第四十四話:世界のリブートと、天才の敗北(告白)
定時退社と天才の涙
「よし、一発で通すぞ! ――エンター(実行)だッッ!!」
二人の天才のロジックが融合し、健二のスマートフォンとエレノアの魔力が完全に同期した。
崩壊まで残り数十秒。世界が強制終了しかける限界のタイムリミットの中、地球のトップエンジニアと異世界の天才魔導士による、命がけの超高速コンパイルが世界のシステムを書き換えていく。
――チーン。
健二がスマホの画面を最後に強くタップした瞬間、世界の中枢サーバーに全てのコードが完全にデプロイされた。
異世界の「魔法OS」と、健二の「バイナリOS」が、ドワーフのミスリルプレートをブリッジ(架け橋)にして完全に融合したのだ。
【システム:パッチ適用完了】
【ステータス:メモリリーク完全解消。世界全体の整合性を再起動します】
まばゆい純白の光が祭壇から溢れ出し、壊れかけていた黒いノイズの壁を次々と塗り替えていく。上下逆さまだった水は正常に流れ出し、世界の寿命(納期)は「残り3ヶ月」から「無限」へと書き換わった。
「ふぅ……。バグフィックス、完了。……これで今夜こそ定時退社できるな」
健二はへたり込み、ボロボロのネクタイを緩めていつものヘラヘラした笑みに戻った。
「……終わったのね」
エレノアは、美しく再生していく世界を見つめながら、ぽつりと言った。そして、ゆっくりと健二に向き直る。その青い瞳には、涙がたまっていた。
「あんたが……『Kenji』。私をネットでコケにして、中央魔導院のセキュリティをオモチャにしたクソハッカー」
「あー、それについてはその、すまん。悪気はなかったんだ、ただ仕様が甘かったからついパッチをな……」
「うるさいわよ!!」
エレノアが叫ぶ。彼女は健二の胸ぐらを掴み、顔を真っ赤にして涙をボロボロとこぼした。
「悔しい……ものすごく悔しいわよ! あんたのこと、ずっと憎んで、絶対に私の手でデバッグ(処刑)してやるって思ってた! ……でも、でもね……!」
エレノアは健二の胸に頭を押し付けた。
「あんたの書くコード、世界で一番綺麗だったんだから……! 私が何日も悩んだバグを、あんたは一瞬で、誰も思いつかないようなエレガントな方法で直してみせるの。憎たらしくて、でも、世界で私と同じ『言語』で話せるのはあんたしかいなくて……! 少しだけ……本当に少しだけ、憧れてたのよ、バカ!!」
天才ゆえに孤独だった少女の、それが精一杯の「憧れ」の告白だった。
健二は「え、あ、はい……」と、30歳チェリーのコミュ障を発揮して完全にフリーズしてしまう。




