episode12『ミーティング』
episode12
『ミーティング』
[part1]
喫茶店『Point nemo』。null、ソラ、ウミは店主recefiaの命で店の従業員であり、接客や外の世界を調査している。もちろんこの世界、Dark Data Storageから脱出するためだ。
しかし、ソラやウミは何日(正式には時間の概念はないが)も2階の部屋に引きこもっている。
店主recefiaとnullはカウンター席に座っている。nullは砂糖入りコーヒーをすする。
recefia「彼らを励ましたりしないの?」
null「うーん、多分逆効果」
recefia「なんで?」
null「『一緒にがんばろう!』なんて言葉、今更彼らに刺さると思う?今は時間以外での解決方法はないよ」
recefia「…………」
彼女もマグカップを手にする。
null「彼らはグリッチ因子耐性があるから侵食の懸念は大丈夫」
nullはコーヒーを見つめる。
null「慎重に……ね。まだ謎は解明されてないからね」
2階の個室。ソラはゲーミングチェアに座り、モニターを見つめていた。画面の内容は推しの配信者による動画……とはいっても過去の動画だが。
ソラはふふっと笑みを浮かべる。推しの配信動画は彼女にとって何よりの清涼剤であった。
特に推し同士の百合CPなどは自らが幸せになっていると錯覚するほど。
ソラ「替えが必要ですよ!替えが!」
もちろん冗談である。そもそもソラもウミも元人間とはいえ赤い液体が詰まった魂なので人のような器官はない。
プツン。
過去配信を終えると、一気に虚無が襲ってきた。理由は双子の件だろう。自分達と同じ存在を救えなかったことをずっと引きずっている。ソラは気を紛らわす為にSNSを開く。
『今日、マッ◯の新作食べた。香辛料が弱く、味付けが甘くて微妙だな。っぱダブチよ』
SNSのメッセージが目についた。ユーザー名は『カプチーノ』。更新はもうしていない。そもそもネットも繋がってなくて今の閲覧はアーカイブだ。
ソラ「…………」
ソラはSNSを閉じた。
白いクラシカルロリィタ服のまま、ベッドに腰掛けて、窓を見ながら黄昏る。
ソラ「帰りたい……んでしょうか?」
ソラは自身に問う。いずれ現世に戻っても失ったモノは帰ってこない。自分は何を成し遂げたいのか……答えは見つからないまま。
一方ウミは自室のベッドで飛び起きる。
ウミ「!?はあ……はあ……」
汗をかかないがかいたような感覚に陥る。
罪悪感の塊のような夢。
ウミ「クソ!」
ある意味、限界を迎えていた証拠だった。すぐに夢の内容は忘れることにした。
ウミ「ああ、もう!」
ウミは寝ながらスマホを手に持ち、動画を見始める。
ウミ「帰っても……暗い未来しかねぇよ……」
動画を見続ける。
コンコン。
コンコン。
コンコン。
ウミは夢中になりすぎて気づかなかったがある時、ドアへの方面を覗く。
そこには小柄のクラシカルロリィタ服の少女、ソラが立っていた。
ウミ「うわっ!!」
思わずスマホから手を離す。スマホはソラに見える位置の床に落ちた。ソラはウミのスマホが視界に入る。
動画の内容は制服の女性が……。
ウミ「おい!なんで開いてるんだよ!!」
ソラ「……ウミ君って制服フェチですか?」
ウミは顔を真っ赤にする。
ウミ「いやっ!ちがっ!!これは間違えて!!」
ソラ「意外と普通なんですね……もっとアブノーマルだと思ってました……」
ウミ「ちがうって!!」
ソラ「大丈夫ですよ?誰にもいいませんから……」
ウミは慌ててスマホを拾う。
ウミ「大体、ノックしたりするだろ!?」
ソラ「してましたって!でも反応がなくて……」
ウミ「あのなぁ〜」
ウミは頭を掻きながらぶつぶつ文句を言う。
ウミ「そーゆーのはさ……こう、大人の対応ってやつをさぁ……」
するとソラは少し笑みを浮かべる。
ソラ「ウミ君も人間なんですね……なんか安心しました……あ、私は女の子好きなんで……男性はどうしても解釈違いです」
ウミ「こんな世界で恋愛なんてやってられるか!」
ジリリリリリ!!
ウミは受話器を取る。nullからだ。
ウミ「なに?」
null「店内に集合して。ミーティングしよう」
プツン。
ソラ「……行きましょう」
ウミ「へいへい」
[part2]
喫茶店店内にnull、ソラ、ウミ、recefiaが集まる。ウミはまだなんとも言えない表情だ。
nullは単刀直入に言う。
null「いろいろ解明したから、クイズ形式でやるよ」
ウミ「はあ?」
ソラは黙って聞いている。
nullはテーブル席でコーヒーをすする。
null「まず、迷い人の中で君達特有の能力を答えて」
ソラ「えーと……グリッチ因子ですか?」
null「他は?」
ウミ「他?」
null「サヤやリミ、フセにはない君達だけの能力」
ソラ「特有の能力……」
ウミ「あれだ……グリッチ因子による侵食が発生しない……だろ?」
null「正解。動画に没頭するわりには冴えてるね」
ウミ「うおほぉん!!!」
ウミは大きく咳をする。
null「グリッチ因子耐性を持ち、グリッチ因子を自在にコントロールできる君達はグリッチ因子適合者ってわけ」
ウミ「で?なんだよ?早く情報を教えてくれよ」
nullはコーヒーにスティックシュガーを入れる。ちょっと量が多い。
null「まあ、話を聞いてよ。次、現世の人がDDSに迷い込む……迷い人になる理由は?」
ソラ「グリッチ因子を多く持つ人ですね」
null「そう。グリッチ因子は人の想いに比例して肥大化していくから……そーゆー人がここに落ちる」
ウミ「ふーむ」
null「でもさ、そもそもなんで現世にDDSのグリッチ因子が存在してると思う?おかしくない?」
ソラ「確かに……」
null「それにサヤやリミ、フセは20xx-5の人物だと解析で判明した。なのに迷い人がDDSに落ちるのはここ最近の話」
ウミ「過去の人物達がDDSに落ちてる……そして落ちる原因がグリッチ因子……でもグリッチ因子はDDSに存在する物……」
null「じゃあ、新情報。今、現在DDSはアベンドまみれなんだ。アベンドだらけだとDDS内のグリッチ因子はどうなる?」
ウミ「アベンドって暴走したDDの集合体だよな?んでDDはグリッチ因子で形成されている……つまり、アベンドが多いイコール、グリッチ因子が大量発生しているってコトか?」
null「正解。よくできました。パフパフ」
ウミ「はぁ……」
nullはコーヒーを持ちながら解説する。
null「DDSがグリッチ因子で飽和している状態なんで……漏れてるみたいなんだよ。現世にグリッチ因子が」
ソラ「漏れてる……んですか?」
null「グリッチ因子が現世に放出……漏れてるんだ。しかも20xx-5にね」
ウミ「現世の過去の世界にグリッチ因子が放出されてる!!?」
ウミは声を上げる。nullはコーヒーをすする。
null「DDSに時間の概念はないからね」
ソラ「それじゃ!サヤさんや双子はDDSにいるアベンドの飽和が原因で……能力を発現、この世界に落ちたんですか!?」
null「そう」
ウミ「なんでそんなにアベンドがうじゃうじゃいるんだよ!?」
nullは真剣な表情をする。
null「ここ最近なんだ。アベンドの飽和状態は……つまり、現世からの想い、記憶、禁忌などがパージされてDD化してやがてアベンドになった」
ウミ「話をまとめてくれ」
null「この最近、現世のなんらかの影響でDDSにDDが大量発生
→DDがアベンド化
→DDSのグリッチ因子が飽和状態
→グリッチ因子が過去の現世に放出
→グリッチ因子を発現した現世の住人がDDSに迷い込む
……こういう流れ」
ウミは考え込む。
ウミ「根本の原因はなんだ?」
null「現世、君達が生きる20xxでなんらかの現象が発生……ソレがDDSをおかしくした根源だよ」
ソラ、ウミ「…………」
ソラはふと過去の話を思い出す。それと同時に廃村で起きた出来事を。
ソラ「20xx、『しあわせさま』が降臨、人々を笑顔にした……これって……」
recefiaが介入する。
recefia「『しあわせさま』が原因の可能性が極めて高いわ……」
ウミ「…………『しあわせさま』ってのはナニモンなんだ?」
null「わからない。得体の知れない存在……それが現世に降臨、現象を発生させてる。ようは神様……クソ神なんじゃないかな」
ソラ「それが全ての元凶……それのせいでサヤさん、リミ、フセさんは……!」
ソラは俯いて震え声で言う。
nullはコーヒーを飲み干す。
null「原因はもちろん、『しあわせさま』だけじゃないけど……まあ、色々やらかしてくれたよね……」
ソラはグリッチ因子でカメラを生み出して店を出ようとする。
ウミ「ソラ……!」
ソラ「もっと……もっと……!知らないと!私が無知のせいでみんないなくなってく!!」
ウミ「落ち着け!無謀なことはやめるんだ!……考えるんだ……俺達ができることを!」
null「ソラ、ウミの言ってることは正しい。まずしあわせさまによってもたらした現世の状態、正体、解決方法、そして帰還……課題は山積み………エモーショナルな行為は判断を鈍らせる……」
ソラ「null君は感情が理解できないから、どうとでも言えるんですよ!」
null「感情が理解できない……そうじゃない。理解した上で過剰な感情的行動は無駄だって言ってるの」
nullはソラを見つめてから続ける。
null「君は慌てなくていい。言われたことを信じて行動すれば結果的にチーム全体を優位に動かせる……毒は僕に任して」
ウミも肯定する。
ウミ「めんどくせーことはnullにぶち撒ければいい。俺達は……そうだな……憎い相手をぶっ叩く……そして生きる……それがサヤ達への弔いなんじゃねーかな」
ソラ「そうなん……ですかね……」
nullはマグカップを見つめる。
null「君達を失うと僕の居場所がなくなるからね。そんなのロジカルじゃない。だから君達はここの従業員でいて欲しい……」
ウミはやれやれとため息をする。
ウミ「ほんと、お前は(recefiaの)雇われだな……」
null「僕は良いんだよ。僕、最強だから」
[part3]
通常(グリッチ因子が弱い)の迷い人を接客して帰還させる喫茶店メンバー。ソラやウミも徐々にメンタルが回復してきたようだ。
recefia「一旦、休憩ね。食事をしましょう」
するとnullがテーブル席に座るソラとウミにフードメニューを持ってくる。
ソラ「これって……ハンバーガーですか?」
テーブルに置かれた食材はチーズが挟んだミートパティとバンズのチーズバーガーとポテト、コーラであった。
ウミ「なんかジャンクフードだな。まあ好きだけど……」
ソラ「でもどうして唐突に?」
recefia「あなた達が喜ぶ嗜好品を作ったのよ。記憶を探ってね」
null「ソラってチーズバーガー好きでしょ?」
ソラ「えっ?」
ソラは目を泳がせる。
ウミ「そうなの?意外だな」
ソラ「別に……大好物とかじゃないで……すよ?」
そう言ってチーズバーガー……いや、ダブルチーズバーガーを手に取る。
ソラ「まあ、お腹空いてるので食べますけど……」
ソラはダブルチーズバーガーを頬張る。
彼女は無言になり、無心になって食べ始めた。
ウミも食べ始めて上機嫌になる。
ウミ「うめー」
久々のジャンクフードを嗜む2人。
null「どう?味は」
ウミはうんうん頷いてチーズバーガーを頬張る。ソラは……無心に、少しずつと、口に入れる。
彼女は口に入れながら目元がどんどん赤くなる。
ウミ「ソラ?」
ソラ「美味しい……です……とても……」
ソラ「……とても……!」
しょっぱい味とケチャップ、ピクルス、チーズの味を噛み締めている。ソラの顔はくしゃくしゃになっていた。
ウミ「ソラ?おい大丈夫か?」
ソラは自身の感情が抑えきれず、洪水のように溢れてしまった。
ソラ「うん……ああ……!……ああ!!
ソラ「……帰りたい……帰りたい……よ……!」
少しずつ、少しずつチーズバーガーを頬張る彼女。
その姿を見てウミも感情の波が押し寄せたがぐっとこらえた。
ウミ「当たり前だろ……帰るんだよ……俺達は……ロジカル野郎を置いてな……」
null「僕は置いていくんだ……」
なんとも言えない気持ちになるnull。
休憩は終わり、来客をもてなす。nullは相変わらず客には塩対応だ。
ウミ「もーすこし上達しろよ?」
null「あー無理だね。顧客をもてなすメリットがない。それとも何?メイド喫茶でも始めたいの?」
ソラ「null君のメイド服……ああ!良き……!……始めましょう!」
null「やだよ」
ウミ「そもそもコイツ、性別ねーだろ。女の子みたいな見た目だけどよ……」
null「性別なんてどーでも良くない?人間と構造が違うんだからさ。君達がオーダーするなら姿変えるけど……」
ソラ「フリル系の服着てください!」
null「やだよ」
ソラ「えぇ〜?」
ガチャン。カランコロン。
入口から入ってきたのは短い金髪で背の高い男性、18歳ぐらいだろうか?ヘラヘラしながら辺りを見渡す。
男「うわぁ……マジでオシャレじゃん……ナニコレー?ス◯バより良くねー?」
ウミは「なんだよ、このチャラいヤツ……」と思いながら客を案内する。nullは目つきが鋭くなる。
null「グリッチ因子の濃度が高い……サヤや双子と同じタイプ……」
ソラ「え?」
チャラそうな客はカウンターに座る。
男「(メニュー表を見ながら)あれぇ?値段書いてないなぁ〜どゆこと?」
recefia「全て無料よ」
男「えマジでぇ!?食べ放題じゃん!!」
ウミはため息をついた。
episode12
END




