第39話「消された王子」
鉄の匂いが漂う「白鴉の間」で、分体のノイルは鎖を繋がれたまま座らされていた。
白い外套をまとった隊長格の男が、ゆっくりと口を開く。
「お前が探しているのは……“レオン”か?」
名を呼ばれた瞬間、ノイルの内部に溜め込まれていた記憶がざわめく。
セレフィーネの断片、ガロスの誓い、石版に封じられた刻印。
(レオン……第三王子。だが、記録には存在しない者)
思い返す。
彼は現王の後妻の子として生まれた。
継承権は低かったが、民から慕われ、剣と知略に秀でていた。
その輝きこそが、現王にとって脅威だった。
だから、彼の名は王家の記録から削がれ、存在ごと抹消された。
まるで、最初から「いなかった」かのように。
(……だが、ガロスは覚えていた。私が掘り起こした“逆記”にも、確かにその名は刻まれていた)
つまり、レオンは「確かに生きていた」証そのものなのだ。
今の王家の欺瞞を暴く鍵。
そしてセレフィーネの無念を正すための象徴。
ノイルの目が隊長を射抜く。
「なぜ、その名を知っている」
隊長は冷笑を浮かべる。
「白鴉は“消された者”をすべて記録する。存在をなかったことにするためにな。……お前の王子も、その一人だ」
男が顎をしゃくる。
黒布で覆われた台座が、すぐ背後に控えている。
その下にあるものこそ、レオンを証明する“痕跡”か、あるいは虚構を補強するための偽造物か。
ノイルは鎖に縛られながらも、核の奥に刻む。
(触れることができれば――本体に必ず渡す)
――王都の別の一角。
本体のノイルは、アリステアから読み取った断片を胸に抱いていた。
夜明け前の塔、第三王子の笑い声、そして封じられた紋。
「……やはり、レオンを刻み直すことが全てを繋げる」
本体と分体、その情報が交わる日はまだ遠い。
だが焦燥は確信を裏打ちし、ノイルを突き動かしていた。
「待っていろ、レオン。必ず――もう一度、この世界に刻んでみせる」




