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EP 4

最初の10分間(GPS公開)と悪魔の罠

時刻は深夜23時59分。

月陽市の廃ビルに身を潜めるレンジャー部隊の間に、極度の緊張が走っていた。

「……総員、衝撃に備えろ。来るぞ」

信長が低く通る声で命じる。

この狂った代理戦争において、1日の中で最も危険な時間が迫っていた。

深夜0時ちょうどから始まる『10分間』。

それは、自分たちのGPS位置情報が、敵のスマートフォンに強制的に公開される魔の時間だ。1日100万円を払えば通知を拒否して位置を偽装できるが、今の陸自陣営にそんな無駄遣いができる余裕はない。

「中隊長、赤城曹長の『仕込み』は完了しています」

「ああ。アメ公どもに、たっぷり高い勉強代を払わせてやる」

ピピッ——!

深夜0時。

隊員たちのスマートフォンが一斉に鳴り響き、画面のマップ上に「青色(SEALs)」と「赤色(陸自)」の光点が100個ずつ表示された。

完全に居場所が筒抜けになった状態。

その直後だった。

廃ビルの外、夜空の彼方から**「キィィィィン……!」**という不気味な飛行音が近づいてきた。

無人機ドローンです! 数は5機! 上空から一直線にこちらへ向かってきます!」

見張りの隊員が叫ぶ。

昼間、ロシア商人からSEALsのヨシマサが買い占めた自爆ドローンだ。

GPSで位置を特定し、上空から爆薬ごと突っ込ませる。銃弾を一発も撃たずに敵を削る、アメリカ軍らしい合理的で無慈悲な戦術。

「慌てるな! 予定通り、散開して『盾』の後ろに隠れろ!」

信長の号令で、隊員たちが一斉に廃ビルの1階から飛び出し、路地に配置された「盾」の裏へと身を滑り込ませた。

上空のドローンが、赤外線センサーでレンジャー隊員たちの熱源を捉え、急降下を始める。

「今だ! 赤城!!」

「おうよ!!」

赤城鷹人が、手元のスイッチを乱暴に押し込んだ。

ドローンの直下に配置されていた「盾」——すなわち、5台のボロボロの軽自動車の内部で、赤城が仕掛けていた発煙筒と廃材の熱源が一斉に発火する。

赤外線センサーを狂わされたドローンは、逃げ惑う隊員たちではなく、最も強い熱を放つその『軽自動車』に狙いを定め——。

ドゴォォォォォォンッ!!!

連続する激しい爆発音。

月陽市の閑静な夜空に火柱が上がり、5台の軽自動車はドローンの自爆によって見事に木っ端微塵に吹き飛んだ。

「……よし! 全員無事か!?」

「アルファ班、無傷です!」

「ブラボー班、カスり傷一つありません!」

燃え盛る車の残骸を前に、レンジャー隊員たちが歓声を上げる。

弾を一発も撃たず、怪我人もゼロ。見事に敵の先制攻撃を凌ぎ切ったのだ。

だが、信長の本当の狙いは「防御」ではない。ここからが、この悪魔のような作戦の本番だった。

同じ頃。

月陽市の反対側に位置する高級ホテルのスイートルーム(SEALs陣営の司令部)。

「……着弾確認。熱源の反応から見て、自衛隊の連中を数名は吹き飛ばしたはずだ」

狙撃手のエリアスが、窓辺で暗視スコープを下ろしながら淡々と報告した。

部屋の中央では、リキタケ・ヨシマサが高級な革張りのソファに深く腰掛け、タブレット端末で戦局と『部隊の口座残高』を眺めていた。

彼の口の中では、甘い飴玉がコロコロと転がっている。

「上出来だ。ドローン5機の投資額はしめて500万円。それで敵の頭数を減らせたなら、悪くないリターンだ。……さあ、運営システムから『敵兵士の撃破報酬』が振り込まれるはず——」

ヨシマサがタブレットの画面を更新した瞬間。

彼の指が、ピタリと止まった。

「……ヨシマサ? どうした?」

エリアスが怪訝そうに振り返る。

ヨシマサの端正な顔が、能面のように強張っていた。

タブレットの画面に表示されたのは、敵撃破の報酬通知ではない。

真っ赤な文字で書かれた、システムからの警告ペナルティだった。

【警告:貴軍の攻撃により、月陽市民の民間車両(計5台)が完全に破壊されました】

【ルール⑤に基づき、貴軍の資金口座から損害賠償金として『1,500万円』を強制天引きします】

「は……?」

常に冷静な商社マンであるヨシマサの口から、間の抜けた声が漏れた。

口座残高の数字が、凄まじい勢いでスロットマシンのように減少していく。

ドローン代500万と合わせ、たった10分間で『2,000万円』もの巨額の資金が、煙となって消え去ったのだ。

「民間車両だと……!? 馬鹿な、あんな深夜の廃ビルに民間人が車を停めているわけがない! ロシア商人が売ったダミー車両なら、ペナルティの対象にはならないはずだ!」

「……ヨシマサ」

スコープで爆心地を再確認していたエリアスが、舌を巻くように言った。

「吹き飛ばした車のナンバープレート……あれ、『月陽市の一般ナンバー』だ。ダミーじゃない。正真正銘、この街の民間人の所有物だぞ」

その瞬間、ヨシマサは全てを理解した。

自衛隊の連中だ。

彼らは、夕日町の地下工場で日雇いバイトをした際、同じラインで働いていた現地の労働者たちと交渉したのだ。

『もうすぐ廃車にする予定のボロ車はないか? 1万円で借りるから、今夜、俺たちのビルの前に駐車しておいてくれ』と。

価値がゼロの廃車寸前のボロ車であっても、システム上は「民間人の財産」として登録されている。それを軍用兵器で破壊すれば、月陽市の公式な市場価値(1台あたり300万円)の損害賠償が強制的に請求される。

賠償金は持ち主の市民に支払われ、市民は大喜び。

自衛隊は無傷。

SEALsだけが、1,500万円という莫大な負債を一方的に背負わされたのだ。

「あいつら……っ、命のやり取りをする戦場に、『保険金詐欺』みたいなスキームを持ち込みやがったのか……!」

ガリッッ!!

スイートルームに、けたたましい音が響いた。

ヨシマサが、奥歯で飴玉を粉々に噛み砕いた音だった。

彼の瞳に、冷たい怒りと、商社マンとしてのドス黒い闘争心が宿る。

「……面白い。やってくれたな、自衛隊(JSDF)。ルールハックは俺の専売特許だと思っていたが、いいだろう。経済戦争の本当の恐ろしさを、骨の髄まで教えてやる」

「ひゃーっはっはっは!! 見ろ! システムから通知が来たぞ! アメ公の資金から1,500万が引かれた!!」

廃ビルの前で、信長がタブレットを見ながら腹を抱えて大爆笑していた。

周りのレンジャー隊員たちも、弾を一発も撃たずに敵に大ダメージを与えた事実に、狂喜乱舞している。

「赤城! お前、工場のオッサンたちによく交渉できたな!」

「へへっ、休憩中にコーヒー一本奢って、『おっちゃんの車、廃車にするなら高く買い取らせてやるよ』って言ったらイチコロっスよ。ついでに俺の作った鉄クズ装甲を被せて、熱源を仕込んだだけです」

「最高だ! 1発5万の弾を買うより、1万円のボロ車を借りた方が圧倒的に強ぇ!!」

筋肉と技術、そして悪知恵の勝利。

しかし、信長は笑いを収めると、暗闇の向こう側——SEALsが潜むであろう方角を鋭く睨み据えた。

「……だが、これでアメ公の算盤野郎も本気マジになる。明日の昼飯がいくらまで跳ね上がるか、見物だな」

戦場を支配するのは、弾丸の数ではない。

己の口座残高と、ルールの裏を掻く知略。前代未聞の「金欠デスゲーム」は、ここからが本当の地獄だった。

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