episode19『ツカサとDDの残滓』
episode19
『ツカサとDDの残滓』
[part1]
ハッピーチェスとの激戦を終えて、自然公園に戻る4人。
ツカサ「嫌ですわ」
開口一番に彼女は言葉を放った。
ウミがため息をする。
ウミ「(喫茶店は)寝床も食べ物もあるのによぉ……」
ツカサ「わたくしが否定しているのはあなた達と行動すること……その喫茶店なら自由に使わせて貰うわよ?」
ツカサは三角帽子を被り直す。
ウミ「えー!そーきたか!null、これどうするんだ?」
nullはコートのポケットに手を入れる。
null「多分、言う事聞かないだろうね」
ウミ「と言うことは?」
null「……場所は教えて……その後は自由で」
ウミはやれやれとジェスチャー。
ウミ「それしかないよな」
nullはグリッチ因子の能力で喫茶店へ転移を行う。全員は喫茶店『Point nemo』に帰還した。
転移中に今まで口を開かなかったソラがツカサに話しかける。
ソラ「あの……ツカサちゃん?」
ツカサの眉が歪む。
ツカサ「ちゃん?あなたいくつ?」
ソラ「15です」
ツカサ「同じ年じゃない。格下扱いしないでくださる?様と呼びなさい!様!」
ソラ「えぇ!?様は……」
ツカサ「何か不服でも?」
ツカサは腰に手を当てる。
ソラは俯いてうじうじし始める。
ソラ「あ、あ……なんか……大きな帽子で小さな身長を誤魔化してるのがエモ……いや、な、なんでもないです!」
ツカサ「なによ……」
null「ついた」
暗闇から視界が晴れて喫茶店が現れた。
[part2]
ツカサに喫茶店を案内する喫茶店メンバー。ツカサはすぐにカウンター席に座る。すると店主recefiaから洋菓子が盛られた皿をテーブルに置いた。
ツカサ「バームクーヘンじゃないの!?なぜ、わたし……わたくしの嗜好品が!?」
recefiaは更にコーヒーを差し出しながら答える。
recefia「お客様に最適な食事を提供するのが私の仕事よ」
するとnullがボソッと。
null「まあ、タネはあるけど……言わないけどね」
recefiaが一瞬nullを見つめたがすぐに視界を逸らす。ツカサはフォークを手にして器用にバームクーヘンの外側を剥がしてその欠片を口に入れる。
ツカサは真剣な表情で食事をする。
null「星は?」
ツカサ「1」
recefia「あら、残念」
ツカサ「ふつーですわ」
一方、この光景をファインダーに収めるソラ。
ウミはソラに軽口を叩く。
ウミ「推し誕生か?」
ソラ「イエス……」
ソラの目は輝いている。それに察したツカサはフォークで皿を叩く。するとソラのカメラが地面に吸い込まれた。
ソラ「か、カメラ!!」
慌ててカメラを拾うソラ。
ツカサ「まったく、不遜ですわ」
ウミはあー……という言葉だけ放った。さすがにソラに同情はしなかったようだ。
バームクーヘンを食べ終えて大量の砂糖を入れたコーヒーをすする。甘党のnullはツカサの行動に反応はしなかった。
ウミ「お友達になれそうだなnull?」
null「そう?」
nullのリアクションは薄い。
コーヒーを飲み終えた頃にrecefiaは問いかけた。
recefia「それで……記憶はどうかしら?……当主さん?」
ソラ、ウミ「当主!!?」
さすがに2人は叫んだ。
ツカサは目を逸らす。
ツカサ「あまり、その話は聞きたくありません……わ」
ウミ「当主って!?邸館の!?」
ツカサ「苗字すら覚えてない……わたくしの記憶の中では家系を支配下におさめただけ……」
null「それってグリッチ因子による重力操作でしょ?」
ツカサ「…………」
ツカサは言葉を無くす。
null「図星だった?」
するとツカサは席を立ち、玄関に向かう。
ソラ「待ってください!」
ツカサ「指図……すんじゃねー……」
ソラ「え?」
ガチャン。
ツカサは喫茶店を去ってしまった。
ウミ「おいnullよぉ〜」
すかさずウミがnullに文句を垂らす。nullは涼しい顔をしている。
ツカサはオーロラが輝く夜空を切り裂くように空を駆け巡る。
ツカサ「ゲホッ!ゲホッ!!」
急な吐血。これは侵食によるものか、それとも……。
『最悪、15を……迎えられないかもしれません』
突如、フラッシュバック。
ツカサ「もう、病気はとっくに……治ってる」
[part3]
ソラとウミは2階の自室で休暇を取っている。
nullは黒いノイズをrecefiaに受け渡す。今まで収集したDDだ。
recefia「随分、大きなDDね」
null「猫の奴」
recefiaは頷く。
recefia「これらを現世に還元する。でもまだDDは必要よ」
null「まあね」
recefia「それと『小規模汚染』についてだけど……この汚染による不審死、変死は皆、笑顔……『しあわせさま』降臨後の人類の表情と酷似していたわ」
null「僕は『小規模汚染』は『しあわせさま』降臨前の前兆だと思うね。性質が近いから」
recefia「その線が濃厚ね」
null「そしてその被害によって精神疾患に陥ったのが『ばいばい病』。『ばいばい病』と共に気分を高揚させる飴のブームが訪れたってわけ」
するとrecefiaはある黒いノイズを取り出す。
null「なにこれ?DD?」
recefia「いえ、DDの残滓」
null「残滓?」
recefia「あなた達がバグフィックスしてきたアベンド達のDDの残滓……ようは微かなデータを調査した結果、共通の文字が解明されたの」
null「それは?」
recefia「『祝福』」
nullは首を傾げる。また暗号か……といったところだ。
null「それ『しあわせさま』でしょ?多分」
recefia「恐らくは……でもその『祝福』というキーワードをあなた達に調査して欲しいの」
null「…………」
recefia「多くのアベンドに刻まれた『祝福』という暗号。これは幸福の印かそれとも……何かの信仰か」
nullはため息をする。
null「わかった。タスクがまた増えるね」
[part4]
シャワーを浴びるウミ。この世界では服や身体は汚れないので意味の無い行為だが、彼は生前のルーティンを止められない。生を実感する為には必要なのだ。
ウミ「…………」
それでもシャワー室に入り、衣服を脱いで身体を洗う時に嫌悪感が走る。この世界に訪れてから生理的欲求が極端に減少したが、実はそれだけではない。ウミは自身の身体を見る度に目を背けてしまう。理由は明確だった。
ウミはシャンプーで頭を洗っている。この時、背後に鋭い視線を感じるようになった。何かがいるのだ。決してソラなどではない。もっと、湿度の高い何かが。
ソレは無表情かもしれない……悲しんでいるかもしれない……いや、笑っているかもしれない。この中では一番最後の説が濃厚だった。
彼は振り向かず、頭を洗い続ける。しかし、今日はいつも以上にソレは異常だった。
左肩に冷たいナニカが触れたからだ。
ウミ「おい!!」
思わず彼は叫んだ。しかし、既に背後の気配はなくなっていた。
服を着込んで頭を乾かして、廊下を歩いているとソラに遭遇する。ウミは気持ちを切り替えて日頃から思っていることをソラに伝える。
ウミ「ソラ……最近さ?」
ソラ「なんですか?」
ウミ「身を削り過ぎてねーか?」
ソラ「あ……えーと」
ソラは目線を逸らす。
ウミ「いくら再生するからっていうけどさ、その……危なっかしいんだ」
ソラ「…………大丈夫ですよ!丈夫ですから!」
ウミ「メンタルも含めてだよ?」
ソラ「大丈夫ですって!」
ソラは続ける。
ソラ「だって……そうじゃないと何もかも守れなくて……」
ウミ「でもよ?自分が立てなきゃ……そうそう本末転倒だろ?」
ソラ「そうですけど……」
ソラは少し目を細めて悲しそうに言う。
ソラ「もし、私が壊れましたら……頼みますよ?」
ウミ「…………それはどっちの意味でよ?」
ソラ「両方です……」
ウミは頭を掻いて困惑する。
ウミ「あーもう、かってなー」
そう言ってウミは自室に入った。
[part5]
深夜、月が輝く夜空の中で箒に乗って空を泳ぐツカサ。すると地上に……少女らしき者が歩いている。
ツカサは少女を眺める。白髪ロングヘアーでオレンジ色の瞳が印象的だ。格好はグレーの膝丈ワンピースに黒のレギンス。女の子らしいが割と落ち着いたトーンの色合い。
しかし、この深夜に歩いているということは迷い人かアベンドぐらいだろう。ツカサは少し気になった為、地上に降りて話しかけた。
ツカサ「あなたは迷い込んだ人かしら?」
ワンピースの少女は目を見開いて驚愕する。
少女「え?今、飛んでたよね!?」
ツカサ「何か?」
少女「あの……!喫茶店に行きたい……んだけど?」
ツカサ「喫茶店?何故それを?」
すると少女は少しもじもじしながら話す。
少女「えっと……そんな情報があって……」
手を胸に当てながら話す少女。ツカサからすれば女性としての教養を身に着けているように感じた。ツカサは少し、面倒くさそうにする。
ツカサ「こっちよ……ついてきなさい」
少女「あ、ありがとうごさいます!!」
箒に乗らせて2人で上空を駆け巡る。
少女「すごい……本当に飛んでる……」
ツカサ「あなた、名前は?」
ナギ「私、ナギ。君は?」
ツカサ「はぁ、ツカサ」
ナギ「ツカサちゃんかぁ〜!カッコ可愛いね……!」
ツカサは彼女に対して妙な違和感を感じていた。それは洗練された『違和感のなさ』。
ツカサはそれを本能で感じ取っていた。
ツカサ「ナギ?」
ナギ「なに?」
ツカサ「聞きたいことがあるわ……」
ナギ「んー?」
ツカサ「どうして……『女装』をしているのかしら?」
episode19
END




