達観した目と期待
あのゴタゴタから約2時間、少し早めにあの場を離脱した俺はあの商人らしき男達からとある物を拝借して、近くの町を目指していた。
「…しかしながら流石は異世界と言うべきか。こんな便利な物を手に入れられるなんてな」
そう呟きながら手に持つ青みがかかったズンダ袋の様な物を見つめる
無論、それはただの袋ではなくゲーム風に言うと「アイテムボックス」や「インペトリ」などと言われている無限収集袋だ。
物を質量、大きさ、性質に関係なく収納出来て袋の重さは変わらない。地球にあったらそれだけで革命が起きる代物である
それに手で触れていれば中に何が入っているか自然にわかるという部分も優れている。
物を出したい時は袋の中に手を入れて、取りたい物を浮かべれば手に入るという性質もあるため
万が一内容を忘れても問題がない。
だが、忘れてはいけない
俺は目立つ事を避けなければならない
一度俺は「勇者」として世間に認知されている
その為、身バレが1番厄介な事だ
だが、今の俺はこの世界の常識を知らない
収集袋に入っているお金の単価もわからない
それはかなり致命的だ
「……今のうちに『設定』でも作り込んでおくか」
『設定』それは他人を欺く為に指定したソレになりすまして行動する事
便利な袋を持っている『理由』
この世界の常識に疎い『理由』
今のボロボロの格好の『理由』
それらの『理由』を成し得る存在になりすまして町に潜り込んで目的を遂行する
俺は立場的な『弱者』を演じる為に設定を考えながらのんびりと町へと歩いていった
ーーーーーーーそれから30分後
「………着いた、が。やはりあるな、門が」
覚悟はしていたがやはり門番などの素性を探ろうとする輩には出来るだけ接触したくはない
手早く済ませようと思いながら『設定』をオンにして門へと近づいていった
「……ん?おい、止まってくれ」
2人いる内の若い方が、黒い外套を着ている見るからに怪しい格好の少年を止める
少し警戒しながらも出来るだけ威嚇しない様に慎重に言葉をかける
「君は何?何のために此処に来た?」
「………えっと、旅です。田舎から出てきて右も左もわからない中やっと町を見つけれたんです」
門番は少年の目を見つめるが、害意は感じない
……感じないが少し違和感がある。嘘をついている訳ではないけど何かが変だ、いやズレているというべきなのか…わからないな。
「そうか。ならそのストレージバックは?」
疑問はあったが、気のせいだと思い次の質問に移る事にした
彼が田舎から来たというのはわかったが超高級品であるストレージバックを持っているのは不自然というか仕事上聞かなければならない。
「……これは親父の形見です。大切にしろと…」
「あ、ああ。わかった、わかった」
ほら、やはりこういうのだ。だから聞きたくないんだよ。こういうのは基本親の形見とかが多いからな
門番としては少々優しすぎる若い門番はその後簡単な質問をして、結局名前も聞かずにその少年を通してしまった。
「……おいおい、若いの。あの子通しても良かったのか?」
尋問を口を挟まずジッと見ていた見た目40代のおじさんの門番の片割れの方が話しかける。
「……?何故ですか?害意も敵意もありませんでしたよ、むしろ素直で良い子でした」
「………あの目、見たか?」
「はい、随分と静かな感じで少し変だなぁと思いましたけど……」
「……何で洞察力は鋭いのに、根が根本的に向いてないんだよ…」
と呆れてため息までついてでる片割れの門番
首を傾げている若い門番にこう告げる
「あの目は、達観してる目だ。決してあの年何かに持つべきものじゃない。あの目はな、死を間近で見たか体験したか。もしくは与えた人間がする感情を制御しきった年を重ねて得る目だ」
「ストレージバックの中だけでも確認した方が良かったな」とアドバイスして、タバコに火をつけて一服する
見るからに落ち込んでる若いのを尻目に町の方へ目をやる。
「……さてさて、あのレベルの奴がこんなところに何の様なのかな?」
そう言いながら、何処か楽しそうに、何かが起きる事を期待する様に口元が緩む。
タバコの煙がゆらゆらと空に舞って消える
彼の期待は煙の様な空論なのか、それとも火の様に周りを巻き込んで全てを焼き尽くすのか
それは現時点では誰にもわからない
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