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ダンジョンのカギ貸します!  作者: サイミ・ヨージ
第2章 「ダンジョンはじめました」
11/15

占有②

・・・。



(ほんと、俺何やってるんだろう・・・)



廊下の向こうからセラと面接相手とのやり取りが聞こえる。



それを薄く聞き流しながらアユムはため息をついた。



開始から、かれこれ一時間ほどぶっ続けで通していて、アユムの集中力もそろそろ限界のようだった。



八畳一間の貸し会議室の空気もどこか淀んでいるように感じられる。



アユムはここ、『沼田市商工センター・鶴の間』にて『面接』という人生初めてでひょっとしたら最後になるかもしれない経験に四苦八苦していた。



(就活とかまだ先なのに、選ぶ立場になるとはどういうことだよ)



気にすれば気にするほど部屋の空気が重くのしかかる。



アユムはなんともいえない息苦しさに逃げ出したくなってしまう衝動にかられ続けていた。



(いっそ逃げだしてしまおうか)



「失礼します」



そのアユムの邪念をさえぎるように扉のむこうに足音が聞こえ、男の声が差し込んできた。



「はい」



あわてて居住まいを直すとアユムは再び襲い来た緊張に硬直した。



セラに促され次にのっそりと面談室に入ってきた男は明らかにアユムより年上だった。



身長は180センチほどあるだろうか、男は見上げるほどの高さだが、やせぎすで背丈の割りに体に厚みはなく、スーツの腹回りに隙間が出来ている。



「イソメ・ヒロシです」



男は名乗ると力なく一礼し、鳥類をおもわせるかろやかな仕草で長い手足をおりたたむと椅子に腰掛けた。



アユムは頂点に達した緊張に早鐘をうつ鼓動を抑えながら努めて冷静にイソメを観察した



年齢は40才ぐらいだろうか。すこし小じわの散った顔に紛れ込むように目は糸のように細く、そのせいかどこか温厚なイメージを受ける。



脂気のない頭髪はここに来る前に散髪に行ったのか、短く切りそろえられて清潔感を感じさせる。



しかし着ているスーツのくたびれた感といい猫背気味の姿勢といい、総じて受ける印象は生活に疲れたサラリーマンだった。



「えー・・・と」



(な・・・何を聞こうかな)



アユムは先ほどから面談をくりかえしてはいるが、いまだに最初の質問にはなれなかった。



無理もない。



面談なぞ、ただでさえしたことがないのに、ましてや自分より年上ばかり来るなんて想像もしていなかった。



「イソメさんは・・過去にダンジョン経験はありますか」



まごつくアユムを見かねたのか、割り込むようにセラがアユムのかわりに質問する。



アユムはほっとした。



その内面が思わず顔に出てしまったかもしれない。



セラの冷たい目がこちらへ流れる。



しまった。



(「面接中は感情が出ることが交渉に響くときがありますので努めて無表情でいてください」)



面接の前にセラに強く言い含められたのに未だに出来ていない。



(まあでもしょうがないよな、こんなメンツだったら)



思えばここまで3人と話してきたが、面談者ははじめからぶっ飛んでいた。



・・・。



「・・・『T京大学法学部』を主席合格したその二年後に在学中に司法試験に合格して中退。その後世界的コンサルティング会社『Mキンゼー』に就職し、『Nューヨーク』、『Pリ』、『Yハネスブルグ』、『Sャンハイ』など世界を股にかけ仕事をして・・・」



午前十時と同時に『N田商工センター・鶴の間』ではじまった面談はのっけから衝撃的だった。



セラに導かれてまず最初に入室してきたのは高そうなスーツを羽織った40代の男だった。



はっきりした目鼻だちが日に焼けた肌に浮いている。この段階でただ者ではないオーラをかもしだしている。



『ボクはミズノ・ナオトと申します、生まれは・・・』



男は名乗るとそのまま落語の寿限無よろしく、経歴の『詠唱』をはじめた。



「・・・まーそこで私は居並ぶアラブの石油王をちぎっては投げ、ちぎっては投げ・・・」



あぜんとするアユム達をそのままに、男は経歴を積み上げつづけ、いつのまにかアユムの目の前に重厚な城が築き上げられている。



その量と質に圧倒されたアユムは目をそらすようにさっきミズノに手渡された彼の履歴書を見た。



『国際A級ダンジョンプランナー』



『ボイラー技士2級』



『S級野菜ソムリエ』



そこでもアユムの逃げ場を塞ぐように0.1ミリのボールペンでびっしりとタイルのように『資格』が敷き詰められている。



うんざりとしてアユムは履歴書から目を上げた。



ミズノの『詠唱』はまだ続いている。



「その後、砂塵舞う中東にて紛争を目の当たりにしたボクは命の大切さに目覚め、医学部に入学して医師としてNPO団体、『国境なく医療活動』に属しました。そこで医師として私は世界に股をかけ・・・」



結局、ミズノは十分弱を一人で話し続けていた。



「・・・特技は、世界中で仲良くなった友人達におしえてもらった178ヶ国の言葉で挨拶をすることです」



「・・・グッドモーニング、グーテンモルゲン、サワディカー、・・・」



「世界各国をまわられたそうですが、その際のダンジョン体験はどういったものがあるでしょうか」


 

『世界の挨拶』が『中東』をぐるりとまわり、『Aフリカ大陸』にさしかかり、『Sエズ運河』を渡ろうとしたときにさすがにセラが質問に入った。



「まあダンジョン経験と呼べるものはないのですが、それよりもすごかったのが避難キャンプでの負傷者の手術ですね。満足に道具もない中、ボクは・・・」



セラは手を軽くあげるとミズノの話を止めた。



「・・・すみません、話を途中で切りますが質問の続きはよろしいですか」



「いいですよ」



ミズノはとくに不快に思っていない表情でうなずいた。




「では、ミズノさんにお聞きしたいのですが、帰国してからのダンジョン体験は?」



「いや、それもないんですけどね、それよりも私が帰ってきてからら世界医術連合に報告をしたことで採用されました緊急時の医療メソッドがありましてね・・・」



セラはまた軽く手を挙げるとミズノの話をとめにかかった。



・・・。



結局、ミズノの話は脱線してプラス十分の延長となった。



「・・・テロリストをちぎっては投げ、ちぎっては投げ・・・」



「ハイ、スゴイデスネー、こっちへ来てくださいねー」



最後は立ち上がってもまだ話し続けるミズノをセラが引きつった顔で外へ出した。



「初っぱなからなかなか濃い方でしたね・・・」



ミズノを外へ放り出したセラがひきつった顔のままアユムに声を掛ける。



「・・・。」



アユムは暴風に圧せられたように呆然としていた。



「ま、気をとりなおして二人目へ参りましょうか」



セラは務めて明るく言うと二人目を招き入れた。



「失礼します・・・」



パイプ椅子にずって座っているアユムの目に飛び込んで来たのはうら若き女の子だった。



「ウラジロ・ミズハ・・・17歳です」



通う学校の制服だろうか、地味な制服に身を包んだ女子高生は猫背がちに目線を上げずにたんたんと自己紹介をした。



長い髪がかかった顔はすこし陰があるものの、切れ上がった目元に力があって、服装を整えれば相当美人じゃないかと思われた。



アユムはあわてて姿勢を直し、服装を顧みた。



「・・・こちらに高校で引っ越してきて、それまではO山にいました」



「O山ってあのきびだんご県?」



セラが質問する。



「はい、それでダンジョンの経験は、父がO山の『ダンジョン』で泊まり込みで『納務』をしてて、それで一緒に『ダンジョン』に住んでいたので経験はあります」



「『ダンジョン』に住んでいた?」



アユムはついびっくりして声をあげてしまった。



不意にこちらを向いたミズハの澄んだ視線と交差する。



「そっそっ・・それに『納務ノーム』ってよくファンタジーでよく聞く『ドワーフ』って意味じゃなかったけ?」



うわずった声で知識を披露して、したり顔のアユムをよそに、なぜだろうか突然あたりの空気は一瞬にして冷え込んだ。



ぎょっとはりつめたセラの顔がこっちを見ている。



「えっえっ?俺なんか悪いこと言った?」



ミズハはというと突き刺さん勢いでこちらを見ている。



「この人は経験がすくなくてすみません」



「・・・」



「アユム様、今のは酷いですよ!」



セラはミズハにあやまると手厳しくアユムを詰問した。



「えっえっ何?何!?」



アユムは再びうわずった声で叫んでいた。



「アユムさま『土賄夫ドワーフ』という言葉は現在差別用語として放送禁止になっているのを知りませんでしたか?」



セラは手帳を出すと土賄夫とかいてドワーフと当て字をした。



「えっ?えっ?『ドワーフ』が『土賄夫』?」



「『ドントイケの歌』は聞いた事はありませんか?あれはかつて『ドワーフ』とよばれバカにされた『納務』の子供が自分を養うためにダンジョンに潜る母親を慕った歌です」



「あっえっ・・・『ドントイケ』の歌!?」



ともあれアユムはやっと目の前のミズハにとんでもない差別発言をしてしまったらしいことに思い至った。



ミズハはまだ親の敵のようにアユムを睨み続けている。



その眼差しは美しいからこそアユムは内側から震え上がってしまった。



「いや、そんな、悪気は無くて・・・」



顔面を真っ赤にしてアユムは立ち上がると、すぐさまミズハに向かって土下座をした。



「すっ・・・すみませんでしたー!!」



そのときの衝撃があまりにすさまじく、それから後ミズハと何を話したか詳細にはアユムは憶えていない。



・・・。



「アユムさま・・・、アユム様!」



耳元につきささる声でぼんやりとしていたアユムは意識を取り戻した。



ふと見ると隣でセラは怒りを押し殺した顔をしている。



「えっえっ」



「アユム様、どうなされたのですかぼーっとして」



セラが形のいい手でアユムの肩をゆさぶっている。



「先ほどの女子高生に嫌われたのがショックだとしましても、面接はつづいているのですよ!気を抜かないでください」



あれ、・・・俺は何してたんだ



さっきぼろぼろになって・・・あっ・・・



はっと気がついてアユムは背もたれにずれていた姿勢を直して前を見た。



アユム達の前には祖父と同じくらいの老人がちょこんと座っていた。



「ヤマノエ・ショウゾウです」



無職です、老人はそう自己紹介すると頭をさげた。



見苦しいところをお見せして申し訳ありませんと頭をさげてからセラは質問を始めた。



「あの・・・その年齢でどうして『ダンジョン』に潜ろうと?」



セラは手もとの履歴書に目を運んだ。そして経験欄に初心者とかいてあるのを見つけるとぎょっとした顔をした。



「へえ、定年後、何か趣味でも始めようかと思いまして」



「趣味・・・そうですか・・・」



絶句した顔を隠そうともせず、セラは息を吐いた。



その後お互いに話す点もなく、いつしか話はヤマノエの趣味である盆栽に移った。



「黒松はね、やはり根腐れが恐ろしいですね、そこで植え替えは・・・」



目の前で身振り手振りを交えながら嬉々として説明するショウゾウをげっそりとしてアユムとセラは見つめていた。



その後、「ダンジョンはどんな感じなんでしょう」というショウゾウの質問を曖昧に誤魔化していよいよ面接は最後の人間を残すだけになった。



・・・。



「イソメ・ヒロシです」



そして今、目の前に最後の面接者がいる。



どこか鳥をおもわせる風情の中年男は猫背気味に椅子に腰掛けている。



(質問といわれてもな・・・)



頭がうまく回らずアユムは頭をかいた。



今までの経緯に疲れ果てたアユムとしてはただ早く終わることのみを考えていたが、セラはそうではないらしい。



セラはイソメの顔と履歴書を見比べては何かを考えている。



「あの、イソメさん・・・ここに書かれている『ダンジョン』以外の潜行はありますか」



「・・い・・・いえありません・・・」



奇妙なことにイソメはあきらかに動揺して答えた。



「そうですか」



セラは何かを確信したようで軽くほくそ笑むとなにかを履歴書に書き込んでいる。



「あの・・・」



「はい」



セラの質問にびくついたまま、イソメはセラに逆質問した。



「・・・今回の洞窟の未踏度はどのくらいでしょうか」



「はい、『契約者』以外開けることの出来ない扉のせいで三階以降は未だ未踏となっております」



「三階以降は未踏・・・それはいい」



イソメの糸のような目が一瞬見開かれたように思えた。



「イソメさんは『キト条約』はご存じですかね」



「あ・・い・・いえ、知りません・・」



セラは何を考えたのだろうか、アユムにも理解不能な質問をした。



しかし効果はあった様で、ぎくり、イソメの動揺がアユムにも手を取るようにわかった。



「・・・よくわかりました。イソメ様、本日はありがとうございました。結果はまた後日お教え致しますので、その際はよろしくお願いいたします」



結局アユムには女子高生の恨みを買うだけで、なにやら分からないままに面接は終わった。


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