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深夜2時半の再秒針  作者: 上崎新一
最終話 深夜2時半の再秒針
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6/6

深夜2時31分

深夜2時半の再秒針

  

『ほらほら、お二方早く!』

 時野谷に急かされ、俺等は店を出る。向かいから吹く夜風は勢いが強く、やけに涼しかった。

「ほら、」

 俺はおもむろにしゃがんだ。

「…え?」

 香が困惑したように後ずさった。

「何今更躊躇ってんだよ。おぶるんだよ、お前を。」

 恐る恐る香は俺の背中に乗ってきた。不安と躊躇いが背中にありありと感じる。俺は何で今まで気づけなかったんだ。何回も、何回も、こいつと一緒に帰ってきたはずなのに。

 カチ、カチ、となる秒針の音が脳裏に響く。その音に対して、震えるような怒りがこみ上げてくる。このタイムリープのせいで香は…。

 ようやく今気づいた。今までの香の言動、そして俺の記憶。その齟齬に。

 過去の記憶がフラッシュバックする。


 

「なぁ…。お前が大丈夫なら教えてくれないか?今日のタイムリープのこと。」

 香は少し躊躇った。沈黙が背中に広がる。

 少し時間が経った時、香は口を開いた。

「最初はさ、穂香ちゃんが一肇の隣の席に座って、」

 

『私がバイト辞めたの、貴方のせいなんですから責任取ってくださいよね』

『え!!なにそれなんか結婚するみたいじゃんか!』

 

「あ〜、あったなそんな事」

 思わず笑ってしまう。

「それで私…穂香ちゃんに、」

 

 『原因…私…?』

『『その通り!』』

 

 

『あ、あと私の隣に。』

『あっす。』

 

 過去の記憶が鮮明に蘇る。あの時、香はどんな気持ちだっただろう。

「あったな〜、俺もお前に嫉妬したことあるわ。」

「そうなの?いつ?」

「中学の部活ん時。お前、外嶋とペア組んでたじゃん。」

「あ〜、あったねそんな事」

 香がクスッと吹き出すのがわかった。少し安心する。


「あとさ、一肇、穂香ちゃんのこと名前で呼んでたじゃん?」


 

『あ、そっか。もう店員じゃないのか。えっと…じゃあ穂香さん、最初のループの時だから、えぇと…』

 

「あ〜、時野谷のことそういや最初は名前で呼んでたっけか」

「うん。」

 コツリ、と香の頭が俺の頭にぶつかった。

「一肇が私以外の女の子のこと、名前で呼ぶの新鮮で…」

「はっ、そういうことだったのか。おれが最初に名前で呼んだのはお前なんだぞ?時野谷が特別だったわけじゃない。」

「分かってる…。」

 

 あっ、だから時野谷はあの時…、

 

『まぁ、長年女やってたらわかるんですよ。』

『え、性別で変わるんすか穂香さ…『いや、やっぱよくよく考えたら下の名前呼びキモいですね…。やっぱ時野谷って呼んでください。』

 

 時野谷の鋭さに、益々驚かされる。あの時一番に香のこと考えてたのは時野谷だった。 俺は…

 

『まぁでもここ一ヶ月くらいは香も酔いつぶれて無いし、最近おぶってったのは今日くらいだな。』

 俺がそう言うと、香が首を傾げた。

『あれ?そうだっけ…あぁ、そっか。』

 

「私…」

 確信が持てる。香は、

「1ヶ月間この一日を、」

 ずっと繰り返してる。

 原因は、俺にあったんだ。

 

 

 最初にこの一日を過ごした時、一肇は私に言った。

「俺、転勤することになったわ。」

「…?」

 頭が真っ白になった。なんで?なんでそんなにサラッと言えるの?私達の時間はどうなるの?どうして、どうして、どうして、

 そんな事を考えてたら、グアァっと視界が歪んで、気付いたら朝に戻ってた。気持ちの整理が付かないまま、またその一日を過ごした。もっと一肇と一緒にいたい。そんな事を考えると、まるで私の願いを叶えてくれるかのようにこの幸せな一日が続く。

 でも、一肇の記憶は毎回なくなってく。だんだんとエスカレートしちゃって、些細なことでもタイムリープが発動するようになった。

 私の醜い感情のせいで、世界が動かない。ずっと、ずっと、動かない。

 だから、嬉しかった。今回記憶が何故か一肇にあって、察してくれてる穂香ちゃんとも出会って…

 

 さらに、私の心の醜さが露呈する。耐えられない。気持ち悪い。お酒が入るにつれて、気持ちがこみ上げてくるのを抑えられない。

 いくらタイムリープを繰り返しても、酔いは、醒めない。この時間に酔うのは、辞められなかった。

 

 あぁ、もうアパートが見えてきた。もう戻りたくない、迷惑かけたくない。でも、でも、

「登るぞ。」

「大丈夫?私重いよ?」

「知ってる。」

「女の子にそれ言う?」

「俺は実績があるからな。お前の抱え込んでる重さも、今一番知ってるのは俺だ。」

 カチ、一肇が一段目を登る。

「私、嬉しかった。一肇がそう言ってくれて」

「あぁ。」

 カチ、一肇が二段目に足をかける。

「俺は弱いな。香のこと、気づいてやれなかった」

 そんなふうに言わないでよ。私が悪いのに。

カチ、三段目を一肇が踏みしめる。

「来るかもしれない別れにかこつけて、今までずっと言えなかった。香。お前のことが好きだ。」

 カチ、

「私もっ…大好き。」

 あぁ、ようやく言えたな。心のなかにあった醜い物を、言葉で。

 気持ち悪い。そんな衝動で、何回一肇の背中に吐いちゃったのかな。

 記憶が一肇にもあった最初のタイムリープの時、言いかけてたのに。それでも一肇がいない世界を想像すると、どうしても…離れるのが

 カチ、

「だからっ…離れるのがイヤだっ…イヤだった…」

 カチ、

「……俺もだよ。だから、」

 カチ、

「でも、でも駄目なんだろ。この一ヶ月の2時半から、抜け出さなきゃなんだろ。お前のためにも、俺のためにも、」

「それに、穂香ちゃんにも」

 最後、一肇が八段目に足をかける。


 

 最後、香を八段目に連れて行く。

 後ろから吹く風に背中を押されるように、

 ようやく最後の一段に足をかけ、ぐいっと香を持ち上げる。

 カチッ

  

 時計は2時31分を指していた。

  

  

  

  

  

おわり

 

香が今回で露呈した過去の伏線の他にも、香がタイムリープするトリガーや、一肇に対する気持ちの伏線がいっぱいあるので、ぜひ見つけてみてください。

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