パーソナルスペースが狭すぎる
居間に入り、席についた。絵里奈は飲み物を用意している。
対面に座っている姫歌は頬杖をつきながらこちらをニマニマと眺めている。
「何か…?」
改めて見ると鈴音の妹なだけあって可愛らしく、周りに綺麗な女の子ばかりいるという状況にドギマギしてしまう。
「いえいえ〜。……緊張してます?」
「あー、緊張してます」
「ここはそういう店ではないのよ」
鈴音のツッコミに安心感を覚えるなんてことがあるとは。
「ほら、一応許嫁との初対面だしさ。緊張もするさ」
「ふーん……どうかしら?姫歌の印象は?」
随分と間を開けて鈴音が質問してきた。いや、印象って言われてもな…姫歌も相変わらず笑みを浮かべていて、何を考えているのかわからない。あっちは随分とリラックスしているようだけど、緊張しないのかな…?
「びっくりしすぎてな、あまり考える余裕が」
「考えないと出ないんだ、へー」
「言葉狩りはやめてくれ…まあ、可愛いなーと思ったけど?」
本人の前で言う小っ恥ずかしさったらない。
「えー!嬉しいです!ありがとうございます」
「いえいえ…」
この空間、辛い!誰か助け舟を出してくれー!
「紅茶をお持ちしました。お嬢様方もその辺りで」
「仕方ないわね、ありがとう」
「おお…ありがとう…!」
「ありがとう、絵里奈ちゃん。賢二さんも困らせちゃってごめんなさい♪」
初めて絵里奈を大人として尊敬したかもしれない。というか姫歌も絵里奈に対してはタメ口なんだな。
「姫歌様、今日来た理由をお伝えしては?」
「あ、そうだね。実はこの前、賢二さんのお父様と話したんですよ。婚約についてとか、昔のこととか」
「そうだったのか、父さんも家に帰ってこない間にそんなことが…」
「それで結婚生活の第一歩として、私、ここで暮らすことになりました〜!」
絵里奈が無言でパチパチと拍手する。随分と乾いた音だ。鈴音は少し意外そうに姫歌を見つめていた。
「少し気が早いと思うけどな、そもそも結婚できる年齢でもないし」
俺は正直察しがついていた。姫歌が1人家にいたということや絵里奈との連携などで多少違和感を覚えていたため冷静でいられている。
「だからこそ、ですよ賢二さん。今のうちに仲良くなっておこう〜!ということです。私のお父様も賛成してくれたんですよ」
ああ、だから当の本人の承諾を得たら終わり、ってことか。俺としては絵里奈を住まわせてる時点で特に断る理由も無いため素直に了承することにした。
家のルールを簡単に確認し、細かいことは絵里奈もいるしなんとかなるだろうということで一旦落ち着いた。
なお、姫歌の部屋は父さんの部屋をとりあえず使うことになった。というか、すでに荷物が運び込まれていた。1日でやったとは思えない量の本とフィギュア等のグッズが置いてある。オタクっていうのはマジだったのか…
ちなみに海外に単身赴任している母さんの部屋を絵里奈が使っており、俺の部屋を除くとこれで空き部屋は無くなる。もし帰ってきたらどうするかと俺が呟いたらその時はリフォームしてあげるとあっさり姫歌に言われた。流石は社長令嬢。
しかし激動の1日だった…。すっかり暗くなった窓の外を眺めながら、ソファーに座り込みため息をつき、テレビをつける。まるでおっさんだ。
「お疲れのようね、まあ私もなんだけど」
そう言いながら鈴音も俺の隣に腰を下ろした。普通に学校に行った後誠也とぶつかり、保健室で話してからそれを反省し俺の前でギャン泣きしてましたもんね、そりゃ疲れるわ。
すると、これまた疲れの要因…と言っては失礼か。姫歌がこちらに歩いてきて、鈴音とは反対側の俺の隣に座った。そんなに大きなソファーではないので結構窮屈なんだが…
「失礼しまーす。あの、私聞きたいことがあったんですよ〜」
「うん、何かな?」
「学校でのことですよ、どうです?楽しいですか?」
「まだ2日目だからよくわからないことも多いけど…まあ楽しくなるんじゃないかね」
鈴音と誠也の件もそうだが、高校の勉強についていくことや人間関係やその他諸々、考えるべきことが多く、暫くは余裕の無い学園生活を送ることになるだろう。
「そうですよねー。あ、そうだ!お姉様と雨宮くん!何か進展ありましたか?」
「え?………………そうね、あったわよ」
「溜めたなぁ…」
「具体的には?」
結構この話に興味があるのか、姫歌は身を乗り出してきた。そう、俺の肩に手を置いて。いるよなーこういうボディタッチ多めの女子。今まで何度それだけで好きになりそうになったか。
反射的に鈴音の方へ顔を向けると、随分と難しい顔をしている。そりゃ自分が取り乱した話などしたくないだろう。
「そんなことはいいのよ、大したことではないから」
「えー、私とも雨宮くんの話しましょうよー。今日沢山話してたっての聞いて気になってたんですよ。それに結構カッコいいじゃないですか〜」
「はぁ?姫歌には関係ないでしょ。コイツいるんだし」
「まあまあまあ落ち着いて」
俺だって姫歌が誠也のことをカッコいいって言ってちょっと複雑な気分になってるんだぞー。落ち着けー。
「大丈夫ですよ、お姉様。雨宮くんのことは何とも思ってませんから。それに…」
と言い、姫歌が腕に手を絡めてきた。
「私は賢二さんの許嫁ですから♪」
「…あっそ」
なんだか恥ずかしくなってテレビのリモコンを手に取り、チャンネルを回す。特に見たい番組はないが、バラエティで出演者たちがゲラゲラ笑っているのを見て少し落ち着いた。
姫歌との付き合い方は考えていかないとな…
そういえば、どうして姫歌はこんなにも俺に対して好感を持ってくれてるのだろうか?




