↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/75

第16話「記録の交錯、欺きの幕間」

王都の夜、蝙蝠通りの地下室にて。


仄暗いランプの明かりの下、ノイルは分身体から受け取った記憶を繰り返しなぞっていた。

その名――ロドリクセイン。

記録局の最深部にて、かつて“機密記録補正官”として政の中枢に関わっていた男。


「札は“保留”じゃない。“保管”だ。誰かが、彼の記録を敢えて残している……」


ノイルのつぶやきに、対面の老爺が目を細める。

ザランディーン――情報屋であり、蝙蝠通りの“記録の商人”。


「記録が生きている限り、消えた者は、まだ終わっていないとも言える」


「あなたは……ロドリクセインのことを、どこまで知っている?」


ザランディーンは一度だけ唇を噛み、言葉を選んだ。


「かつて一度、交渉の席を持ったことがある。だが、その記録も、記憶も――消された」


「記憶ごと?」


「否。私は記憶している。ただ、それを誰に証明することもできない。それが“記録の抹消”というものだ」


ノイルは静かに目を伏せた。

分身体が確認した札棚には、微かな魔痕があった。

それは、札が他者の手によって最近触れられた証。


「……まだ、誰かが記録に干渉している」


ザランディーンは頷きつつも、じっとノイルを見つめる。


「君は時折、“記録以上の何か”を見ているようだな」


ノイルは微かに身じろぎした。


「……それは、どういう意味です?」


「言葉通りの意味だ。私は“記録の商人”だ。人の言葉より先に、痕跡を見る癖があってね。詮索するつもりはない。ただ――記録だけでは辿りつけぬ真実に、君はすでに触れているのだろう?」


ノイルは応えず、ただ視線を落とした。


(……血によって記憶を読む力。けれど、それは誰にも明かしていない)


ザランディーンはそれ以上追及しなかった。だが、その目には既に確信の光があった。


「私が語れるのはここまでだ。あとは、君の“記録”が導いてくれるだろう」


ノイルは短く頷き、再び分身体の記録に目を移す。

そこには、前回と微かに異なる“札の内容”があった。


(……文言が違う? 誰かが、札を“更新”している)


札に刻まれていた日付が、ほんの数日前に書き換えられていた。


(仮面の男か、それとも別の誰かが――)


ノイルは、札操作の実験を行う決意を固める。

抹消札のひとつに“逆記”を用いて、わずかに文面を操作。

生死の記述を曖昧にすることで、“消された人物”を再び探知できるかの検証。


ただし、その痕跡が見つかれば、自身が逆記を使った証拠にもなりうる。


(それでも……進まなければ、見えないものがある)


深夜、封鎖区画に再び現れる仮面の男。

彼は札には触れず、ただ棚の前に佇む。

そして、低く呟いた。


「……時が満ちるには、まだ早い」


分身体は気配を抑えて潜む。


(こちらに気づいているのか……? いや、敢えて無視している?)


男が去った後も、棚の前には濃密な“記録の圧”が残されていた。


数刻後、ノイルは分身体と融合し、記録を統合する。


「記録を操る者が、すべてを決める。ロドリクセインは、抹消されてなどいない。眠っているだけだ」


記録の奥で動く意思。

その向こうに、何があるのか。


ノイルは静かに目を閉じ、思考を深めた。


――第17話へ続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。