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すっとぼけもほどほどに

 鈴音の恋の理由を聞き、率直に応援する気になってきた。最初からそれを話してくれればわざわざ家を壊すなんて真似しなくても協力したのに、と思わなくも無いが、彼女が不器用なことはすでに百も承知だ。


「あーー、なんか恥ずかしい。私だけがこんな思いをするのは癪に障るわね。賢二も教えなさいよ、初恋の話」

「はあ?俺はいいって。そんな話してもしょうがないだろ」

「しょうがなくなんて無いわ。良いから話しなさい!」

「私も気になりますね」


 すると突然、後ろから声がした。驚いて振り向くといつものメイド服姿の絵里奈だった。その格好じゃ目立つだろうに。


「びっくりした…いつの間にいたのか」

「あはは、申し訳ございません。ちょっと前から観察してました」

「「おい」」


 鈴音とハモる。


「いやー泣いてましたねー……あっいたたっ。鈴音様痛いです…」


 無言で立ち上がった鈴音が絵里奈の頬を抓り、絵里奈まで涙目になっている。でも自業自得だろ。にしても仲良いんだな…


「もう、調子に乗らないで。賢二もこの子を止めて」

「そんなこと言われてもな…というか痕つくぞー」


 とりあえず頬を抓るのは解放してやれと思い鈴音の手を引き剥がす。相変わらずムスッとしたままだが。


「はあ…はあ…ありがとうございます。でもあの頃のことは私も申し訳ないと思っているんです。力になれなかったのが心残りなんですよ」

「別に良いわよ。高校に入ってそんな誹謗中傷とかは受けなくなったし、ストレス発散もできるし」


 そう言って俺のことを指差す鈴音。


「おい、俺のことをサンドバッグか何かと勘違いしてませんかね」

「倒してもしぶとく起き上がるとことかそっくりじゃない」

「お前は俺の何を知ってるんだよ」


 ファイティングポーズを取っている鈴音に対して俺は両手を広げてパンチングミットのようにしながら話を続ける。


「やっぱその時は家でも泣いたりしてたのか?」

「いいえ、私や社員の前では泣くことはなかったですね。なので久しぶりに見ました、鈴音様が泣くところ」

「当然よ、普通人前では泣かないわよっ!」


 ストレートが飛んでくる。普通そんな強くやるもんじゃなくない?痛いんですが。


「でも基本的に静かでしたね。雨宮誠也さんのことを知ってからは騒がしくなりましたけど」

「そう言ってやるなよ…恋する乙女だろ?情緒も不安定になるさ」

「アンタが私の何をわかるのよ!」


 ドン!っと俺の腹に一発が入る。手が小さいから食い込むんだよ、超痛い。構えてたじゃん…


「あはは、仲良くなりましたねー。そうだ、ちょっと場所変えません?」


 そう言って絵里奈は適当に流した。長いことこのカフェにもいたからということで俺たちも賛同し、絵里奈の運転する車に乗った。


「免許持ってたんだな」

「まあ、職業柄。持ってないと勤まりませんので」

「それもそっか」


 窓の外は見慣れた街の景色が続いている。というか…


「場所って俺んちかよ」


 見慣れに見慣れた我が家である。


「いいわねここ。学校にも近いし」

「いいわねここ、じゃない。忘れてないだろうな?壁壊したの誰だっけ?」

「ほら、その件はいいじゃない。私という素晴らしい人間と接点を持てたのよ?」

「どの点について言ってるんですかね。優雅で大人っぽいところですかねー」

「ふふ、最大級の賛辞をありがとう」


間髪入れずに掴み掛かってくるのをやめなさい。だからそう嫌味を言ってんだよ。


「でもここなら作戦会議とかするのにもぴったりじゃないですか?」

「溜まり場にする気だろ。俺の平穏な生活の場をこれ以上奪わないでくれ…って、絵里奈がいるから今更か」

「あれ!?私邪魔者扱いですか?」


 わざとらしく驚いてみせる絵里奈だったが、こいつも重要なことを忘れているようだな。


「弁当に土を詰め込んだやつは誰だ?」

「……………」


 今日は色々あったからさっきまで俺も忘れていたが。鈴音もそういえば。みたいな顔をしている。


「まあまあまあ、明日からは腕によりをかけて作りますから。ほら、家に入りましょう」


 と言って俺の背中をグイグイ押し込んできた。


「…調子のいい子よねー」


 呆れた様子の鈴音は仕方ないとばかりに俺の家の中へ。同年代の女の子が俺の家に来るなんて初めてかもしれない。とドキドキしていたその時、家の中に目を疑う光景があった。


「…なっ」


 鈴音も驚きの声をあげる。それもそのはず、家の中には、こちらに向かって土下座をした女の子がいたからだ。


「おかえりなさいませ、旦那さま。…というかー、玄関前で長く喋らないでくださいよ、足痺れちゃったじゃないですか〜」

()()…来てたのね」

「お姉さまも私たちの愛の巣にいらっしゃいませ〜」


 この人が、天河姫歌…。甘ったるい猫撫で声でなんともあざとい。透き通るような白い肌は鈴音と同じだが、肩より少し長いくらいの金髪だということは違う。


 つい、黙ってじっと見ていると姫歌は少し顔を赤らめて目を逸らした。そうか、許嫁、か…


「えーと…だんなさま…?」

「ああ、ごめん。初めまして、白鷺賢二です。痒くなるから普通に呼んでください…」

「…ふふ、はい。賢二さん」


 俺が丁寧口調だったからか、何かおかしかったのかは知らないが、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべた。

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