episode38-2『ナガレ』
episode38-2
『ナガレ』
[part4]
『深度1・集合住宅(高層マンション)エリア』
null達はソラが観測したノイズの足跡、痕跡を頼りに階段を下り続けるが……途中から階段の底が無くなっていた。
ウミ「無理だ……」
ソラは陥没した階段の深淵を覗く、やはり深淵のみ。しかしカメラを構えて撮影すると、目元が無い人の巨大な顔がこちらを笑顔で覗いていた。不気味なくらい歯並びが綺麗だ。
ソラ「落ちちゃ……ダメな奴……」
nullも頷く。ソラは迷い人の足跡を撮影して探すと深淵へ向かっている。
ウミ「なんだよこの矛盾……」
困り果てた表情の彼。するとnullが提案。
null「ソラ、カメラの設定でISO(明度)を上げて撮影して?痕跡の先がどうなってるかを確認したい」
ソラは言われた通りに設定を弄り、再び撮影。
写真は巨大な顔以外にも写真全体を覆うぐらいの大きすぎる人の目が2つ、こちらを睨んでいた。
ソラ「酷い写真……」
nullがデータを確認すると。
null「あったあった。ノイズの痕跡の先に空間が歪んでいる」
ウミ「……なんだそれ」
null「移動ができる。迷い人はその先にいる」
ウミ「ま、マジか……」
null「てことで、ジャンプ」
nullは歪み空間へとダイブする。ソラやウミも慌てて実行。
気がつくと3人は真っ暗な廊下。nullがライトを照らすと高層マンションの廊下のようだ。玄関のネームプレートは……。
null「2306号室」
ソラやウミも周囲を見渡す。正直同じような廊下で場所がよくわからない。
ソラ「どこかのマンションの23階です……ね」
ウミ「A〜E棟ぐらい……もっとあったな……まあいい。痕跡を……」
ソラは廊下を撮影。一番奥の部屋へと人の痕跡、ノイズが写し出された。null達は速やかに部屋へと進み、ドアを開けた。
ドアを開けると薄暗い間接照明が点々と設置されているオシャレな部屋がnull達を迎えた。ノイズの痕跡は寝室に。ソラは寝室を開ける。
大きなベッドとブラウン色のナイトテーブル、床下のオレンジ色の間接照明。何故かカーテンは開いており、夜景が一望できる贅沢な一部屋であった。そのベッドに少女がスースーと声をたてながら眠りについてる。
ソラ「迷い人……?あ、かわいい……」
少女は肩につくぐらいの茶髪のセミロングで髪質がきめ細かい。ソラの髪質に近い。格好は青いロング丈の冬服用のワンピースで小柄。身長は150cm代(ソラと同じぐらい)、外見年齢は15歳程。
ソラは3秒ですぐにカメラに収めた。ウミは呆れてる。
nullが鉄の棒を2つ生成し、カンカンカンカンとお互いを叩いた。
カンカンカンカン!!!
少女「うさッッッ!!」
飛び起きる少女。ものすごい顔が歪み不機嫌になっている。
少女「なに!!?うっさ!!マジうっさい!!」
null「おはよう、ようこそ」
少女は首を傾げる。しかし、すぐにベッド周囲に何かを探す。
少女「スマホ!……あー!スマホ!!……あった」
少女は自身のスマホを掴み電源ON、時刻はエラーなのか表示されてない。
少女「ちょ!?充電……!?」
充電は100%。
少女「オッケーオケー」
null、ソラ、ウミ「…………」
一同が黙ってると少女はキョロキョロと周りを見つめる。様子がおかしい。
少女「え?ウソ?マジ?どこ?ちょ!どこ!?(笑)」
どこか現実離れをしたリアクションをする。
ウミ「あーお前さ、寝る前どこにいた?」
ウミの質問。少女はウミを見て……。
少女「誰?え?ちょっと誰!?(笑)」
少女「(ウミを見る)ヒョロ……!(ソラを見る)え?地雷系?(nullを見る)……んん?」
ウミ「おいおい、ちょっと聞けよ?」
するとようやく茶髪セミロング少女は冷静になる。
少女「……ここ……どこ?あんた達誰?」
少女はそう問いながらスマホをチラチラ見つめる。
ソラ「あの、すみません。ちょっと信じないと思いますが、ここは別世界でして……」
少女「(ソラの服をジロジロ見ながら)いや、あんたのほうがもう別世界(笑)……」
ソラ「えぇ……?」
nullは窓越しに夜景を見つめる。空の五芒星が完成しかけていた。
null「ソラ、ウミ、どうする?帰る?それとももう少し探索する?」
ウミはため息をする。
ウミ「これもう帰ったほうがいいだろ(諦念の意)……もうこの場所は諦めよう……」
ソラ「……そうですね」
null「了解、少女を連れて喫茶店へ帰る」
転移能力を展開するnull。
null「はぁ……」
ちょっとどこか残念そうにため息をしたnullだった。
[part5]
nullの転移移動能力中、辺りは闇。その中に4人がいる。そして青いワンピースの少女はスマホを鏡替わりにして自身の顔を見つめている。
少女「え?マジ……ノーメイクじゃん……!うわぁ……うっそ……マジでー?」
スマホに写る少女は人形のように綺麗に整った幼い顔。その光景を歪んだ表情で凝視してため息をする。
少女「サイアク……」
ソラが落ち込む少女を見て話しかけた。
ソラ「化粧いらないですよ!美少女じゃないですか……?かわいい……」
少女「……は?」
少女はソラを睨む。
少女「あたし、20(ハタチ)なんだけど……」
ウミ「え?」
思わず目を擦り再度確認するウミ。
ウミ「俺らと同じ歳ぐらいじゃ?」
すると少女が腕を組んで2人を見下す。
少女「ガキ?高校生ぐらい?」
ソラは頷く。
ソラ「15です。隣の人も……」
隣とはウミのこと。ウミも少し態度を改めた。
少女「ふーん」
少女はどこか背伸びをしている。
少女「A大(都内の有名大学)通ってるけど……みんな、知らないのー?」
null「知らない。終わり」
nullが淡々と話をぶった切る。
ウミ「まあまあ……A大かぁ。東京の有名所じゃん」
ソラ「A大……って主食が……サラダの大学です……よね?」
すると少女がどこかスイッチが入る。
少女「サラダ?ケンコーじゃん?毎日食べてるよ?なに?肉食わなきゃ死ぬの?あーあんた達若いガキだし、好きなモン食べれるし……」
null「会話終了。喫茶店着いた」
目の前に古風な喫茶店。焦げ茶色をテーマカラーにしておりオレンジの照明が暖かい。そうここはpoint nemo。
少女は露骨に目を大きくさせて、スマホを構えて撮影。そして撮影に今度は喫茶店を背景に自撮り。そして……SNSに投稿。
少女「は?アレ?電波は?死んでるし(笑)」
ソラ「ここはネット繋がらないんです……」
少女「はぁ!?クソじゃん!WHITE(SNSのアプリ)は!?」
ウミが首を横に振る。少女はSNSをスクロールするが更新はない。
少女「アップできないし……はぁ……うざ」
するとnullが。
null「喋り続けないと死ぬ病気なの?早く入るよ?」
喫茶店に入ると店主のrecefiaがカウンター越しに佇んでいる。
recefia「来客ね」
少女は周りをキョロキョロと凝視し続ける。そわそわしてて落ち着いてない。
少女「あ!写真撮っていい!?」
店主は答えない。そして厨房に入る。少女は窓越しのテーブル席に近づき……
少女「地雷系……ちょっと来て?」
ソラ「じ、地雷系じゃ!?名前はソラです」
少女「あたしはナガレ」
ソラ「ナガレちゃんですか……」
ナガレ「はぁうざぁ!ちゃんとかマジで……もう……マウント?」
ソラ「えぇ!?」
ソラは困惑している。
するとナガレはソラの服を引っ張り無理矢理窓越しのテーブル席に座る。そして……。
ナガレはスマホを取り出し、ソラを含んだ自撮りを始める。
ナガレ「『この喫茶店カワイイ〜!めちゃオシャレ〜!隣の子もカワイイ!』
……よし!このポストを!!?」
一同「………………」
ウミが沈黙を破った。
ウミ「だからネットねーって……投稿できねーよ……」
彼はもう呆れているようだ。ナガレはウミから発した現実を受け入れられない。表情は完全に青ざめている。
ナガレ「ウソ……?マジで?できないの?」
nullがテーブル席に身体を添える。
null「あのさ、ここ現実と別の世界だから。なんか勘違いしてるみたいだけど……とりあえずハタチにもわかるように説明するけどさ」
ナガレ「はぁ?宗教?胡散臭そう……宗教とか知らんし……」
ウミ「いいから聞いてくれ」
ナガレ「はぁ」
ウミの圧でようやく大人しくなったナガレ。
nullは説明をする。DDS、現世、迷い人、グリッチ因子、そして脱出方法のことを。
ナガレは……ふつーにスマホを弄ってる。
null「聞いてる?」
ナガレ「あ、うん」
ナガレは席を立ちあがる。
ナガレ「やっぱおかしい……通報するわ」
ウミ「へ?」
ナガレはスマホで電話を掛けようとするが、当然繋がるわけがない。
ナガレ「電波さぁ……マジクソなんだけどぉ〜」
ナガレはため息をした。
ソラ「な、ナガレさん!あなた用の部屋もこの喫茶店にありますから……!一旦休みましょう!!」
ナガレ「は?どーゆー構造なの?意味不明」
ウミは彼女のマイペースさに呆れていたが、若干同情をする。
ウミ「(そっか)」
ウミ「(俺達も……最初はこんなんだったな……)」
するとrecefiaがマグカップとサンドイッチが入った皿を載せたトレイを運び、ナガレのいるテーブルにゆっくりと添えた。
recefia「お代はいらない」
recefiaはすぐに厨房に入った。ナガレはとりあえず着席。
ナガレ「え?撮っていい?」
null「いいよ」
ナガレはスマホを取り出してサンドイッチと豆乳ラテの匂いが漂うマグカップを撮影する。
ナガレ「よし!」
ナガレはスマホを弄り待機。
ウミ「食べねーの?」
ナガレ「ダイエット中だし〜」
ソラ「大丈夫ですって!この世界は肉体は無いので太らないですよ?」
ナガレは露骨に嫌がる。
ナガレ「ちょ待って……みんなヤバい人しかいないんだけど(笑)」
ナガレはまだこの現実を受け入れてないようだ。
ナガレ「地雷!ちょっと!!キチョーな女子!何とかして!」
ソラ「え?null君は美少女じゃ!?」
ナガレ「意味わかんない奴だからあんたしかいなの!ソラだっけ!?なんかないの?」
この状況では収拾がつかないのでnullがソラに指示を与えた。
null「ソラ?君の部屋に彼女連れてって……ちょっとトークして?」
ソラ「えっ!?そんな!トークですか?」
null「ガールズトークって奴……男性陣の耳には入らないシークレット悪口だよ」
ウミ「そんなやべぇ話してんのか……女子達は……」
ウミは髪を搔いてどこか気まずそう。ソラは頷いてナガレを招き、2階へ向かった。
[part6]
ソラの部屋(ゲーミングチェアーやモニターだらけのゴツい部屋)に招いたソラ。ナガレはちょっと……というかかなり引いている。
ナガレ「ナニコレ……」
ソラ「あ、わ、私の……部屋……です」
ナガレ「え?なんでこんなにモニターが?」
ソラ「あ、同時配信とかを見る……」
ナガレ「配信?You◯uber?、Tik◯ok?」
ソラは目を泳がせながら答える。
ソラ「そーゆーの……です」
ナガレ「…………」
ナガレはソラのクローゼットを見る。
ナガレ「中見ていい?」
ソラ「大丈夫です」
ナガレはクローゼットを開けるとフリルやリボン塗れの服が大量に入っていた。
ナガレ「ちょ!なに?え?怖ッッッ!」
ソラ「そんなに!?」
ナガレ「ふつーの服は!?」
ソラ「いえ、ソレが普通で」
ナガレ「え?……」
ナガレは大量のロリィタ服を見つめる。そしてどこか引っかかったような記憶が蘇る。
ナガレ「(少女服……)」
ナガレ「(……『いい歳こいて?』)」
ナガレ「(……なんか、昔を……思い……)」
しかしそこまでだった。
ナガレ「はぁ……」
あまりの現実感のなさにため息まじりの声が漏れる。
ナガレはクローゼットを閉じようとした時にとある1つのロリィタ服に目を止めた。
ナガレ「なに……これ……」
目に入ったのは、緑と白の布地で作られた長袖のロングワンピース。まるで19世紀の貴婦人が着ていたような上品なドレス。襟元や袖のところどころには繊細なレースがあしらわれていて、細部にこだわりが見える。
ナガレ「(これ……着てる人いるの?本気で?)」
内心そう思いつつも、どこか惹き込まれてしまう美しさがある。
編み上げレースアップで……ドレスの一番上、胸元が紐でしっかり結ばれているのに気づく。クロスした紐は蝶々結びになっていて、リボンを飾りにしたみたいな……というより、本物の紐で直接縛ってる印象。古めかしいけど妙に洒落てる。
スカートの裾の方をよく見ると、何重にも重なったフリルと、少しざらっとした感触の粗めのレースが施されている。
袖は手首の部分がぷっくりと膨らんでいて、まるで袖の先に小さな風船がついているみたい。手を通したらきっと華奢に見えるんだろうな、とちょっと羨ましくなる。
結論から言うと、モスグリーンとアイボリーカラーのクラシカルロリィタ服―――ナガレからの印象を言語化するとその答えにたどり着いた。
ソラ「それ、IW(ロリィタ服のブランド)で買ってくれました服です。シンプルですが洗練されたデザインですよね?」
ナガレ「あ……まぁ……」
ナガレは正直、心の奥に微かだがときめきのようなものを感じてしまった。
そして……。
ソラとナガレの沈黙。
ソラ「(キラキラしてます……ま、眩しい……!)」
ナガレ「(この子ってなんだっけ?オタサーの姫?あーでもその表現古いかー)」
ナガレはソラの部屋を確認しているとテーブルにこれまたゴツいカメラが置かれていた。
ナガレ「カメラ?」
ソラ「あ、それ……趣味で……よく撮るんです」
ナガレ「ふーん。ちょっと触っていい?」
ソラ「あ、いいですよ」
ナガレはボタンだらけのカメラを手にして様々な角度で凝視。
ナガレ「うわー……ボタン数(笑)……これ使ってるの?」
ソラ「はい……」
ナガレはカメラをテーブルに戻す。
ナガレ「スマホでいいじゃん」
ソラは少し長考をして答える。
ソラ「楽しいですよ?色々弄れるんで……」
ナガレ「えぇ?だってiP◯oneとかメチャキレイじゃない?」
ソラ「う、うーん」
ソラは内なるカメラ熱を抑えて冷静に返答。
ソラ「確かにスマホは手軽に撮れるのでSNSでアップとかは良いと思います」
ナガレは眉を潜めた。
ナガレ「てかSNSに投稿以外撮る意味無くない?」
ソラ「え?撮ったの見ないんですか?」
ナガレ「メンドクサ……」
ソラは写真趣味の人との共有は難しいと感じた。そしてソラは本題に移行する。
ソラ「過去の記憶ってあります?」
ナガレはベッドに腰をかけて考えるが。
ナガレ「ほとんど無いケド。いやさ、ここトーキョーじゃないの?」
ソラ「あ、いえ、先程みなさんが話した通りです」
ナガレ「…………」
ナガレ「夢かなぁ〜」
結局、ナガレのたどり着く答えがそれ。
ソラ「(うーん、どうすれば……信じて)」
ナガレ「夢……かぁ〜」
ナガレは色々長考をし始めた。空を飛んだり、自由に動きまくったりと……妄想を始める。
ソラ「あの……」
ナガレは現実に戻る。
ナガレ「なに?」
ソラ「ナガレさんの個室があるので、一旦、そこで休憩しましょう」
ナガレ「ホントに?案内してよ?」
ソラは頷き、自室から部屋を出て廊下から空き部屋へとナガレを案内する。
ソラ「この部屋です」
ナガレは疑いながら室内へと入り込んだ。
ナガレ「じゃあ寝るわ……」
ソラは軽くお辞儀をしてその場を離れた。
[part7]
ナガレは部屋一面を眺めると一言呟く。
ナガレ「地味……ビジネスホテルじゃん」
その部屋は必要最低限の家具しかなかったからだ。鏡やクローゼットは用意されていた。
ナガレ「アメニティアメニティ!」
化粧台の引き出しを開けると何も入ってない。
ナガレ「はぁ……?うっざ!」
ナガレ「あそうだ!服!着替えたい!外用と部屋用、あと……通学用?」
クローゼットを開けるナガレ。
そこにはナガレが求めるような服は一切なかった。
モスグリーンとアイボリーカラーのクラシカルロリィタ服―――以外は。
episode38
END




