↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/75

第40話「偽りの鋳型」

鎖の冷たさがまだ腕に残っていた。分体ノイルは、布をはぎ取られた台座の上を凝視する。

そこに現れたのは、銀色に光る金属の塊だった。縁に刻まれた模様は、王家の象徴――王紋。


(……王紋の鋳型)


血を引く者だけが反応できる、王族の証。

本来ならこれが存在することで、消された王子レオンが「確かに生きていた」と証明できるはずだった。


だが、ノイルは見た瞬間に気づく。

細工の深さが浅い。縁の線が滲んでいる。

――これは、本物ではない。


「見よ」

白外套の男、白鴉隊長が言った。声は石壁のように冷たい。

「これこそ、かつて“第三王子レオン”が存在した証。そして、同時に存在しなかった証でもある」


「……存在しなかった証?」

ノイルが問うと、隊長は口角をわずかに歪めた。


「王は決断された。才あるがゆえに王位を脅かす者――その名を歴史から消す、と」

「鋳型は偽物でいい。大切なのは“消した”という記録を作り上げることだ」


つまり――。

これはレオンを蘇らせる証ではなく、レオンを完全に封じるための“偽り”だった。


分体ノイルの核に、焦りが走る。

(……この情報を本体に伝えられない。触れるまでは、全部俺の中に留まったままだ)

もし本体が「鋳型が手に入った」と信じてしまえば、全てが狂う。


奪うべきか。

それとも、観察を続けるべきか。

分体の思考は鎖の重みよりも速く、苦く回っていた。


――その頃。王都の片隅。

本体のノイルは、ザランディーンの古びた机の前に座っていた。

「王紋の鋳型か……あれば、王族としての正統を証明できる」

老商人は指を組み、笑った。

「ただし“偽造”の話も耳にする。記録を塗りつぶすために、偽物を用意するのさ。真実なんて、いくらでも書き換えられる」


ノイルの心に、不意にざわめきが走った。

遠く離れた分体の核から、声にならない震えが伝わってきたような気がした。

(……もしや、すでに偽物が……?)


場面は再び「白鴉の間」へ。

白鴉隊長は冷たい瞳でノイルを見下ろす。

「この偽りを“真実”として受け入れよ。さもなくば――お前の記憶ごと、ここで塵にする」


ノイルは鎖に縛られたまま、心の奥でただひとつの思いを刻む。

(必ず辿り着け……本物は、まだどこかにある。レオンは、消されてなどいない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。