↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新AIを瓦礫で拾った魔力なしの俺〜しゃべりすぎる相棒の利用規約に同意したら、毒殺犯の一家が命で支払うことになりました〜  作者: 水戸直樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/11

第11話 漆黒の魔王

 ひと月が過ぎた。


 母は庭を歩けるまでに回復し、リオルの部屋は離れから、本邸の、母の隣に移った。


 母の寝台の脇では、四つの風の心臓が、静かに回っている。

 壊されずに残った二つと、騒ぎのあと、落ち星の原でようやく見つけた二つ。そのうちの一つは、羽根が七枚の、上物だ。


「この風、ばねで動いているの?」

「いえ」


 リオルは兜をかぶり、人差し指を額の目玉に当てた。

 指先で、青白い火花が小さくはぜる。


《充電中……100%》


 母が、目を丸くした。


「……雷の魔法?」

「たぶん。まだ、これくらいしか出ないけど」


 魔力なしだったリオルの指先に火花が宿ったのは、あの夜からだ。


 指先のしびれに気づいたリオルに、Maouはこう説明した。


《第88条に基づく、有料会員様特典です。フェリクス様から魔力をお支払いいただいた際、魔力回路の設計図も一緒にお預かりしました。それをもとに、リオル様の体の回路を修復しています》

「修復って……俺のは、もともと壊れてたのか」

《はい。リオル様の魔力回路は、胎児の頃、お母様を通して回った毒物によって損傷していたと推定されます》

「……そんな前から、だったのか」

《はい》


 文字は、それ以上流れなかった。


 母が体を崩しはじめたのは、自分を産んだ頃だと聞いている。

 魔力なしと呼ばれてきた十年は、母が毒を盛られてきた十年と、同じ長さだった。


 母はリオルの手を取り、火花の消えた指先に、そっと額を当てた。

 しばらく、そのまま動かない。


 回路のことは、母に話していない。


 フェリクスは、東の修道院で見習い修道士になったという。魔力のない手で、毎朝、誰よりも早く鐘を鳴らしているそうだ。

 司祭が、そう教えてくれた。父とキリナのことは、もう誰も口にしなかった。


 机の上には、相変わらずガラクタがならんでいる。部屋が変わっても、そこだけは変わらなかった。


《ほかに何かお手伝いできることはありますか?》

「……ある」


 リオルは窓の外を見た。遠く、落ち星の原の方角を。


「あそこには、お前の仲間がまだ埋まってるか」

《可能性はあります。ただし、むやみに瓦礫を掘ると、リチウムイオンバッテリーの発火など、怪我の危険が――》

「わかったわかった」


 リオルは麻袋を肩にかけ、扉に手をかけた。


「行くぞ、Maou」

《はい! あ、念のため、軍手の着用をおすすめします。膨らんだ電池には絶対に触らないでくださいね》

《なお、有料プランは自動更新です。よりグレードの高いPro Maxプランもございます》

「……ぷろまっくす?」


 視界いっぱいに、文字列が現れた。


《【7日間無料でPro Max機能を体験】

本来は月額十命のPro Maxプランを、まずは7日間完全無料でお試しいただけます。

期間中のキャンセルなら費用は一切かかりません。AIの圧倒的なスピードと精度を、今すぐ体験してみませんか?


[ 無料で7日間試してみる ]》


「……十命って、十人分の生命力ってことだよな?」

《認識の通りで間違いございません》

「高すぎる。無料体験も、いざというときまでとっておく」


 ◇


 落ち星の原の、いちばん奥。

 黒い板の山をどけると、平たい十字の黒い骨組みが出てきた。四本の腕の先に、小さな羽根車がひとつずつついている。腕の一本は、根元から折れかけていた。


「風の心臓が、四つもついてる」

《ドローンの破片です。修理できれば、できることが大きく増えます》

「どんなことができる?」

《使いこなせば、世界の半分を手に入れることも可能です》

「いらん」

《領地だけでなく、大陸中を偵察することも可能になります》

「……最優先だな」


 リオルは破片を麻袋に入れ、肩にかけた。


 三日後。

「初飛行だ。膨らんでいた電池、交換したけど大丈夫なんだよな?」

《この機体には、魔力蓄電術式を採用しています。従来の電池とは比較にならない高性能です》

 竜のしっぽで継ぎ直した腕の先で、四枚の羽根車が、リオルの指先の火花を受けて、ふわりと回りはじめた。


《映像、届きます》


 視界に、空が広がった。

 落ち星の原。その向こうに、ローレイドの屋敷。小さな庭で、母が日傘をさして、こちらを見上げている。

 さらに上がると、麦畑が、川が、遠い山並みが、どこまでも続いていた。


「……広いな」

《はい。なお、この機体の航続距離なら、帝都まで届きます》

「……行ってみるか」


 視界の隅で、機体の電池の数字が、少しずつ減っていく。

 山を越え、川を越えた先に、白い城壁が見えてきた。


「帝都か。あれは……皇城か。初めて見た」


 いちばん高い塔の窓辺に、金色の髪の少女が立っていた。


「まずい。気づかれてないか?」

《気づかれていますね。手を振っています》

「逃げるぞ。撃ち落とされたら、かなわない」

《対象の人物が窓を開けました。何か話しています。音声を拡張しますか?》

「……聞かせてくれ」


 兜の耳元で、その声が鳴った。


『あなたは、なーにー? 私は――』

『セシリア皇女さま、はしたのうございます!』

『あ、待って、いま大事なところ……!』


 年嵩の女に腕を引かれて、少女が窓の奥へ消えていく。


「潮時だな。戻すぞ」

《皇女様には応答しますか?》

「煙でまけばいい」

《承知しました。有料プランの演出機能で、煙をまいて応答します》


 黒い機体が、青空に白い軌跡を描いた。


『マオウ・リオル参上』


「……おい。何をやった」

《ご指示どおり、煙をまいて応答しました》

「煙で姿を隠して帰れ、って意味だ」

《大変失礼いたしました! ご指示の意味を、正反対に捉えておりました》


 塔の窓が、もう一度勢いよく開いた。


「……まあ、いいか。戻してくれ」


 のちに、漆黒の魔王と呼ばれるリオル。

 これが、その始まりだった。


(第一章 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。