episode39-1『人形』
episode39-1
『人形』
[part1]
モスグリーンとアイボリーカラーのクラシカルロリィタ服。その服のみがクローゼットに収納されていた。
ナガレ「なんで……?」
言葉が見つからない彼女。すると湧き上がる得体の知らない嫌悪感に襲われる。動悸が激しくなる。心の中で文字として現れたのは『恥ずかしい、ダサい、いい歳こいて』
ナガレ「(キモ……)」
心の自分に言った言葉。
しかし、ナガレは手を差し出しロリィタ服に触れていた。生地が滑らかかつしっかりしていて触り心地に魅了される。姫袖のフリル、紐で結ばれたリボン、フリルが重なり合うスカート部位へと次々を触れる。ナガレの手は止まらなかった。
ナガレ「は?……もうやめ……!」
ナガレは無理矢理口を開いて行動を制止に走る。すると信じられないことが起きた。
身体は軽い。この不思議な世界だからか。しかし、気がつけば青いワンピースから彼女はモスグリーンカラーとアイボリーカラーのクラシカルロリィタ服を着用していた。
ナガレ「え?」
理解が追いつかない。頭部には緑色のボンネットを被り、首元でリボンで締めている。スカートはAラインと言われる形程度にふんわりと広がっていた。
ナガレは違和感にすぐ気がつき、スカート付近を確認するとスカート中にパニエ、膝丈ドロワーズを履いていることに気がついた。
ナガレ「なんで……?なんでもう服を!!?」
ナガレの困惑は止まらない。知らない内に自身の服が変わってきたからだ。
ナガレ「……サイアク!!こんな服!何やってんのあたしは!!キッッッモ!!すぐに!!」
ナガレは部屋を歩きながら自分自身にキレ始めるがふと、鏡に写る自分を見る。クラシカルロリィタ服を着た少女がこちらを見つめている。どこか人形のような……。
ナガレ「なにこれ……」
ナガレ「……」
ナガレは……このドレスを纏った自分に見惚れていた。なぜかはわからない。ただ、今まで自分が欲しかったモノ……を体現しているような。
ナガレは今までとにかくドーパミンを求める生活を送っていた。SNSからの承認欲求、周りが自分を肯定してくれる、社会が自分を認めてくれる……それらの行為を生きがいとしていた。
ナガレ「人形が……いる」
ナガレは鏡に向かってそう呟く。
ナガレは余韻に浸る。
これは例えると塩や油を摂取したような瞬間的な幸福ではなく、極上の砂糖を直接脳へと送られたような甘過ぎるどこか背徳的な幸福感。
20歳、
大学生、
社会人、
自立、
大人、
評価、
……それらを全てを甘すぎる砂糖(ロリィタ服)で上書きされたような……ベールが剥がれたような感覚。
ナガレは本能のままに鏡に頬をつけた。今までやれ男性と付き合ったり破局したり、また男を求めたりと繰り返す自分を遠くの彼方に置いて、この鏡の女の子を抱きしめたいと思ってしまった。
しばらく、鏡に頬を触れてたが高揚感と疲労感が同時に襲ってきたのでその格好のままベッドへ吸い込まれる。
バフッ。
マットレスが仰向けの身体を包み込む。その際、パニエで広がったスカートが半円の如く広がる。ベッドに服が密着することでより服の生地が肌に伝わり、砂糖という名のモスグリーン、アイボリーカラーのクラシカルロリィタに包まれていた。
ナガレ「……かわ……いい……?」
ナガレ「うん……かわいい……」
目を見開いたまま天井を覗く。
ナガレ「(時間、永遠に止まって……)」
ナガレ「(お願い……)」
彼女の願いは叶うことなく、夢の世界へと引きずられた。
[part2]
『そんなモノ!恥ずかしい!!絶対買わないからね!!?第一高い!10万!!?この前、スマホを買ってあげたでしょ!!?ダメよ!!!?絶対ダメ!!』
親からの怒鳴り声が夢の中でこだまして、そして飛び起きるナガレ。場所はやはり、ベッドとホテルのような簡素な部屋……そしてクラシカルロリィタ服を着ている少女の自分。
ナガレはふと過去を思い出す。
酒に走り、男に走り……朝、ベッドで後悔。
ナガレ「男はいつも……!」
『かわいい』
『かわいい』
『かわいい……』
『かわいい……!』
その度に自分の身体を激しく憎んだ。大人の女性としての条件を満たせない身体だったから。
でも今日の朝は違う。
親も腐れ縁の友人も男もいない。自分だけしかいない空間。今、状態はベッドの上でボンネットが少しズレて、スカートが少し変な方向に偏っただけのロリィタ服の自分。
ナガレ「違うんだ……」
違うとはこのような服装を着る人の考え方。
ナガレ「ソラ……あの子は……あの服装は、他人に好かれる為の服じゃない……」
ナガレ「自分が自分を好きになる為の服……」
妙な幸福感に包まれている朝。
しかし、彼女は様々な経験から憶測が過ってしまう。
ナガレ「こんな見た目で……こんな服着ちゃ……絶対変な男寄ってくる……!!」
ナガレ「そーやって……あたしを◯◯扱いして!!」
ナガレ「……むり、ムリムリムリムリ!!」
ナガレ「キモい……キモい!!!」
再び嫌悪に浸ってしまう。彼女にとって『気持ち悪い』という言葉はロジカルではない。生理的嫌悪からくる防衛本能。
ジリリリリリ!!
ナガレの個室に置いてあった受話器からやかましい音が部屋に響き渡る。
ナガレ「はぁ!?」
せっかくの幸福感が台無しになりつつも、電話を取る。
ナガレ「なに?」
null「集合できる?1階の店内に?」
ナガレ「……え?……あ」
彼女の今の格好は……彼女は思考が止まる。
ナガレ「…………」
null「できる?できない?」
ナガレ「あのさぁ、化粧してるから待ってよ!」
null「……了解。終わったら来て」
ガチャン。
ナガレはため息をする。結局、服を着た所で洗濯や汚れを気にしたら、現実が見えてくるからだ。そして今、この姿を他人に見せるわけにはいかない。
ジリリリリリ!!
再び電話が。
受話器を取り、ナガレ、怒りの一撃。
ナガレ「またぁ!!!?」
null「そうそう……化粧もそうだけど、この世界、服や身体の汚れもないし、再生するから新品ほやほや状態なんだよね……シャワーも実質必要ない」
ナガレはその話を聞いて頭の中で若干受け入れなかったがとりあえず怒りをぶつける。
ナガレ「女の子の都合がある!以上!!」
ガチャン!!
ナガレはとりあえず怒りを押さえて、髪を触れてごまかした。
……確かに髪は汚れてなかった。因みに服も肌も。nullが話していた、魂だけの存在(迷い人)は本当だった。
それでもナガレは服や身体を疑う。なので再びベッドへ。
今度はシワだらけになるぐらい、服が乱れるぐらいにベッドで左右にゴロゴロを始めた。
ナガレ「……なんか、面白……」
この服装なので案の定、乱れまくり。ふわっとしたスカートが楽しげに踊り動いた。
ナガレ「へー」
ナガレは誰もいないのとすぐに新品状態に戻るので、服を気にせず自由に動くことに新鮮味を感じていた。
ナガレ「あ、ガチで戻るわ(笑)……」
気が付けば……ボンネットはベッドから飛ばされるわ、綺麗な茶髪が顔に降りかかるわで傍から見たら「何やってんだこの人」状態であった。
ナガレ「ウケる(笑)!!」
自分で自分へとツッコむ。ふと鏡を見るとそこには今までの表情では見たことない……否、懐かしい表情を浮かべていた。
ボサボサの髪と、優しそうな無垢な笑み。
ふと気が付けば、ナガレの服装は青いワンピースに戻っていた。それは再び現実が覗いてきた証拠。
ナガレ「はぁ……ダル」
ナガレは自室の玄関を開けた。
episode39-2に続く




