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episode35-1『決意』

episode35-1

『決意』



[part1]


『喫茶店・point nemo』


牢獄に囚われていたツカサはnull達の協力を得て無事に脱出、point nemoへ帰還する。そしてすぐにツカサは2階の自室(個室部屋)に籠り始めた。

null、ソラ、ウミもそれぞれ休息を取る。ソラ、ウミは様子がおかしいナギを心配し続けている。2人はナギの個室に訪れるがドアは開けてくれそうにない。


ウミ「ナギ……」


ウミが切なく呟く。ソラは紙コップに入ったメロンクリームソーダを手にしている。


ソラ「メロンクリームソーダ……玄関に置いときます」


そっと紙コップを玄関下に置いた。



次にソラ達はツカサの部屋に向かった。案外にもツカサはソラ達を招き入れる。


ツカサの部屋はベッド、机、家具しかなかった。彼女はベッドの上に腰掛けている。


ツカサ「何しに……来たのよ……」


ソラ、ウミ「…………」


沈黙の中、ソラが口を開いた。


ソラ「ツカサちゃんは……自分の話をしてくれないのかなって思って…………」


ツカサ「あなた達に話しても……そうね……同情はいらないわ」


ウミ「……そっか。わりぃな」


ツカサは窓側に顔を向ける。どこか黄昏ているようにも見える。


ソラ「あの……」


ツカサはもう一度、ソラ達を見る。


ツカサ「何?」


ソラ「バームクーヘン……用意してますよ?食べます?」


ツカサ「…………」


彼女は押し黙る。そこでウミが口を開いた。


ウミ「バームクーヘンに色々事情、あったんだろ?」


ツカサ「……お見舞いでよく貰ってた。それだけ……」


ソラ達はバームクーヘンのDDが脳裏によぎる。あの邪悪な笑みを浮かべる女性。


ウミ「そうか……」


ソラ「…………」


ソラは少し震えている。


ツカサ「ソラ……」


ソラ「……?」


ツカサ「自分の心配をしなさい。あなた達は庶民。人に手を差し伸べる資格はないわ」


ソラ「……でも」


ツカサ「……大丈夫よ……」


ツカサはそう言って再び窓を見つめた。


ウミがソラの肩を叩く。


ウミ「そろそろ……行くぞ?」


ソラ「……はい」




[part2]


ソラとウミは自室に戻り休息を取る。一方nullは喫茶店、店内で砂糖まみれのコーヒーブレイクをしている。カウンター越しにはrecefia。


recefia「かなりのDDを持ってきたわね」


null「実際、現世はどういう状況?」


recefia「変わらない……前に話した通り……」


null「あーつまり、DDは喫茶店内にプールしてるんだ」


recefiaは頷く。


null「あとどれだけ必要?」


recefiaはカウンターテーブルに片手を乗せる。


recefia「大事なのは数よりデータ量。つまり人の想いの重さそのもの……今回の罪にまつわるDDはかなりのデータを所持していた……人類再建に大幅に貢献できたはず」


null「…………」


nullはコーヒーを一口。


null「業が深い記憶程、良質なDDなんだね」


recefia「……だから闇雲に集めるよりも重いデータを見つけることを専念するのよ……例えば人以外のDDはデータ量が小さすぎてDDすらなれない……DDは全て人が起源なの」


null「知ってる」


recefiaは続ける。


recefia「負の感情を集めたければ戦争関連のDDは一見、効率的に見えるけど大規模な戦争は昔の話……そのDDは恐らく人々の記憶から忘れ去られた忘却型のデータ……ようは」


null「データ量が少ない……ってことね」


recefiaは表情を変えない。nullが話を続けた。


null「データにも賞味期限があるんだね……」


recefiaは頷き、そのまま厨房に入ってしまった。

nullは残りのコーヒーを飲み干した。




[part3]


深夜。


コンコン。


ナギの部屋をノックする音。ナギは反応しない。すると……。


ツカサ「わたしよ」


ナギは予想外の展開に困惑する。


ツカサ「話がある」


ガチャ。


ゆっくりとナギはドアを開ける。そこには黒い三角帽子の黒いドレスの少女が立っていた。


ツカサ「具合、悪そうね……」


ナギ「…………」


ナギは小さく呟く。


ナギ「ツカサちゃんも……だよ?」


ツカサ「わたしはいいのよ」


ツカサはナギの部屋にぐいぐいと侵入した。部屋中に使用済みの飲み薬が大量に散らばっているのと……ベッドに無数の血がこびりいていた。


ツカサ「薬は精神薬……その血は?」


ナギ「…………」


ナギの格好は灰色のワンピースに黒のレギンス。身体に傷は無さそうだ。


ナギ「ちょっと……ぶつけて……」


ツカサ「……嘘つきなさい……」


ナギ「え?」


ツカサ「……グリッチ因子の過剰摂取ね……つまり、自傷してその血を摂取している」


ナギは慌てて弁解する。


ナギ「でたらめだって!!?ショーコないじゃん!!」


ツカサは腰に手を当てる。


ツカサ「ショーコねぇ……」


ツカサ「もうお互い、ギリギリの所まできてるから……わかるのよ……もう」


ナギ「…………」


ナギはじっとツカサの目を見つめる。どこか諦念を感じた表情だった。


ナギ「それで……話って?」


ツカサは真剣な表情で言う。



ツカサ「帰る気、ある?」



ナギには強く刺さった言葉だった。ナギは動揺し震えだした。しかしすぐに笑顔。


ナギ「んじゃーツカサちゃんはー?」


逆に質問。


ツカサは涼しい顔して答える。


ツカサ「…………帰るわ」



ツカサ「もう……こんな世界、こりごり……」


ナギ「…………そうなんだ……」


ナギはツカサの顔を凝視している。


ナギ「……いいの?」


ツカサ「何が?」


ナギ「『それで』…………いいの?」


ツカサは『それで』の意味を理解する。彼女はナギの意図が読めたようだ。


ツカサ「…………いいわけ……ないじゃない……」


ナギ「…………」


ツカサ「けど……『それ』を選ぶ……」


ナギ「…………そっか」


ツカサは更に会話を続ける。


ツカサ「明日、意地でも1階の喫茶店に来なさい」


ナギ「……へ?」


ツカサ「わたくしが……ツカサが帰還することを祝福して?まあ、パーティーってとこかしら?」


ナギ「えぇー!!?」


ナギは困惑。


ツカサ「喫茶店全員を招待させる。『強制参加』よ?」


ナギは俯いて呟く。


ナギ「無理だよ……もう……限界が……」


ツカサ「根性出しなさい……」


ツカサは振り返り、ドアに手をかける。


ツカサ「世話になった人達に筋を……通すのよ?」


ガチャン。



[part4]


ツカサが廊下に出ると小柄な少女寄りの中性的な存在が佇んでいた。


null「やぁ」


ツカサ「…………」


null「もう深夜なんだけど……夜型?」


ツカサ「はぁ……」


nullは手にはマグカップを持ってる……中身は何故かブラックコーヒー。


ツカサ「砂糖は?」


null「たまにはね……まあ手をつけてないけど……やっぱいいや……あげる」


nullがコーヒーを渡そうとするが……。


ツカサ「砂糖……」


null「……ん?」


ツカサ「それ以外、いらねーですわ……」


null「ほう」


null「……君らしい」


ツカサは周りをキョロキョロ眺めて、少し小さな声で話す。


ツカサ「お願いがある」


nullは無表情。


ツカサ「今すぐ、何か小細工……できない?わたしとあなただけで会話できる空間を」


null「……無理」


ツカサ「?」


null「って言ったらどうする?」


ツカサ「しなさい」


nullはスティックシュガーを生み出しマグカップにドバドバ入れる。


null「エモーショナルだね。ロジカルじゃない」


ツカサ「できるの?できないの?」


null「できる」


ツカサ「じゃあしなさい」



nullはコーヒーを一気飲みをする。そして。


null「『不可侵領域』」




[part5]


翌朝、ツカサを含む喫茶店メンバーは店内に集合する。ナギはまだ自室のようだ。


ツカサやnull達はテーブル席に座る。recefiaは仕事中。

ツカサは事情を伝えた。



ソラ「ツカサちゃん……」


ツカサ「二言はないわ」


ウミ「…………そうか」


ソラ達はどこか『素直に送迎ムード』ではなさそうだ。


null「まあ、選んだのは君だから……君の自由だよ」


相変わらずコーヒーをすするnull。するとソラが……。


ソラ「あの、帰る前に沢山写真撮っていいですか!?みんなが写る写真とツカサちゃんソロ写真を沢山!」


ツカサ「好きにしなさい」


ウミは頭を掻く。


ウミ「でもパーティーって何すんだよ……?」


nullが介入。


null「バームクーヘン食べ放題、無制限限界挑戦バトルでいいんじゃない?」


ツカサ「流石に無理」


null「あそう」


ツカサは顎に手を当てて考える。


ツカサ「普段通りでいい。あとは……コミュニケーションでも取ろうかしら?」


ソラ「取りましょう!取りましょう!気になる事いっぱいあるんですよ!!?誰推しとか!好きな小説とか!◯×△派とか!?△×◯派とか!?」


ウミ「落ち着け!バカ!」


ツカサはその光景を見てどこか安らかな表情を迎える。


ツカサ「(小言で)こんな世界も……あるのね」


するとウミが質問をする。


ウミ「ナギはどうするんだよ?」


ツカサ「彼も来るわ……」


ウミ「マジか」


ツカサ「気合で来いって伝えたわよ」


ソラ「き、鬼畜です……」



[part6]


そして夜、外は珍しく雪が降り注ぎ積もっている。

店内ではバームクーヘンと砂糖入りカフェラテを嗜むツカサとその光景を撮りまくるソラ、呆れるウミ。nullは1人でカウンター席でコーヒーを飲んでいる。


ウミ「ナギ(あいつ)……まだ来ないな……」


ツカサ「来るわ……いずれ」


そんな会話を繰り広げているとソラがツカサの隣の席に座る。


ソラ「ツカサちゃんのそのドレス可愛いです!えーっとい、いくらしましたか?」


ツカサはカフェラテをすする。


ツカサ「残念……非売品」


ソラ「えぇ!!?」


ツカサ「あなたのコーデ、まあ20万くらい……かしら?……それなりの令嬢じゃないの?」


バームクーヘンを削りながら食べるツカサ。


ソラ「いえいえ!ツカサちゃんに比べれば……私の服なんて……」


ウミ「おっとそれ以上は俺の心を抉るからやめてくれよ……俺はふつ

ーの家庭なんだからな……」


ウミはチーズバーガーを頬張る。ツカサはその食事に興味を持つ。


ツカサ「え?寿命縮まらない……?」


するとソラが立ち上がった。


ソラ「ダブルチーズバーガーを知らないんですか!?」


ウミ「は?」


ソラ「えぇ!!?ダブチは人生で一度……いや10回以上は食べないと損ですよ!!?」


突然のソラの高揚に困惑するウミとツカサ。


ウミ「お前、そんなにダブチ信者だったのか……」


ソラ「ツカサちゃん!食べましょう!庶民の味を……!今すぐに!!」


ツカサは露骨に嫌な顔をするが……。


ツカサ「わかったわ」


先に根を上げたのはツカサだった。ツカサはソラのチーズバーガーをひとかじりする。


ツカサ「っ!!?しょっぱ!!!」


ウミ「(まーそうなるよな……)」


すぐに皿に戻すツカサ。ソラが……。


ソラ「しょっぱい……?そんな……に?いえ!ありえな……!」


ツカサ「ホント……お金持ちのあなたなのに、どんな家庭で育ったのよ……」


ツカサは呆れてしまった。


ウミ「ソラ……まさかチーズバーガーってさ……?毎日?」


ソラ「2回……あっ!!いえいえ2日に1回です!そうでもないですよね!?」


ウミ、ツカサ「…………」


ウミ「エナジードリンクにチーズバーガー三昧ってマジで早死にするぞ……?」


しばらく会話を続けていると、階段からナギが現れる。


ウミ「ナギ……」


ナギ「……やっほー」


ウミ「…………」


するとナギは猛スピードでウミの隣に座る。


ナギ「よーし!一等席ー!」


ニコニコするナギ。


ウミ「ナギ……大丈夫なのか?」


ナギ「ヘーキヘーキ!あ!null君!メロンクリームソーダ!!」


nullは無言で厨房へ向かった。


そしてテーブルに置かれるメロンクリームソーダ。


ツカサ「なにこの、毒物みたいな飲み物……」


ナギ「えーー?美味しいのにー」


すぐにストローに口をつけるナギ。ウミはナギを見つめている。ツカサはため息。


ツカサ「知らないコトばかりね……」


するとソラが。


ソラ「もっと知りたいですよ!ツカサちゃんの夢とか!」


ツカサ「夢……」


ツカサはフォークを持ち続ける。


ツカサ「夢……か」


ウミ「夢なんて俺は考えたことねーな」


ソラ「えー?夢はあればあるほど幸せになりますよ!?」


ツカサ「……しょーもないから言いたくない……」


ナギ「ツカサちゃーん!言ってよー?」


ツカサ「それじゃソラやみんなの夢を聞こうかしら?」


ソラは肯定。


ソラ「良いですよ!私は好きな推し達を撮影したり鑑賞し続けることです!!」


ウミ「それ、趣味だろ」


ソラ「それじゃあ!ウミは!」


ウミ「俺……かぁ……一人暮らししてーな」


ナギ「えぇー地味……なんか可哀想な人」


ウミは声を上げる。


ウミ「ほらよ!ほら!こーゆー奴がいるから!言いたくなかったんだ!!」


ツカサ「一人暮らしね……ま、いいんじゃない?」


ツカサは再びバームクーヘンを食べ始めた。


ウミ「うわ……興味無さそう……」


ナギ「じゃあ、シェアハウスしよ!ウミ君と!」


ウミ「はぁぁ!!?なんでもう!付き合ってる前提!?」


ソラ「ウミ君とナギ君……うーん、男子は解釈違いなんですよねぇ」


ウミ「俺が知るかよ!!?」


ナギ「あ!?そういえばnull君は!?夢ないの!?」


nullはコーヒーを飲みながら言う。


null「いる?目的ならあるけど」


ナギ「目的?」


null「自分探し」


ナギ「へー」


ナギは続ける。


ナギ「でも夢じゃないよ?」


null「?」


ソラは考察を始める。


ソラ「null君はどんな夢を持ってるんでしょうか……」


ウミ「さぁ?コイツ……興味なさそうだし」


null「ない」


ウミ「ほら」


ツカサ「…………null」


nullはツカサに顔を向ける。ツカサは続ける。


ツカサ「世話……かけたわね……」


null「…………別に」


null「……ほら停滞……パーティーを続けて」


ナギ「てかツカサちゃんの夢聞いてないよ!ツカサちゃん!教えてー!!」


ツカサはため息をしてフォークを皿に置いた。



ツカサ「魔法少女」



ソラ「……え!?」


ウミとナギはどこか感心している。


ウミ「へー意外だな」


ソラが空気を読まずに深掘りする。


ソラ「えぇーーー!!見た目魔女じゃないですか!!?でもなんか夢……かわいい……というか……エモくないですか!?」


ツカサはそっぽを向く。


ソラ「幼少期何のアニメ見てました!?私は〜」



そんな他愛もない会話を深夜まで続ける。外は既に積雪でかなりの量が雪で覆っていた。



ツカサは立ちあがる。


ウミ「…………行くのか……」


ソラ「……え?……もう……」


ツカサは玄関まで向かう。


ツカサ「recefia?この玄関を出れば戻れるのね?」


recefiaは頷く。ナギは……。


ナギ「じゃあね……ツカサ……ちゃん」


手を振って部屋に戻ってしまった。



null、ソラ、ウミが見届ける。


ソラ「ツカサちゃん……」


ツカサ「大丈夫よ……もう平気……」


ウミ「…………」


ウミは黙り込んでいる。nullも同様。



ツカサ「迷惑を……かけたわ」


そう言うとツカサは背を向けて玄関に進む。

ゆっくりとドア近づく。


ソラ「ツカサちゃん!!!」


ツカサはソラの声に反応した。でも振り向こうとしない。


ウミ「……またな」


ボソッと呟くウミ。


ツカサ「そうね。また会いましょう……」



ツカサがドアノブに触れた瞬間。



ソラが背後からツカサの腕を掴んだ。


ソラ「ああ……!!ねぇ!!……本当に……です……か……?」


ツカサは……振り返った。


目元が赤く充血している。そして彼女は笑顔を振る舞った。



ツカサ「そこまで……する?……なら……約束……して?」

ソラ「?」


ツカサは黒い三角帽子を手に取り、ソラに渡す。


ソラ「これ……」


ツカサ「あげないよ……預かって……」


ソラ「…………」


ツカサ「あなた達とまた逢う日に……必ず返して?」


ソラ「……はい」


ツカサ「約束、破ったらタダじゃおかないから……」


ソラは目元が熱くしながら頷いた。




ツカサ「では、ごきげんよう」




ツカサ「さよなら」





ツカサは勢い良くドアノブを回して外に出る。ドアを閉めて積雪の中、喫茶店が見えなくなるまで走り続けた。



ツカサ「ははっ…………」



ツカサは目元から溢れる涙が止まらなかった。



ツカサ「バカね。わたしは……クソったれ……ホント……!」




そこは現世ではなく、積雪の中のDDSの世界だった。




ツカサ「…………クモリ……」


ツカサの口元から一筋の血が流れる。


ツカサ「時間が……ない」



ツカサは先を急いだ。





『以下、不可侵領域中のnullとの会話』



null『そう……』


null『クモリを……探す……』


ツカサは頷いた。


ツカサ『今すぐにでも帰りたいわ……でも……』


ツカサ『絶対に思い出さないといけない記憶がある……』


null『それがクモリってワケね』


ツカサ『…………』


null『その場合、君はもう……』


ツカサ『わかってる』


ツカサ『だから、お願い。ソラやウミ、ナギ……そして店主のrecefiaにも……』



ツカサ『この嘘を通して?』



null『…………』


null『……わかった』


null『君の『責任』は僕が負う』


null『そのかわり……』


ツカサ『そのかわり?』


null『それがしょーもない記憶だった場合、それでも君はアベンドになるから』


ツカサ『うん』




ツカサ『その時は……』





ツカサ『無様なわたしを……笑ってちょうだい』




episode35-2に続く

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