EP.FNー06 影を見せ始める憤怒ーESCAPEー
お久しぶりです。ハルです。3日か4日くらいあけちゃいました。すいません。ちょっと、私生活の方で問題が発生してたんです。
EP.FNー06
ーー錬金の国『アルケニヤ』首都付近の森
「ひ、ひぃぃぃ!!」
何処から、随分と情けない声がする。声からして15歳程度の少年だろう。
その少年は死に物狂いで走っている。否、死にたくないから全力で走っているのだろう。少年の背後から足音。少年のそれより随分と軽いが、俊敏で、何より数が多い。
「Gieeeeee!!」
「GeaaaaAAa!!」
獣の唸り声のような不協和音が少年の恐怖を駆り立てる。声には一切のーーそれこそ獣程度の理性は感じられず、狂ったように唸る。
少年は走る。ただ、ただ、走る。近づく「死」から一歩でも遠く。一つしかない命を一秒でも長引かせるために。道無き道を掻き分け走る。身体中にいつの間にか擦り傷や切り傷が走っているが、気にしている暇はない。一歩でも遠くへ、と。一秒でも長引け、と。
が、少年のそんな願いに、当然のように不運が襲う。ここは、森の中。道無き道の獣道。そして、少年はそんな悪路を走り抜ける経験など今日が殆んど初めてだ。小さな窪み、出っぱりの上を走るだけで足には相当以上の負担が蓄積する。意識は足の痛みを無視し、ただ、「走ること」だけしか考えなくなる。ならば、当然のように転ぶ。痛みと同時に足場の確認を疎かにしたおかげで、木の根に足を引っ掛けたのだ。
「ぎゃんッ!?」
またしても情けない声が響く。顔と言わず、足と言わず、全身を強かに打ちつけた。前のめりに、手をつくことも叶わず。痛い。足が痛い。膝が痛い。胸が痛い。手が痛い。肘が痛い。顔が痛い。背中が痛い。
……………背中?
そんな思考が過ぎった時、聞こえた。
「GiGiGiGi!」
自分の背から。すぐ近くから。
背中が熱い。痛い。なんだよ、この痛みは。痛む手で地面をつき、仰け反るようにして背中を確認する。
まず、視界に写ったのは、唸り声の正体。まるで、小人のような小さな体躯。肌は緑。そして、醜い顔。〈緑小鬼〉と呼ばれるそれが少年の倒れた背に馬乗りのように乗っかっている。眼が血走り、口から涎をダラダラと流す姿は明らかに異常で、醜さを一層際立たせている。
次に視界に写ったのは、〈緑小鬼〉の手。厳密には、手に握り締められた得物。それは何処にでもある短刀。全く研がれていない切れ味の落ちきったソレは、背中に……。
「……あ、あ………………。」
………深く、深く………………。
「………ああッ。」
……突き…………。
「………………………………………………あ。」
………刺さって……………。
「ああああぁぁぁぁぁあッッ!?ああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああーーーッッッ!!」
悲鳴。
それこそ、先程の〈緑小鬼〉の声など可愛く聞こえるほどの。あまりに痛々しく、耳を塞ぎたくなるほどの。そんな悲鳴。
「Gieeeee!」
「Gea!Gea!Gea!」
「GieeeeeaaAAA!!」
〈緑小鬼〉の声の数が増える。その声には獲物を捕らえた喜びではなく、殺しの快感でもなく。唯々、純粋で誰に向かっているかも分からない「怒り」が込められていた。
追いついて来た個体は、いち早く少年に追い付いた個体と同じ得物を手に近づいてくる。痛みで動けない少年を狙って。追い打ちではない。ただ、殺したいだけ。無茶苦茶にしたい。それだけ。
獲物?違う。僕はただの欲求不満の解消道具。怒りの捌け口。この〈緑小鬼〉達の行き場の無い怒りの八つ当たりのためだけに狙われ、殺される。
悲鳴はもう出ない。諦めたのだ。この状況から生還する術を持たない。ダメだ。どうにもならない。死ぬ。
「…………………………。」
意識が遠のく。視界がぼやけ、何も写さなくなる。
「………………。」
視界が完全に閉ざされ、意識が無くなる直前ーー。少年は黒髪の少女を見たような気がした。
*
『黒のあーる城塞』から出た俺は現在、非常に気分が悪い。原因はまず間違いなく、あのお天道様だ。吸血鬼の特性で各種パラメーターが低下し、状態異常にダウナー(消費MP、SPなどが1.2倍化。キャストタイム、リキャストタイム1.5倍化。)まで付いている。まぁ、灰になることがなかっただけマシと言える。しかし、気分が悪い。パラメーターの低下は身体が、重くなった気になり、ダウナーは常時車酔い状態といったかんじだ。日中のペナルティが現実となったらこう影響してくるとは……。地味にキツい。もう、ギルドホームに引き篭もりたい気分だ。あそこはいい。あそこは朝から晩まで夜だからな。あー、帰りたい。もう、外の探索とかどうでも良くなってきた。
《御主人様?随分と体調が悪いようですが大丈夫なのです?》
少し心配気なナビィの顔がヒョッコリと視界の端から覗いてくる。
「…………………」
自らの姿を俺の五感に投影することで、あたかもそこに『いる』ように誤認させている訳なのだが……。
俺はその事で、結構恐ろしいことを見落としていた。それは、単純な話だが、『ナビィがクロノアの五感を操っている』こと自体………そして、それが『どの程度まで操れるのだろうか?』という懸念だ。
今の程度なら問題は無い……ことも無いが、致命的ではないと思う。しかし、それが完全に操れるとなったらどうだろうか?最悪、俺の意思と身体完全に切り離せるとしたら………。更に、タチが悪いことにこれに対する直接的な対策が取れないのだ。幸い、ナビィとのこれまでやり取りから主導権を奪われることにはならないと思うが、やはり懸念が残るのは気分が悪い。
………これ以上は考えるだけ無駄だ。そもそも可能性の話で、実際はどうか分からない。ナビィからそれとなく情報を引き出し、追々対策をたてることとしよう。
《御主人様?》
「……ん?なんだ?」
《何だ?も何も話しかけたのに無視したのは御主人様の方なのですけど》
「……………何の話しだったか」
《ずいぶんと体調が悪そうだったので心配しただけなのです》
「体調?あー………、どーだろーな。もう、帰りたい気分だ。」
《え?まだ外出して三十分程なのですよ》
「………まだ、一時間も経ってないのかよ」
この辺で、ギルドホームに引き篭もることを真面目に考えてみよう。そして、これ以上ウダウダ考えるのは無しだ。ウジウジ考えるのも俺らしくないし。
まず、メリットとして、余計な面倒事に合わずにすむ。俺の存在があまり知られていない現状では結構現実的だ。メリットとは少し違うが、食事の必要がないのもプラスポイントだ。なんせ、餓死の心配がない。まだ、確証あるわけではないが、一週間飲まず食わずでいけたのだ。腹の減りや喉の渇きを訴えだしてから行動をおこしても問題はない。下着の類も引き篭もるのならあまり必要性をかんじない。
デメリットとしては、あの埃っぽいギルドホームで暮らすことだ。300年で結構劣化している物が多い。が、これは多少は我慢したら良い話だし、必要なら時折人里に降りる。それだけで解決だ。問題としては、引き篭もると同時に元の世界に帰るのが絶望的になるといったところか……。俺とて帰りたくないわけではない。
「………なら、もう少し頑張らねぇとな」
そんな呟やきとほぼ同時に悲鳴を耳が捕らえた。探知で場所を探すと、わりと近くだった。すぐ近くに二つ、離れた場所から四つ。「クロノア」の探知で拾えるのは、そこに居る反応のみ。あとはせいぜい生きているか死んでいるかくらいだ。ここからは、状況を推察するしかない。
二つの反応が四つの反応に追われている?いや、二つの反応が動いていないうえ、さっきの悲鳴は一つだけ。ならば、二つの内、一つが悲鳴の主で、もう一つは、後ろの四つの先行した仲間か。
「さて、状況は何となく理解した。あとは助けるか否かだが……」
助けるとしたら、五つの反応と大立ち回りをすることになる。「クロノア」のステータス的に負けるとは思わないが、相手が人間だったらもれなく「人殺し」の汚名を背負うこととなる。
逆に助けなければ、これから食う飯が不味くなる。だが、残念!俺は食事を(多分)必要としない身体。よしんば必要でも、人の血を飲むというある意味拷問じみたことにするのだ。血を飲む程度と考えるかもしれないが、"彼"はそうは思わない。傷口から滴る血を舐める程度なら大丈夫だが、コップ一杯分以上の血をゴクゴクと飲むとか正気の沙汰ではない。絶対に吐く。
なしだな。助けるメリットが無い。顔も知らぬ誰かよ。達者に生きーー否、楽に死ね。
そう結論づけ、とっととその場を離れようとした時、
《あの。御主人様?さっき悲鳴が聞こえたようなのですが、助けに行かないのです?》
と、聞いてきた。
「……………………」
ナビィの発言で助けに行かない時に生じるデメリットが出来てしまった。
彼女の言葉の裏に「300年前のクロノアならこの状況で助けに行っていた。」という意味が読み取れた。ここで助けに行かなければ、『「クロノア」に"彼"という異物が入っている』もしくは、それに至る疑問を持つかもしれない。もちろん、"彼"の考え過ぎかもしれない。単に、彼女が自分の願望を言っているだけで、本来の「クロノア」ならここで見捨てる可能性だってある。ここでの選択のミスで彼女との関係に禍根を残す可能性がある。
どうするのが、最善か。………。この際、見捨てる見捨てないという『本来の「クロノア」ならどうするか』で考えるのはやめよう。結局、どちらの可能性もだいたい同じくらいだし、判断材料が少ない。ならば、ここは『選択を間違えた時、どちらの方が彼女との間に禍根を残さないか』で考えよう。まぁ、それは簡単だ。彼女の要望通り助けたらいい。本来の「クロノア」と乖離した選択でも、彼女からプラスに取られる可能性が高い。ならばーー。
「ふむ、ではナビィ。敵はなんだ?」
これが、"彼"が選択を妥協するうえで、譲れないところ。もし、殺す相手が「人間」だったなら彼女には悪いが、問答無用で見捨てさせてもらう。
《えーと、〈緑小鬼〉なのです》
その言葉と同時に〈緑小鬼〉達の個体ごとの情報が視界に表示される。
こういうことまで出来るのか。
この質問は自分より優れた探索能力を持っているナビィの実力を信じての聞いたのだが、出来たようだ。しかも、彼女は離れた個体の情報まで読み取った。
少し、便利過ぎやしないだろうか?
ともあれ、第一段階はクリア。なら次は、
「お前はどうしたい?ナビィ」
彼女の意志を再確認したうえで、『彼女が選択した』ことにする。
《私は……………、助けたいと思うのです》
「そうか、分かった」
彼女の選択に"彼"は「クロノア」として乗っかる。取り敢えず、アイテムストレージから片手剣を出す。
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【アイテム名】《夜の福音》+30
【レア度】☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
【ステータス】▼
【アビリティ】▼
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その刀身は黒水晶のような黒とその中で小さな光が星のように淡く発光している。まるで、夜そのものを切り取って刀身に封じ込めたような剣。
〈緑小鬼〉は魔物と分類される存在の中でも弱い個体だ。それに対して、こちらはレベルカンスト状態。負ける通りはない。どころか、相手が勝手にレベル差を感じて逃走するだろう。
だが、ゲームが現実となった今、それが油断となり、痛い思いをする恐れもある。ならば、万全の態勢で挑む。300年という長い時間の中で失逸していった中で唯一残った武器を片手に名も知らぬ誰かを助けに向かう。
「では、行くか」
《はい、なのです》
その声を最後に「クロノア」は黒色の風になった。
投稿遅れました。すいません。前書きにも書いた通りちょーーっと不味い問題が発生してましてん。どれくらい不味いかというと自分の人生に一年の遅れが生じる可能性があるほどです。別にブックマークが一件無くなって、意気消沈してたわけではありません。そしで、ブックマークが一件回復して気分が良くなったから書いたわけでもありません。本当に昨日一昨日が不味かっただけです。
まあ、確かにここから第1章の書きたいところに至るまでは結構辛いところがあり、ペンが進まないのは事実。こう、なろうのテンプレートに添いすぎてるんらだよね。それを何とか面白くしようと四苦八苦。なかなか上手くいかずに四苦八苦。話がなかなか進まなくて四苦八苦。ホント辛い。第1章いつ終わるだろ?まだ、10部も書いていないんですけど、ちょっと心が折れそうです。
それでも、なんとか頑張っていくので応援のほどよろしくお願いします。では次回で!
2016.12.28
前話での変更点によって影響した部分の修正・追加




