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ダンジョンのカギ貸します!  作者: サイミ・ヨージ
第2章 「ダンジョンはじめました」
14/15

イソメ

・・・



(3・・・2・・・)



張り詰めた洞内の空気を切り裂くようにして次々と『手銃琴』が弾を吐く轟音が突き抜けていく。



放たれた弾は枯れ木をおもわせる皺の深い老人に襲いかかるが、紙一重で躱されてしまう。



距離をあけ、『手銃琴』により遠くより制圧する。



それがイソメの必勝の形だったはずだ。



しかし目の前の老人はまるで未来が見えていたかのごとく避け、あまつさえ弾を切って落とすなどという『神業』まで見せた。



その恐ろしい程の技の冴えは先ほど腹の皮一枚切り裂かれて、イソメは思い知っている。



まさに間一髪だった。



(強いとは感じたが、まさかこれほどとは・・・)



無表情な顔からは推測できないがイソメは正直、絶望の端に追い詰められていた。



開いているのか分からない彼の糸目をつま走るのは冷や汗。



先刻の恐怖の証であった。



(化け物め・・・)



イソメの手より五発目が撃ち放たれる。



しかし同じ動作を何度もくりかえすようにイゾウは紙一重で避けるとじりじりと距離を詰め続ける。



(ここまでか・・・)



今、イソメの目の前に逃れようのない死が迫っていて、背筋を冷たい恐怖がなで続けている。



しかし何故だろうか、死を前にしてイソメ、彼の目に浮かぶのはあれほど疎んでいたはずのかちかちに干からびた『T煌』の紅い大地だった・・・。



・・・。



『T煌』のある、K寧省に吹く風は時に強い。砂塵を巻き込んだ突風は乾いた地表をやすりがけ、赤土の大地を容赦なく擦りむいていく。



眼前の強風にイソメは鍬を振る手を止めると顔を浮かせた。



舞い上がった風塵を目で追った先に黄ばんだ夕日が見える。



(もうこんな時間か)



早朝からつづく作業で、イソメの立つ一反ほどの農地は丁寧に土が起こされ、すでに畝が切られていた。



測量したかのようなそのたたずまいは周囲の田畑より明らかに美しく、毎日繰り返される彼の勤勉なる仕事の成果だった。



イソメは汗の吹く肌を首に掛けていた手ぬぐいで拭うと、なにか思案をするようなそぶりであたりを見渡した。



彼の目の前には樹木がまばらに頭を出す以外は赤土の丘陵がただただ波打ち、遙かむこうの地平線まで



赤い大海原ともいえる壮大な光景が広がっている。



そして地平線一つで切り分けられた空は、黄ばんではいるものの、いまだ一点の曇りもなく、悲しいことに彼らの待ち焦がれる雨の気配はまだまだないようだった。



実に果てしない大地である。



そして無慈悲な大地でもあった。



イソメはぼんやりとかがむと、足もとの土をつかんだ。



骨ばった長い指が目立つ彼の手のひらに握られた土塊は、握りしめると粘土のように指の形を覚えてへこむが、すぐに身をくずし、さらさらとこぼれはじめる。



K寧省の土は粘土質だ。水を帯びると粘り、さらに乾くとこまやかな粒になって風にのり、霧のごとくさらさらと流れていくのだ。



貧弱な土だった。



耕しても耕してもこの地方の土は太ることなく、あまつさえ近隣では砂漠化すら始まり、ついにはおしよせる流砂にのまれた町もあると聞く。

   


あたりを手当たり次第に飲み込んで、際限なく太る砂漠に反比例するように周囲の村はおしなべて貧しかった。



それは村の農家でもあるイソメも同じだった。



手のひらからこぼれ落ちる赤土の最後の一粒がながれさってもイソメはぼんやりと手を眺めつづけている。



遠くからイソメを呼ぶ声がしたのはそのときだった。



イソメが振り向くと、大小二つの人影が一つ向こうの丘陵で手を振っているのが見えた。



土に汚れてはいるが粗末な服に浮かぶ愛くるしいその風貌は妻と娘だ。



この地における彼の唯一の肉親たちであった。



イソメは彼女たちを呼ぶように声をあげると、脇の木にかけていたボロ布と形容するほうがふさわしい服をつかんで歩き始めた。



やがて三つの影がかさなり、赤土の丘の向こうへと消えていった。



イソメの日常のすべてがそこにあった。



それは彼が「全地連」を抜けてから続けていた贖罪の日々であり、今では生き甲斐となった日々の生活であった。



・・・。

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