EP.FNー19
サブタイは(ry
EP.FNー19
Fランク冒険者ヒューイ少年は溜息を吐く。
目の前で意気揚々と魔術ギルドに入ろうとする少女を視界に収めながら。
明らかに存在が場違い。人間離れしたように容姿が整った少女。
もっと自分が幼かった頃は、お姫様と勇者が登場する物語を母から聞き、憧れたものだ。主人公の勇者のようにカッコイイ英雄になって、綺麗なお姫様を救い出したり仲良くなったりしたいと夢見たものだ。
だが、現実は違った。何だか胃が痛い。自分と彼女が釣り合っていないことを胃の痛みがキリキリとつたえてくる。周りの視線も痛い。居心地が悪過ぎる。
「おい!少年!」
何処からともなく届いた声に身体が心臓と一緒に飛び跳ねる。
「な、なん…………でしょうか。」
少女から敬語は使わなくて良いと言われたのだが、そういう訳にはいかない。その辺の葛藤で敬語なのかそうでないのか分からない喋り方になっている。目の前の尊大な態度の少女に聞き返す。
「道案内ご苦労。ここまでで帰っていいぞーー。」
本来なら彼女の傍若無人な態度に怒りを覚える筈だが、そんな言葉に喜びが込み上げる。
ーー即ち、やった!これで、この居心地の悪い状況から逃げ出せる!である。
しかし、
「ーーと言いたいところだが、『私』の頼みを答えて案内してくれた手前、なんの報酬も無しというのも気が引ける。」
会話の雲行きが怪しくなってきたのを感じ取ってしまった。これは余談だが、原則として冒険者はギルドを介しての依頼と報酬しかを受けることができない。昔の話だが、どこかの御令嬢を騙し依頼以上の報酬を騙し盗り、冒険者の風聞が悪くなった事件があったためだ。今も『冒険者=荒くれ者集団』という風潮が拭いきれていない。実際その通りなため、という理由もあるが……。そう言った理由でヒューイ少年は「いえいえ!結構です!」と返し、そのままトンズラしようと試みるがその前に、
「よし。ならば、案内の礼だ。今晩の飯は『私』が奢ろう!」
と、言い切っていた。想像していたものよりもずっと庶民的でありふれた礼に少しの意外感を覚える。これなら、依頼はチョットした頼み事で報酬はそのお礼程度の話に落ち着く。
しかし、しかしである。その時、ヒューイ少年は気付いてしまったのである。礼が、『夕食を奢る』ならば、その夕食の時間まで彼女に付き合う必要があるのではないか、と。
「い、いえ!けっこーー。」
「よし。これで決まりだな!これも何かの縁だ。少年、最後まで付き合え!」
此方の話を聞かずに決まってしまった。彼女はそのまま踵を返し、魔術ギルドに入っていく。
取り残される少年。
「どうしてこうなったんだろうか。」
そんな一言とともに溜息をもう一度吐く。命の恩人であるらしい彼女との二度目の邂逅をした時を思い浮かべながらーー。
*
時を少し遡る。
ちょうど、クロノアが冒険者ギルド支部長ソルダとの会話を終わらせた頃の話である。
先日、〈緑小鬼〉からクロノアに助けれたヒューイ少年はその時、ちょうど冒険者ギルドの入り口から入ってきたところだった。
ヒューイ少年はFランクという冒険者の枠組みで最下位の新米に分類される。冒険者には荒くれ者集団という風聞が一般庶民の常識であり、その中でも最下位であるFランク冒険者はそんな荒くれ者集団の中でも特に危ない部類に位置付けされている。その認識は間違いではない。実際、ランクを上げる判断基準には当人の素行の良し悪しも含まれているためだ。そのため、依頼がどうしても中位上位ランカーに集中する。だが、Fランクは新人が一部の例外を除き、ほぼ全員の冒険者としてのスタートラインである。ヒューイ少年のように素行に申し分が無くとも依頼が少なく、ひもじい思いをすることとなる。
それに対して、ギルド側も未来ある新人冒険者の芽を積むようなことにならないように様々な救済措置を取っている。
例えば、ランク上げの判断基準の変更。中位上位ランカーが依頼の達成度やギルドへの貢献度をランク上げの最初の判断基準とし、その後に当人の素行、実力を計り、ギルドから与えられるランク昇格任務を見事達成することで晴れてランクが一つ上がる。だが、下位ランカーは違う。そもそも下位ランカーに与えられる依頼が少ないため、達成も貢献も無い。その為、ギルド側が月に一度行う、中位上位ランカーの実力者を数人雇って昇格試験が行われ、そこで見事合格基準を満たせば昇格となる。
だが、それだけでは足りない。幾ら月一で昇格の機会が与えられようと、最下位のランク冒険者が中位ランカーに仲間入りするにも最低でも数ヶ月はかかる。その間の収入はどうするのか?という問題が出てくる。勿論、親などの援助や別での働き口を持つ者もいる。だが、社会の常識として『冒険者=荒くれ者集団』が認識されている現状で冒険者をはじめようと考えるのは冒険者以外に金を得る手段が無い者がほとんどだ。そんな者のためには依頼がどうしても必要だ。しかし、依頼の絶対数が少ない。変に依頼を実力の乏しい下位ランカーの冒険者に割り振るのも最悪その冒険者が帰らぬ人となることも十分にあり得る。では、どうするか……。簡単だ低ランクの冒険者でもできる依頼を増やせば良い。例えば、ギルド側からの直接の依頼。例えば、中位上位ランカーのパーティーの荷物運びなどだ。たかが、荷物運びと笑うことなかれ。荷物運びや雑用のために入った冒険者の周りにいるのは実力を兼ね備えた中位上位の冒険者だ。行動を共にしたならば、ほぼ必ず戦闘に立ち合う。目端の利く冒険者ならそこで自分より実力のある冒険者の技術を見て盗む。報酬も貰って高い戦闘技術を見ることができる。ある意味、新人にとってこれほど美味しい依頼は無い。それに気付く新人は少ないが……。
武具の貸し出しや訓練場の無料化などそれ以外にも様々な新人救済のための制度はあるが、この辺で割愛しておく。
そして、件のFランク冒険者ヒューイ少年は新人の中でも目端の利く部類の冒険者だ。因みに冒険者となって一月と経っていない。いち早く、高位の冒険者パーティーと交友を深め荷物運びや雑用を卒なくこなす、先輩冒険者から非常に評判の良い新人冒険者だ。
〈緑小鬼〉に襲われた時も荷物運びとしてとある調査任務を請け負ったパーティーに入っていた。
まぁ、それもその時の一件で暫く自分の身を案じてくれたのか出禁をくらってしまったが……。
それ自体は問題だ。だが、その間はその時に自分の身を案じてくれた陽気なDランク冒険者のフランツが、稽古をつけてくれると言われたら話は別だ。はっきり言って、冒険者同士でしかも実力が開ききった相手が自分の技術を教えることはほとんど無い。依頼が多い上位の冒険者であろうと命懸けだということは変わりない。ならば、他人に教えるなどという暇など作ろう筈がないのである。故に、これは少年の人徳が為せる業と言える。
そして、今日。パーティーメンバーの一人からの魔術による治療行為により、全快となったヒューイ少年はフランツとの約束の時間ゆりも早く冒険者ギルドに足を運んでいた。
何か知らないが、ギルド内が騒がしい。話を盗み聞くと、「ギルドにフラリと現れ、出て行った良いトコの御嬢様を下心丸出しで追って行った男どもが身包みを剥がれて放置されていた」というような内容だ。「その後、何食わぬ顔で件の御嬢様が現れた」と言うのも聞こえてくる。
良いトコの御嬢様と聞いて、先日のいのちの恩人らしいキツい性格の絶世の美少女を思い出す。もう、その時点でヒューイ少年は嫌な予感がしていたらしい。とっとと、訓練場に行ってフランツさんを待とうと考えていた。
そんな中、二人は出会った。否、出会ってしまったと言うべきか。
一方は、次の(そして、初の)昇格試験のための訓練に来たヒューイ少年。
もう一方は、ギルド支部長ソルダから魔術ギルドについて聞き出して向かおうとするクロノア。
クロノアの顔を見た瞬間、ヒューイ少年の時間は止まる。その相貌は異様なまでに整い美しい。肌が完全な白なところも相まってまさに人間離れした美しさを醸し出している。ヒューイ少年のように思考を止めた人間は少なからずいる。
そんな彼女がこちらを捉える。
「ん?君、何処かで見た顔だね。う〜ん、どこだったかな?」
と、言いつつ近付いてくる。因みに、周りの視線が彼女から此方に一斉に変わっている。
というか、何気に忘れられてる!?い、いや!ここは、そのまましらばっくれてやり過ごすのが吉か?
「え、えーと。人ちが……。」
「あ、そうだ。たしか君は先日会った冒険者だったな。確か、名前は…………………ショー・ネン君だったかな?」
だ、誰だよ!?ショー・ネン君って!?完全に少年呼ばわり引きずっているじゃないか!?
「え、えーと。僕の名前はヒューイです。ヒュー………。」
「そうか、少年の名前はヒューイと言うのか。取り敢えず、忘れるまでは覚えておくことにする。」
「そ、そうですか。」
もう、微塵も覚える気の無い言い草だ。しかも、このやり取り一回した覚えがある。
何はともあれ、彼女との会話は避けたい。なんというか、僕は彼女が苦手だ。あまり、お近付きになりたくない。
「そ、それじゃあ、僕は行くよ。ちょっと約束があるからね。」
とっとと、話を切り上げて彼女の元から離れよう。周りの視線も痛いし。
そう考え、訓練場に向かおうとするがーー。
「まぁ、待てよ。」
ーーそうは問屋が卸さない。
「ところで、少年。少年は魔術ギルドがどこにあるか知っているかい?」
彼女の質問に何食わぬ顔で答える。
「え?それは、まぁ………。」
そこで、少年は選択を間違えたことを思い知る。なんせ、彼女の口元はニヤリとーーあるいは、蠱惑的にーー嗤っていたのだから。
「少年、実は『私』は魔術ギルドに行きたいんだ。でも、おっさんーー確かギルド支部長だったか……に場所は聞いたんだが。この辺りの地理に疎い身としては道案内が欲しいところなんだ。」
彼女は言う。
「だからな、少年。道案内を君に頼みたいと思うんだ。勿論、引き受けてくれるだろ?」
その蠱惑的な笑みを顔に貼り付けたまま。
「おこーー。」
ーーとわりします。と、続けたかったのだが。
「勿論!命の恩人の頼み事だ。引き受けない訳ないよな?な?」
「……………………………はい。」
彼女は有無を言わせなかった。
多分、僕は彼女のこの有無を言わせない傲慢で理不尽なところが苦手なのだろう。
「お!いたいた!坊主!お前来んの意外に早いな。」
なんという絶妙なタイミングでのフランツさん登場。僕は彼に視線で助けを求める。
「おっとぉ、隣にいるのはこの前の嬢ちゃんか!なんだよ坊主。お前結構隅に置けねぇな!」
違う!僕は今助けを求めてるんだ!
「隅にどうとかはともかく、『私』は少年に道案内を頼んでるんだが、おそらくアンタとの約束で渋ったんだよ。」
と、クロノア。
「お、そうかそうか。別に俺たちの約束は今日だけじゃねぇんだ。案内くらいしてやんな、坊主。」
この瞬間、退路も救助も絶たれたことを理解した。
「ーーと、いう訳だ。頼めるよな?」
「…………………………………………………はい。」
彼女は僕を引き連れて出て行く。僕はフランツさんを睨む。だが、件のフランツさんは右手は握り拳に親指を立てている。さらに、ウィンクまで付けて。
…………あの人。完全に自分が良いことしたとしか考えてない。
駄目だ、コレは。
ヒューイ少年は最後にそう呟き、彼女を追って、ギルドを出て行った。
ども、ハルです。今回はちょっと予定を一時間程遅れてしまいました。すいません。
ま、その分いつもより、長く書いたけどね!
最近は2000文字超えない程度だったのに今回は久しぶりに4000文字超えです。意外に書けるもんだな。
そういや、前話だったか前々話だったかに少年の描写に慣れない敬語と書いてたけど、んなことないこと完全に忘れてマシタ。、ア、ハ、ハ!
早いトコ直しておきます。
では、次回で会いましょう!では!




