第71話「血の玉座」
広間の床は砕け、血と泥と鉄の匂いが混じり合っていた。
王の大剣はなおも雷鳴のごとき力を宿し、ノイルの泥槍は形を変えながらそれを受け、呑み込み、返す。
だが――均衡はすでに崩れていた。
ノイルの全身には、王の血から掬い取った“記録”が刻まれていた。
命令の鎖、隠された指令、王が自ら下した抹消の言葉。
それらがノイルの核で燃え上がり、過去の幻影となって目の前に広がる。
「お前は……っ!」
王の剣先がぶれる。
自らの血に刻んだ命令を、敵が握っている――その恐怖が揺らぎを生んだ。
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「王よ」
ノイルの声は、姫の記憶を纏いながら響いた。
「血で築いた王座は、血で汚れる。だが記録は、喰われても残る。私がここに証すのは――消された者の声だ」
槍が裂け、鎖のように変化する。
それが王の剣を絡め取り、重さを無力化する。
「ぐぬぅぅ……!」
王は腕に力を込めるが、刃は泥に呑まれ、逆に自らの肩へ押し返される。
鎧に走る亀裂から、さらに赤が滴った。
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「父上……!」
広間の奥で、ルシウスとカイルが叫ぶ。
その瞳は恐怖と混乱に染まり、剣を抜くことすら忘れていた。
己の王座を守るために、彼らが見上げるべき王は――すでに泥に絡め取られていた。
「血を守るために……何人を、消した?」
ノイルの問いが鋭く突き刺さる。
王の喉から、獣のような声が絞り出される。
「消すべきは……弱き血だ! それが王の責務だ!」
その叫びと共に、王の大剣が最後の輝きを放つ。
だが、その光はノイルの泥膜に弾かれ、吸われ、濁流のように返された。
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「終わりだ」
ノイルの体が回転し、背からもう一つの顔が現れる。
無表情のそれが、王の眼を見据えた瞬間――王の動きが止まった。
泥の槍が逆巻き、王の胸甲を貫く。
鉄と血が砕け、王の咆哮は途中で途絶えた。
「……ッ……!」
王の眼が見開かれ、次の瞬間、重い体が崩れ落ちる。
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沈黙。
ただ風が瓦礫を鳴らす音だけが響く。
王の亡骸を見下ろしながら、ノイルは静かに呟いた。
「血の玉座……その結末は、こうだ」
広間に立ち尽くすルシウスとカイル。
彼らの視線は恐怖に縫いつけられ、言葉を失っていた。
その場にただ一つ残ったのは――血で染まった王座。




