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どう呼ぶかに基準はない

 激動の入学二日間から少し経ち、学校生活の勝手はわかってきた。誠也はクラスの中心人物になるだろうと思っていたが、基本的には大人しい性格のためか意外とそうではなく、大抵百合と一緒にいる。そこに友人ポジション…というより小判鮫のように引っ付いてるのが俺だ。自分で言ってて悲しくなるなぁ…


 鈴音はと言うと…相変わらずだった。自分で誠也に話しかけにいくことは出来ず、昼の時に俺が無理矢理誘ってみたりした。幸か不幸か、そのビジュアルによってクラスのマドンナ的な立ち位置を確保しつつある鈴音は何かと誘われることが多いようで、俺が誘ってもそこまで違和感はないようだ。


 まだ俺と鈴音の関係はバレていないので、このまま隠しつつサポート出来ればいいのだが。なんてことを考えながら俺は授業の板書を写していた。


 俺の席は一番後ろで、字が細かいと板書がかなり読みにくい。…あ、先生が消し始めた。後で誠也か百合に見せてもらうか。


 天河鈴音と雨宮誠也は出席番号の関係で席は近い。というか前後なのだ。しかし、おはようの挨拶ですら誠也が先に言わないと言えないレベルらしい。なんでそんな好位置で話せないんだと思わなくもないが…




 キーンコーンカーンコーン…………



「誠也ー飯食おうぜー、天河さんもどう?」


 昼休み開始直後の流れるような誘い文句だ。授業が終わった瞬間に立ち上がり誰よりも早く声をかける戦法を編み出した。コーナーで差をつけろ。


(…早すぎてキモい)


 小さな声で鈴音がなんか言ってるが無視して弁当を置く。ちなみに弁当は絵里奈がちゃんと作ってくれるようになった。でも感謝したら「姫歌様のついでです〜」とか言いやがったのでやはり許せない。


 百合も合流し、昼食が始まった。


「そういやさ、部活ってどうする?」

「うーん…ちょっと悩んでる」

「へー、サッカー部じゃないのか」

「中学でやり切った感があってなー。帰宅部でもいいかも」

「私は勿体ないと思っちゃうけどなー…」


 百合は誠也にサッカーを続けてほしいようだ。ちなみに俺は入る予定は無し。特にやりたいこともないし、昔から何かに所属するタイプでもない。寂しい学校生活だと思われるかもしれないがこれが俺なのだ。今更変えたくても変えられない。


「まだ期間はあるしゆっくり決まればいいよな、()()はどう?」

「えーと……あ」

「「鈴音…?」」


 しまったああああああああ!!!!!油断して普段の呼び方が出てしまった!鈴音も途中で気付き明らかに怒りの形相をしているし、百合は勿論、鈍い誠也ですら気づいた。百合は餌を目の前にした犬のように食いついてきた。


「もしかして2人って、そういう仲なの?」

「いや、違う。そうじゃない。そうじゃないんだ」


 大事なことなので2回言いました。もしそれが噂として広まりでもしたら面倒なことになる…!


「その否定の仕方…もしかして本当に…!」


 必死すぎて逆効果!?


 すると、はぁーっと鈴音はため息を吐いた。


「これはあまり言う気は無かったんだけど…私たち、親戚なのよ」

「えー!!!そうなの!?」


 え?そうなの…?あ、そうか。俺と姫歌が結婚するなら、鈴音は義姉になるのか。


「そ、そうなんだよ。いとこでさ」

「ああ、だから名前で呼んでたのか」


 ちょっぴり嘘を入れた。これならそこまで不自然では無い…はずだ。


「そうよ、だから私も普段は賢二って呼んでるんだけど…」


 なんとかなったようだ。すると、百合がニヤニヤしながら俺の腕を引っ張ってきた。これはついてこいという合図だろうか?


「私たち、先生に呼ばれてるから行ってくるね」

「おお、行ってらっしゃい。それでさ………」


 誠也と鈴音が2人きりで会話をしている…!これは大きな進歩だ!


「いこ?け・ん・じ・君?」

「は、はい」


 名前で呼ばれたことに内心ドギマギしながら2人で教室を出て向かった先はいつだったかに使った人気の少ない廊下だ。この先は突き当たりで、普段行くことのない特別教室があるのみ。当然のように学生も先生もいなかった。


「ねぇ、早速なんだけどさ」

「うん、何かな」


 前を歩いていた百合は長い艶やかな髪を靡かせて振り返った。やはり俺とは住む世界が違う、そんなオーラを持っている。


「他にも隠し事してるよね?」

「………ああ、してるよ」


 すっとぼけようが嘘をつかうがこの人にはバレる。そう直感が囁いて、素直に言った。


「入学式の日、覚えてる?急に賢二くんがあの赤い髪の子可愛い〜!って話題に出したこと。それを思い出したんだよね」


 雑なフリだったからなー…


「鈴音ちゃんも変に緊張してるしなんかおかしいなぁって思ってたけど……あ、ぶつかったこともあったしやっぱりそうだ。鈴音ちゃんの恋愛手伝ってるんでしょ」

「わかっちゃうもんか」

「バレバレだよ、あはは」


 その可愛らしい笑い声も、本当に笑っているのかわからない。百合は笑顔を崩さず続ける。


「いいね、とっても楽しそうなことしてる」

「そうでもないぞ?こっちは結構ハラハラしてんだ」

「………私、応援するよ」

「え?」

「鈴音ちゃんと誠也くんが付き合えるように応援するよ」

「いや、でも…お前は、百合は誠也のこと…」


 好きなんだろ。それは憶測でしかないが、自信はある。何故だ?そんなの、普通嫌じゃないのか?


「でも、多分無理だよ」


 声色が低くなった。笑顔は絶やさずにいるのが余計冷たいものを感じる。


「行っても仲のいい友達止まり。告白をされても絶対に誠也くんは首を縦には振らない。みんなにも、それに、私にも」

「…………」


 誠也に何かあるのはわかっていた。百合と関係があることも理解している。それでも…それでも…


「俺は、鈴音の思いも、それに百合の思いも尊重したい。でもそのためには前に進まなきゃだろ?つっかえてるもんを取ってやらないと。だから…教えてくれ」




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