episode35-2『決意』
episode35-2
『決意』
[part7]
夜が明ける前の時間帯、ウミは自室のベッドに横になっていた。窓を見ると外が少し明るくなっており、吹雪で視界不良。とても出歩ける環境ではなかった。
コンコン。
ドアのノック音。
ウミ「ん?」
こんな時間に?と思ったウミ。ドアに近づく。
「開けて」
弱々しい細い声。
ウミはすぐに察した。ナギだ。
ナギ「開けて……?」
ウミはドアノブに手をかける。廊下には虚ろの状態のナギが立っている。
ウミ「おい、大丈夫か?」
ナギ「…………」
ナギは黙ったまま。
ウミ「…………」
すると突然ナギはウミの手を掴み、廊下に連れてかれる。
ウミ「おいおい……!」
ナギは無言のまま、彼の部屋にウミを招いた。
ナギの部屋は荒れていた。床やテーブルに飲み薬が散乱している。ベッドには注射器が。
ウミ「やっぱり、オーバードーズしてたのか……」
ナギ「…………」
ナギは俯く。ウミはベッドに腰かける。
ウミ「その注射器は?まさか……」
ナギ「違う」
ナギはすぐに否定をする。
ナギ「血液を採取してる……私の血を」
ウミは目を細める。
ウミ「なんで……?」
するとナギは注射器を使って血を採取し始める。ウミは黙って見続けている。そして――。
ナギは血液入りの注射器を自分の目に…………。
ウミはすぐに手を掴み静止させた。
ウミ「ダメだ!そんなこと!」
ナギ「甘いよ?」
ウミ「は?」
ナギ「これ、すっごく……甘い……心が甘くなるんだ……メロンクリームソーダより……」
ウミ「…………」
ウミは手を震わせる。
ウミ「どうしちまったんだよ……?昨日は元気だったじゃねーか?……それとも……?」
ナギは俯いて返事をする。
ナギ「そう……」
ナギ「……耐えてた」
ナギは不敵な笑みを浮かべた。そしてゆっくりと語り始める。
ナギ「全部、思い出しちゃった……」
ウミ「全部……記憶を?」
ナギ「…………」
ナギ「…………遊園地のミラーハウスの件。鏡に写った自分……覚えてる?」
ウミは少し気まずい表情のまま相槌する。
ウミ「ああ」
ナギ「私は……血塗れの自分が写ったんだ……」
ナギは遠い目をしている。
ナギ「その時、全部思い出しちゃった……」
ナギの手が震え始める。
ナギ「私……『とっくに死んでた』」
ウミ「……え?」
ナギ「現世の私は過剰すぎる薬物摂取で緊急入院したんだけど……そのまま……」
ウミは表情が固まる。
ウミ「ウソだろ……」
ナギ「肉体は死んで……魂だけこの世界に来たみたい……」
ナギは薄ら笑う。
ナギ「もう……居場所なんて……なかった」
ウミ「………………」
ナギ「帰る……場所も……ないよ……」
ナギの掠れた嘆きの声がウミに響きわたる。
ウミは何も言えなかった。どうすることもできない。
ナギ「ねぇ?……今日、すごく……寒い……雪も降ってる……」
ウミ「…………」
ナギ「一緒にいて……ずっと、一緒に……」
ウミは立ち上がり、
ウミ「ソラやnullに相談……」
ナギ「ダメ!!!」
ナギが力強い声で反論する。
ナギ「お願い……夜が明けるまででいいから……それだけでいいから……」
ウミ「…………でも」
ナギ「…………お願い」
ウミは再びベッドに腰かける。隣にはナギがいる。
ナギはウミの身体に身を寄せた。
ウミ「…………」
ナギ「足りない……足りないっ!もっと欲しい……甘いモノ……甘い……甘い甘い甘い……」
ウミ「ナギ……」
ナギは寄り添いながら話す。
ナギ「何が足りない……の?……私に足りないのは……何?……なんで私は何もかも中途半端なの?……ねぇ?なんで?……ただぬくもりが欲しいだけなのに……」
ウミ「…………」
ウミ「お前はちゃんとしてるよ……」
ナギ「違う!違う!!結局どこか私に距離を置いてる!みんな!誰もが!異物!化け物!私なんて化け物……だよ……」
ウミ「そんなんじゃ……」
ナギはベッドのシーツを強く掴む。
ナギ「なりたい……なりたいよ……!」
ナギ「null君のように超越した存在になりたいよ!!」
ウミ「ナギ?」
ナギ「もう帰る場所なんてないんだから……!だったらもう!」
ナギ「私は……!」
ナギ「……null君のような……『アベンド』になる……!」
ウミ「……なに言ってんだよ……?」
ナギは続ける。
ナギ「性別のない超越した存在なら私を……私を満たしてくれる!みんなが!ウミ君にも振り向いてくれる!!」
ウミ「……ダメだ!それは!!」
ナギ「うるさい!何も知らない癖に!!!」
ナギ「私は!!!」
バリンッ!!
突如、窓ガラスが割れて何者かが侵入する。そしてすぐにナイフをナギに突きつけた!!
ウミ「!!?」
ウミはすぐに気づいた……。
ウミ「null……!!」
null「ソレ言う……?ソレ言っちゃ……おしまいだよ?」
ナギは青ざめた表情で固まっている。nullはナギにナイフをあて続ける。
null「君、悪いけど……出禁。二度と店に来ないで……」
ナギ「…………」
ウミ「やめろっっ!!!!」
ウミは心より身体が先に動いてしまった。nullに近づき、突き飛ばしたのだ。
nullも予想外なのかウミの行動で仰け反る。その隙にナギは…………窓から飛び降りた。
ウミ「ナギ!!」
ウミはすぐに窓に近づくが……nullがウミの手を掴む。
null「彼は侵食が進みすぎてる……やめよう」
ウミ「うるせぇ!」
ウミはnullを振り払い、窓から飛び降りた。
外はかなりの積雪と吹雪。ウミは前方を確認すると……もうナギの姿は無かった。雪道に血痕だけ残ってる……それは点々と奥へと続いている。
nullが窓から飛び降りる。
null「はぁ……」
ウミはnullを見つめる。nullは目を逸らす。
null「いいよ……好きにして」
ウミは再び血痕の方角に向いて悪路の中、走り続けた。
血痕は途中で止まっており、そこには黒いノイズが……DDだった。
DD
『日記』
思念型、テキストファイル
・本当の自分になれる薬についての日記
・自認に苦しむ日記
・ウミへの想いを大量に書いた日記
『初めてウミ君を見た時、恋に落ちた。地味とかフツーとか思ったけど、心は騒ぐ一方。だから私に向いてくれるように自慢の女の子ムーヴをしたんだけど……なんか嫌っぽい。私が男だからかな?でも負けじと接していたら更に嫌われる(笑)』
『ウミ君の行動や心理を観察した。彼は女性のようなキラキラが嫌いみたい……私はダメだったみたい。はあ、メロンクリームソーダ飲みたい……』
『でもウミ君の生き方が好きだ。飾らない感じ、noをハッキリ言える存在。私もそうなりたかった。私なんてブレブレ。男なのに頑張って髪を伸ばしたり、ファッションを勉強したり、あざとく振る舞ったり……でも突然……クソくらえってなったりして……ああ、◯が足りない……』
『◯で充填した。心地がいい……でも最近足りない。もっと◯が欲しいんだ。甘くてドロドロの◯が』
『ねぇ、最低だけど……ウミ君を奪おっかな?そしたら僕……私は女の子になれる。例え生理現象が無くても心を満たされればイチコロだよね?…………何言ってるんだ!!私って最低……』
『null君とウミ君は喧嘩しているけど、仲がいいように見える。ソラちゃんとウミ君も同様。でも私はどこかで壁を感じる。やっぱり、男なのに女の姿な化け物なんだね。無性別のnullくんが羨ましい』
『あー……◯が必要……でも書きたい。想い出を書きと留めておきたい…………でも、でも……でも!!』
『◯が足りない……◯が足りない……ふざけんな。
嘲笑っている……自分のことを、周りが、世界が……なに笑ってるんだよ?……バカがよ…………あーー!自分が憎い!憎い!憎い!!!この身体が憎い!!!オレは悪いんだ……オレが悪いんだよ!オレが悪いんだろ!!テメェらはよぉ!!!』
『◯が足りねぇ!!ナギちゃんモード終わりー!!
はい!◯ね!◯ね!!◯ね!!!みんな◯ね!!!!』
『傷がどんどん……増えていく!!!はははは!!気持ちいいーーねーー!!メロンクリームソーダよりずっと甘いや!!』
『…………もう、私はダメだ。身体も心も。◯を……もっと◯を……オボれて溺れて溺れて……あーー幸せーー』
『もっと、◯をもっと欲しい……欲しい……欲しい……◯……く……◯◯く◯りく◯◯!く!◯!く◯◯く!く◯……く◯◯す◯く……り……く◯……◯◯りくす……◯◯◯◯◯◯!◯◯◯…………◯……◯…………◯……』
ウミはDDを閲覧すると膝を地面につけて崩れる。後ろからソラがやってくる。
ソラ「ウミ君……ナギ君……」
ソラもどこか察したようだ。
ウミ「なんだよ……バカは俺じゃねーか!!……なんで……なんで……アイツのことをもっと……!!!」
ソラはじっとウミとナギの血痕を見つめている。
ウミ「パーティーの時にさ……何もしてやれなかった……アイツ、ずっと耐えてたんだ……」
ウミ「……上手く……いかねぇよ……!なんでこう……上手く……いかねぇんだ……」
ウミは積もった雪を強く握り潰した。
ウミ「アイツ……だけ……じゃねぇ……多分よ……違うんだ!……ツカサだって!……ちげぇんだよ……!」
ソラ「…………」
ウミ「みんなよ……なんで…………」
ウミ「なんで…………いっちまうんだよ…………」
空は明るくなり、吹雪はいつの間にか止んでいた。
episode35
END




