episode33-3『絶海の孤島』
episode33-3
『絶海の孤島』
[part7]
『深度2・牢獄エリア』
少女、ツカサの声がドア越しに響いた。ソラはすぐにドアに触れる。
開いた先には牢屋……独房が1つ。その部屋に黒い三角帽子を被り、可愛らしい黒いドレスをまとった金髪の小柄な少女……ツカサが椅子に座っていた。ツカサは鉄格子のドアの奥に監禁されている。
ソラ「ツカサちゃん!!!」
ツカサ「……あなた……達?……なんで!?」
null達はすぐに近づき、ソラが鉄格子のドアの施錠を解除しようとするが……。
ソラ「開かないです!どうして!!」
null「ソラ、ちょっと横に移動して……」
ソラは指示に従う。nullは鉄格子のドアの鍵部分を見つめて……そして殴った。
重厚な金属音と共にドアは破壊。
ツカサ「そんな開け方!!?」
ツカサも驚愕して固まっている。
ウミ「パワープレイかよ?」
null「ロジカルでしょ?」
ウミ、ツカサ「どこが!!?」
ドアを破壊し、ソラがすぐにツカサの腕を掴む。
ソラ「ツカサちゃん!早くここから!!」
ツカサは俯き、小さく呟く。
ツカサ「……もう、無理だと思ってた……」
ソラ「ツカサちゃん?」
ツカサは声を上げてごまかした。
ツカサ「え?いや……それより!クモリ!!!?アイツはどこ!!?あのクソガキッ!!」
null「クモリ?それはアベンド?」
ツカサは頷く。
ツカサ「私と同年代の見た目女の子のアベンド……!ホンッとムカつく奴!とにかく探して!!?」
null「探して……ボコボコにするの?」
ツカサ「ボコボコ?……そうね、あの目玉ぐらい抉り取らないと!!!」
ウミ「おい……落ち着け……」
ツカサ「そんな場合じゃない!!アイツのせいで!!!!」
ツカサは拳に力が入る。あまりの強さで手が赤く滲む。
ソラ「ツカサちゃん……一旦、いえ、もう帰りましょう!身体がボロボロになってしまいます!!」
ツカサは止まることなく、手をかざしグリッチ因子能力である重力操作によって次々と周りを押し潰す!!
ツカサ「出てこいッ!!魔法少女被れ!!!隠れてんでしょ!!?ゲームは終わりよ!!早く……はやく!出ろッッ!!」
ツカサの重力攻撃を躱しながら説得に入るnull達。
null「近くにアベンドは……いな、いやいるね……」
一同「!!?」
null「そのクモリってアベンドじゃないけど……」
ツカサ「ならそんな奴どーでもいい!!早くクモリを!!」
null「…………」
ウミ「null……なんか言いたそうだな……」
null「そういうこと……か」
ソラ「え?」
null「それより…………」
nullは周りを見つめる。
null「『固有空間』に閉じ込められた……残念ながら転移能力を使えなさそうだね……」
ウミ「!!?アベンドの仕業!!?」
ウミも周囲を確認するが……異変に気づいた。深緑と黒のノイズが赤と青の極彩色のノイズに変貌していた。
ウミ「なんだよ……!どこにいるんだ……?」
耳を塞ぐ程の重厚な音が世界に響き渡る。ツカサはようやく我に返った。
ツカサ「……これ……ここの……看守……!?」
ソラ「看守?」
すると突然、壁から無数の人の目が浮かび上がる!!一同は全員をその目に注目したため、激しい目眩に襲われた!!
ウミ「クッソ!お前か!!」
ウミは剣を突き刺すように投擲!目を当てた瞬間、剣は壁を貫いた。しかし、手応えがない。
ウミ「!!?」
ウミはすぐに念じて剣を手元へ戻す。
null「……これ、ツカサが言ってた看守っぽい……」
ソラ「看守のアベンド?」
ウミ「ただの目玉だろ!」
再び重厚な音が響く。ツカサは……吐血をしていた。
ソラ「ツカサちゃん!身体が!!」
ツカサ「うるさい!」
ツカサは飛び出し、先程の細長い牢屋通路へ向かう。null達も後を追う。
無数の牢屋がある通路も赤と青のノイズに塗れていた。ツカサは勢いよく通路を駆け抜ける。
null「あ、ほら……そっちは……」
ツカサはnullの忠告を無視して処刑場へ向かった。
[part8]
一同、処刑場にたどり着くが処刑器具は全て消失していた。
ツカサ「来なさい……目を抉り出してやる!」
ツカサが身構えたその時!部屋全体の床から無数の手が生えてツカサを拘束する!!
null達は各々で躱してやり過ごす。ソラがすぐにツカサ付近の手を撮影!拘束を解除させる。
ツカサ「!!なにこれ……!!」
null「目、手……次は……足?」
ウミ「バカのこと言ってねーで『不可侵領域』を使って終わらせろ!!温存してたんだろ!?」
null「いや、まだ解析が済んでない……」
ザザザ!!
今度は天井から無数の手が生え始めた!!nullがナイフを投擲すると……手はすぐに引っ込む!
null「一応攻撃は通ってる……みたい」
ソラ「それじゃ倒せる!?」
ソラはカメラを構え続けている。
ドシャァァ!!
闇の中から無数の手が襲いかかる!ソラやウミは躱しながら反撃をする!!
ソラ、ウミ「!!?」
無数の手は怯むことも傷つくこともなかった。
ウミ「おい、通らねぇ!!null!!」
null「アレ……?」
nullが首を傾げていると追撃の如く、地面から無数の目が現れる!!
ツカサはタイミングを見計らって1m級の黒い球体を作り、地面に叩きつけた!!
ツカサ「そんなに監視がしたいのかしら?……ホンッと悪趣味!!」
地面がベキベキと音を立てて大穴を開けた!穴の先は闇が広がっている。しかし、その穴を覆う程の巨大な目がツカサを睨みつけた。
ツカサ「ゲホゲホ!!」
激しい吐血。精神汚染による攻撃か。そして……。
ソラ「ツカサちゃん!私達が!!」
ツカサ「黙れ!!」
ツカサの怒鳴り声が室内に響く。nullは目を細める。
null「……ウミ、今の敵の攻撃……感想を教えて?」
ウミ「は?」
null「早く」
ウミ「……いや、特にこっちに影響はなかったな……」
null「僕も……」
大穴から巨大な眼球がギョロギョロと辺りを覗く。ウミはその不気味さに耐えながら突進!剣を突き刺した!!
ウミ「ん!?」
やはり剣から手応えは感じない。ソラも念を込めて空間を壊す程の撮影を行うが……。
ソラ「怯んで……ます?」
やはりその目は何も変化がなかった。ツカサはしゃがみ込み……吐血を繰り返す。
null「……?ちょっとツカサ、こっちに」
nullは無理矢理、黒い手を生やし、ツカサをnullやソラ達側に近づけた。
ツカサ「ちょっと!!」
nullは間髪問わず質問。
null「ツカサって何か悪いことしてた?万引きとか?」
ツカサ「はぁぁ!?わたくしが……!?わたくしは……ただ……家系を収めただけ……」
null「やっちゃった?」
ツカサ「そんな必要はないわよ!ただ跪かせばいい……!」
ツカサは口元の血をハンカチで拭いて整える。ソラはツカサに寄り添うように近づく。ウミは剣を目玉に向ける。
ウミ「null!早く使えよ!!『不可侵領域』!!」
null「……検証してから」
ウミ「は?」
null「一旦、攻撃を避けないで……というか何もしないで」
ウミ「はぁ!!?」
ザザザ!!!
天井から細長い手がウミの首を掴み上げる!ウミはnullを信じて何もしなかった。ウミには何も攻撃が入らない。
ウミ「え?すり抜けた?」
null「あーやっぱり……」
そしてもう一度、天井からの攻撃!今度はnullだ。nullも身動きすらしない。無数の手攻撃はnullの身体をすり抜けた。
null「これは……確証できるかも……」
ツカサは首を傾げる。
ツカサ「なんで……でもわたくしには!」
null「ツカサ、多分親族や家系を恨んで君が重力で支配したと推測するけど……それ……どう思う?」
ツカサ「…………」
ツカサは過去の記憶を反芻する。病弱だったあの頃の忌々しい記憶を。
ツカサ「支配しなきゃ支配される……あなた達には一生わからないでしょうね……」
ソラ「…………」
null「ほう……」
ウミがしびれを切らす。
ウミ「そんなギミック『不可侵領域』でどうとでもなるだろ!?早く使ってツカサを!!」
nullは頷く。
null「使うよ……」
null「『不可侵領域』展開」
nullは周囲に波状のノイズを発生させて部屋全体を自身のノイズで侵食させる。
null「ルール変更……」
nullは更に続ける。
null「『固有空間』生成。僕とソラ、そしてウミ……3人を固有空間の中に囲い込む」
ウミ「え?」
ウミは何を言っているのか理解できなかった。
nullの創った固有空間の中にnullを含む、3人……つまりツカサ以外を取り込んだ。
ソラ「null君……?ツカサちゃんは?」
null「落ち着いて……今、ここにいる間は時が進まない」
ウミ「ん?」
null「そして僕達の会話は……ツカサには聞こえない」
ウミ「……何を企んでる?null……お前のその能力で敵を消せば……」
null「違う」
nullはすぐに否定した。
null「まず現状の報告。看守に対してソラやウミの攻撃は通らない。僕は通った……僕、最強だから」
ウミ「……おい」
ささやかなツッコミ。
null「次に看守の攻撃。これは……観測的にツカサ以外に被害がなかった。ウミ……意味分かってる?」
ウミ「煽るな……」
ウミはため息をする。
null「つまり、看守=罪人を監視する者……目玉、手……先程の観測結果をまとめると……看守とツカサは強い関係性を持ってる……」
ソラ「確かにそんな気はします」
nullは続ける。
null「見られてる……拘束される……この具現化が目玉や手……だと思う」
ウミ「で結論は?なんだ?」
null「ここからが本題。じゃあさ、ずっと君達、疑問に思ってたはずだけど……」
ソラとウミは黙って聞いている。
null「罪の定義って何だと思う?」
ウミ「罪の……定義……?」
するとウミはすぐに思いつく。
ウミ「そりゃ法律だろ。違反者が罰を受ける……」
nullは頷く。
null「そう。合ってる。それじゃ法律……ルールって誰が作る?」
ソラ「人間ですよね?」
null「合ってる。更に質問。その人間達が作るルールって絶対的なモノ?」
ウミ「うーん……時代によって違う……だろ?」
null「鋭い。つまり法律、罪の裁量は人間が決めて人間が罰する……ということは罪ってのは絶対的なモノじゃない。実に相対的なんだ」
ソラ「…………」
null「時代によって罪の定義、いわばルールというモノが変わる。例えば場所や時代が違えば『希望』を抱くことが罪になることもあるってコト」
ソラ「希望の罪、生存の罪、善意の罪、死の罪……」
ウミ「アレは……そういうことか……」
null「更に深掘りするよ。じゃあその罪の裁量、ルールを設ける者はどんな人間?」
ソラとウミは長考する。
ウミ「大体……偉い人……だよな」
nullは頷いた。
null「そうだね。つまりもっと……香ばしい発言になるけど……ルールを設ける人とは……」
null「『支配する者』だよ……」
時は止まり続けている。ソラとウミは空気の重さを感じながら話を聞いている。
null「支配者……例えば、国、組織や村の長、宗教、資産家……あと戦勝国」
ソラ「国が違えば確かに法律は変わりますし、正義の定義も……変わりますよね……」
null「そう、真面目って概念は不真面目の人が作った言葉って話もあるし……知らんけど」
するとウミはとある疑問を抱いた。
ウミ「罪が相対的なのはわかった。じゃあDDSじゃその罪をジャッジする人間はいない……つまり罪の定義すらないだろ?」
null「うんうん」
ウミはちょっと嫌な顔をする。
ウミ「ならツカサはなんで看守につけられてるんだ?看守自体は罪を裁量する存在じゃないはずだ」
nullは無表情だがウミを見つめて少し、尊重したようなしぐさをした。
null「そう、それ。罪を裁量する、ルールを設ける存在がいない世界ではツカサ、いや人間は罪に対してどんな行動を取る?」
ウミ「…………」
null「答えはシンプル。自分の裁量で他人を罪として罰する……もしくは自分の裁量で」
null「『自分自身を罰する……』」
ソラ、ウミ「!?」
null「ツカサはどうやら後者を選んだみたい……」
ソラは苦渋の表情を浮かべた。
ソラ「ツカサちゃんは……自ら罪を背負って罰を受けようとしている……」
null「でもツカサはまだその判断が揺らいでいる……自分の裁量による罪が本当なのかまだわかってない……だから」
null「ツカサは『看守のアベンド』を生み出した……裁量、監視する存在を望んでいたから……」
ソラ「……そんな……!」
nullは喋り続けて少しため息をした。
null「ギミックがわかってきたね。ツカサが看守の被害を受ける原因と対策が」
ウミ「俺達が関与しちゃ……ダメってことか……俺達には看守という概念に干渉できない……罪を背負ってないから……か」
null「僕が『不可侵領域』を使えばガン無視で看守をボコせるけど、それはツカサの罪を僕達が土足で踏みにじる行為となる……そして今の会話もツカサには聞こえない……だから彼女自身で気づくしか手段がない……てか僕がそうさせた」
ソラは心を痛くしながらnullに質問する。
ソラ「あくまでも罪を認めて、ツカサちゃん自身で看守を倒すしかないって……ことですよね?」
nullは頷く。
null「サポートぐらいはしよう……」
ウミ「わかったよ……チッ」
どこか不貞腐れるウミ。
null「そろそろ固有空間をやめるけど、最後に一言」
ウミ「まだあんのかよ……」
nullは少し溜めてから口を開いた。
null「ツカサの罪は……支配じゃない……本質は……本当の罪は……別にある」
ソラ「え?!」
null「それじゃ、元に戻ろうか」
固有空間を解除して時を進めた。
null「ツカサ、僕達では相手に攻撃が通らない……(僕は通るけど)……なのでサポートは極力する……倒すのは君しかいない」
ツカサは焦りの表情を迎えて答える。
ツカサ「ど、どうして!!」
null「『支配の魔女』になら……できるはず……」
ツカサ「…………」
看守の目玉が部屋中に生え始めた。
ツカサ「そんなに支配がいけないの?じゃあどうすればよかったの!!?」
無慈悲な目による精神汚染がツカサを追い詰める。
ツカサは周囲に黒い球体を複数展開し、空間ごと叩き潰す。
ツカサ「結局、わたし自身しか信じる相手は……いないのね……」
ツカサ「跪きなさい!!!!」
重力による地面をぐちゃぐちゃにする!!
ツカサ「そうよ!わたしは『支配の魔女』なの!!あなた達とは格が違うの!!わたし……わたくしに従え!!早く朽ちろ!!!」
地面から大量の目玉がギョロギョロとツカサを睨む。
ツカサ「あなた(看守)……なんて……!!最初から必要なかったの!!全部わたしが決めるの!!人生も運命も!!」
ツカサは吐血をしながら空間に重力攻撃を乱発する!!!
ソラ「ツカサ……ちゃん」
ソラは心配そうにツカサを見守る。
ツカサ「支配が悪いならわたくしを裁きなさい!!目玉ごと潰してやる!!!」
ツカサ「わたしは……罪人なんかじゃ……!!?」
『15歳の誕生日プレゼント』
『覚えてる?ツカサ先輩?』
ツカサの心からクモリの幻聴が聞こえた気がした。
ツカサ「!!!?」
ツカサはクモリの声を振り払うかの如く、狂乱する。
ツカサ「消えろ!!クモリ!!」
null達はツカサを観察している。これは彼女の問題なのだ。
ツカサ「はぁ……はぁ……」
ツカサ「……罪……」
ツカサ「…………」
ツカサは少し、冷静になってきた。目玉の侵攻も落ちついてきたのだ。
ツカサ「……罪?……支配?……」
『司!15歳の誕生日おめでとう!!!』
『ずっと元気に生きてね!!』
『誕生日プレゼントよ!!』
両親の声。
ツカサ「………………」
ツカサはしゃがみこみ……頭を抱えた。
ツカサ「…………違う……?」
ツカサ「…………支配……じゃない?」
ツカサ「私の罪は……違うの?」
彼女は立ちあがる。
部屋には穴だらけになった床。看守は……消えていた。
ウミ「……」
ウミは少し安堵の表情を迎えた。同様にソラも。nullはツカサに近づいて口を開く。
null「固有空間は……消えた……」
null「喫茶店に帰るよ?魔女ごっこは……もう……おしまい」
episode33
END




