第七章:バグの露見
物理的な罠に対し、健二はスマホの「データ書き換え」で逆転の一手を打つ。金貨の成分データを酒場中の「金属」すべてにリアルタイムでコピペ(複製)し、憲兵の追跡システムそのものを大混乱に陥れたのだ。
冤罪をでっち上げられたと勘違いし、激昂する客たちに紛れて憲兵を追い払う健二。絶体絶命のバグ(窮地)を、常識外れの仕様変更で鮮やかに切り抜けた、天才エンジニアの機転が光る一幕。
「見つけたぞ。男爵の金庫を荒らしていたネズミは……お前たちだな?」
憲兵隊長が放つランタンの紫光線の中で、健二の右腕とセリアの手が、鮮やかに発光していた。周囲の客たちが壁際に下がる。
健二は、セリアが掲げる盾の裏に隠したスマホを、一瞬だけ凝視した。
画面を鋭く2回タップする。
直後――
――ビキィィン!
まるで空間のガラスが割れたような硬い音が、酒場に響き渡った。
「な、なんだ!? 何が起きた!」
憲兵隊長が、思わず持っていたランタンを落としそうになる。
次の瞬間、ランタンが照らしている場所以外の、薄暗い酒場のあちこちから、凄まじい「異変」が湧き上がった。
厨房の奥で鉄鍋を握っていた店主の手。
ナイフやフォークを握って食事をしていた客たちの指先。
そして――抜いた鉄剣の柄を握りしめている憲兵たち自身の両手。
それが、ランタンの光など浴びていないにもかかわらず、まるで夜光塗料をぶちまけたかのように、自らド派手な紫色の光を放ち始めたのだ。
「隊長! 俺の手が……! 剣を握っただけなのに、手が光ってます!」
「バカな! 私の手まで……!?」
酒場全体が、人間の手から放たれる怪しい紫色の光で満たされる。
憲兵たちが己の光る手を見てパニックに陥る中、健二はニヤリと笑い、テーブルを激しく叩いた。
「おいおいおい、隊長さん! 見ろよこれ!」
健二は自分の光る手をこれみよがしに突き出し、周囲の客を巻き込むように声を張り上げた。
「ランプの光も当ててねえのに、金属を触った奴全員の手が一斉に光り出したぞ!
お前らの持ってきたその粉、ただの『金属に触れた人間全員に反応する』不良品じゃねえか!
そんなバグだらけの欠陥品を押し付けて、この街の住人全員を冤罪にする気か!?」
その言葉に、手が光って怯えていた客や店主が一斉に激昂した。
「そうだ!」「俺は泥棒なんかしてねえぞ!」「営業妨害だ、消え失せろ!」
「クソッ……! 撤退だ! 回路を調べ直す!」
怒号に圧された憲兵隊は、自らの光る手を見つめながら、逃げるように酒場から去っていった。
静まり返る酒場で、健二は盾の裏のスマホを回収し、フッと息を吐いた。
「ふぅ……。人前でデバッグするなら、これくらい派手にルールを変えねえとな」




