スヌーズ・クラーク0
「そろそろお開きにするか。」
俺は時野谷と香に呼びかけた。時野谷がタッチパネルに伸ばした手が止まる。
「え?何でですか?私まだ飲めますよ?」
「いや、そうじゃなくて。」
まだ飲もうとする時野谷を制止しようとすると、香も時野谷に同調してきた。
「穂香ちゃんの言う通りだよ、まだタイムリープの原因分かってないじゃん。」
「香、お前大丈夫か?めっちゃ顔色悪いぞ。」
「えっ。」
時野谷が香の方を見る。
「う〜ん、私にはあまりわからないですね。」
「お前マジか。こんな香の顔見たことないぞ。過去一酔ってるときでもこんな顔してなかった。」
香の顔を改めてじっと見つめる。
「タイムリープの原因なんて、あとから考えりゃいい。今はお前の体調優先だろ。」
「そうっすね。私も一肇さんに賛成です。」
香は、何とも言えない複雑な顔になる。
「私のために…ごめんね。でもまだ飲みたいんだ。タイムリープの原因を探る為に…一肇と飲めなくなる日も近いしね。」
「「えっ」」
俺と時野谷の声が被る。
まだ誰にも言っていないはずなのに。まだ誰にも言えていないはずなのに。なんで俺が転勤する事、こいつが知ってんだ…?
「えーー⁉一肇さん転勤するんすか⁉」
時野谷が叫んだ。こいつ元店員だろ…。働いてた店でこんな大声で叫んでいいのかよ。
「それより、だ。」
俺は香の方に向き直る。
「俺はまだ誰にも話していなかったはずなのに、なんで俺の転勤の話知ってんだよ。」
「…。それは…「ちょちょっと待ってください!それは一大事ですよ!一肇さん、香ちゃんにも話してなかったんですか⁉」
「え…あぁ…。」
時野谷が勢い良くにバッと立ち上がる。そして、憤慨しながらまくし立ててきた。
「ならなおさら香さんは帰るべきです!こんな大事なことを幼馴染の香さんに話もせずにダラダラ生きてた一肇さんと、ちゃんと二人でケリ付けるべきです!」
確かに、それはそうだ。と納得する。いや、前から納得はしていたのだ。だが、勇気がどうしても出なかった。チキンな俺は、今のようにサラッと言える状況が無いと言えなかったんだ。それも、香が作ってくれた。なんでこいつが知ってるのかは分からないが、「分かった。香、一緒に帰るぞ。」
「えっ…でも」
「いいんすよ!私も後に男待ってますし〜。」
可愛らしい男の子のバイトが脳裏に浮かぶ。確かに、なんかシフト終わったら付き合ってやるとか言ってたな。
「あ、あと……」
時野谷は俺と香交互に見渡し、少し悩んだ後香に耳打ちで話しかけた。
カチッと急に聞こえた秒針の音で、時野谷の声は一切聞こえなかったが。
「これ、私の連絡先っす。」
「えっでも…」
「分かってます。だから絶対、覚えていてくださいね。絶対、未来でまた飲みましょう。」
あぁ、叶わないな。
この子は、穂香ちゃんはこの一日で、
もう気付いてたんだ。




