさんとか声優繋がりでGEのアリサさんをモデルにしていたのに……。いつの間にか空の境界の両犠さんぽくなって……今じゃこのザマです。
い、いや、あれだ!今回は寝起きで機嫌が悪かったんだ!次回はもうチョイ当初のモデルっぽくしたいな
。
今回、視点を変えたせいかどこか消化しきれていない感があります。なんだろうこのモヤモヤ?時間無くて無理矢理切ったからだろうか。なんか閑話っぽくなっちまったな。
次回はこのモヤモヤを消化出来るといいなぁ。