なんだかんだで数学は役に立つ
ーー全員が港公園に戻ると互いの情報を交換し合う、なんでも、全部で五つの門から十二台の馬車が出て行ったようだ。
やばい…果てしなくやばい…仮に全部の馬車道を行くとすれば五チーム必要だ、あいつらの中には他の異能者も居るはずだ。つまり、一般人である憲兵の協力を仰ぐことは不可能だ、となると、人数不明の敵地に乗り込むのに一人や二人で行くのは危険すぎる、もう日が傾き始めているこの時間帯に仕事をしていない異能者は、もともと休みの奴ら以外は僕たち以外ほとんど居ないだろう。
「どうするよ?トオル?」
「まって、今考えてる」
「俺たちだけじゃあ全部回りきれないぜ?」
やばい…やばい…非常にやばい…
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ……
「無理だ…思いつかない…一台や二台ならともかく、その数を僕らだけでどうにかするのは絶対に無理だ、少なくとも敵のアジトに乗り込むのに一人や二人で行くのもきけんすぎる。だから…ここは…もう…」
完全に積んだ……なにかあるはず…考えろ!考えろ!
そうだ!雨!確かこの世界も地球と同じような構造をしているってさっきの本に書いてあった!
天気は西から東へ向かって変わるから、ええと、奴らが気づかなかった、かつ、降り始めてから三十分後に来たってことは…馬車の平均速度が時速20キロ、そこから考えて、まず…ええと…雨が見えないのに途中で追いついたってことは…あの日の風の強さからして雨雲の速さは時速40km、雲が見える距離は、曇っていたし20kmくらい、つまり、曇りの空から、雨に追いつかれるまで…一時間、それを足してここから一時間半くらいの距離ってことだ!
「憲兵さん!地図を!」
「はい!これです!」
「ええと、この街の西にあってここから馬車で一時間半の距離、大体30kmの場所に人が住めそうな場所はありますか?」
「なぜそんなピンポイントに?」
僕はさっきの考えをみんなに伝える。驚かれはしたが、納得はしてくれた。
ーー「ええと、ここですかね、ここに廃墟地帯があります。昔伝染病が流行ったとかで、村人全員が死んでそれ以来誰も近付こうとはしていません。」
「行くぞ!」
ガリルの声で僕たちは動き出す、憲兵にこの街に一番だという駿馬の引く馬車を用意してもらい急ぐ。予定では一時間半の道のりのはずがほぼ一時間で到着した。
ーー「フレッド!偵察してきてくれ、運転手さんは馬車とともに安全なところへ、僕とガリルとカレンはとりあえずそこの岩陰で待機していよう。」
「オーケー、ちょっとまっててね。」
そう言うとフレッドは姿を消して偵察に行く
五分程するとフレッドが帰ってきた、どうも中には二十人ほど居るらしい、そのうち何人が異能者なのかはわからない。アンジェリカさんの周りには見張りが三人居るらしい
さすがに二十人はきつい……一体どうするべきか…仮に僕らが奇襲を仕掛けても全員を一気に制圧は出来ない。少なくとも命に関わるレベルの反撃は食らうだろう…
そうだ!
「カレン、例の穴はどれくらいの距離を空けられる?」
「今は大体十メートルってところよ。」
「僕の異能やガリルの射撃はそこを通ることが出来るかい?」
「ええ、出来るわ。」
「それじゃあ、作戦を聞いてくれ……」
ーー「本当に上手くいくのか?それ。」
「時間が無いしトオルの案で行こうや、フレッド」
「私もそれがいいと思うわ」
「ハア、やってみるか!」
「それじゃあ行こう!」
まず僕らは二手にわかれる。入り口側と逆の壁側。
僕とフレッドが入り口側で、ガリルとカレンは壁側。
まず僕が四つのナイフを作り出し突っ込む、それと同時にフレッドは壁伝いに姿をけしてアンジェリカさんの元へ向かう。
僕はわざと一本のナイフを外して壁に突き刺す、そして消す、これによってカレンの異能の弱点、見えているところにしか発動できないという制約を取り払う。
空かさずガリルが六発発砲、それと同時にガリルの射撃の直線上に被らないように僕は壁に向かって走る。これで奴らの意識を完全にこちらに集める。ここに居る残りは十二人。
僕は一つの刀を作り出し、残りの三つの球体を防御に回して自ら突っ込む、この程度の操作なら今の練度なら二、三分は維持できる。
その間にも適当な場所に作られた出口からひたすらに銃弾は発射され、僕の攻撃と相まってひたすらに倒れていく。
ちょうど残りが二人の異能者と三人の一般人になったところで、見張り役が一人を残しこちらへとやってくる、どうやらこの二人も異能者のようだ、さすがに四人を相手することはちときつい、仕方ないので現在の練度の限界である七つのナイフを作り出し撃ちだす、頭が痛い、どうやら異能者がまだ三人立っているようだ。
だがそのころ、見張り役を背後からサクッと刺してアンジェリカさんをきゅうしゅつしたフレッドの姿が見える、僕は残る気力を振り絞り、ガリルたちの援護を受けながらひたすらに出口まで走る。
出口を出ても追っては来たがそこはガリルが直に一人一発で仕留めてくれた。
「フゥ、疲れたわ〜」
「いや、お前一番動いてないだろ?」
「アハッ、バレた?」
「まあ、いいじゃねーか、アンジェリカさんはたすかったんだしよう?なあ、トオル?」
「あっ、あぁ…」
息切れが激しい、オーバーヒート一歩手前まで行った代償か。
「あっ、あの、ありがとうございました!」
「いえいえ、いつものお礼ですよ。」
ーー馬車に揺られて一時間、その門のあたりには数十人の協力者や知り合い、それにいくらかの憲兵とカフェのマスターであり父親の彼が別れが待っていた。
「お、おかえり!アンジェリカ!」
「ただいま…お父さん…」
「そして、ありがとうございました、みなさん!」
「いいってことよ!」
「ええ、当然のことをしたまでですわ」
「ああ、そんなとこだな?」
「だな」
何でも今度来たときはただでご馳走してくれるらしい、何ともありがたい。
「あー取組中のところちっとわりぃが、良いか?俺はおまえたちの所属しているギルド、海賊たちの酒場のマスター、みんなからはミスターパイレーツと呼ばれている。」
「ま、ますたーが何のごようでしょ、しょうか!」
きょどるフレッドと僕、対して以前からの知り合いであろうガリルとなぜだかわからないがカレンは敢然としていた。
「この後ギルドに来てもらえるか?ちょっと話がある。無論、悪い話ではない。」
「はっ!はい!」
僕はそう返事をした。




