第四十三話:正体露見(あんたがKenjiね)
「お嬢様、これより『突貫のリアルタイム・コード全移植』を開始する。セリア、3分間、俺たちを死守しろ!」
カウントダウンが響く世界の最深部で、健二はついにその切り札――デバッグアプリが起動したスマートフォンを取り出した。
神の溶鉱炉から漏れ出る魔力をBluetoothで同期し、世界の中枢サーバーの全ソースコードを手元に強制展開する。互換性のないOS同士を力づくで繋ぎ合わせる、前代未聞の神速ハッキングが始まった。
――タタタタタタタタタタタタタタンッ!!!
スマホの画面上に、残像が見えるほどの速度でコードが打ち込まれていく。
健二の指の動きは、もはや人間のそれではない。地球のゲーム開発の第一線で、無数のバグをワンマンで叩き潰してきたトップエンジニアの、文字通りの命を削るフルスクラッチ(全書き換え)だった。
「Magical-OSの構文を、俺のバイナリ式にリアルタイムで全翻訳する……! 間に合え、間に合え、間に合えッ!!」
隣でそれを見ていたエレノアは、言葉を失っていた。
健二のスマホから溢れ出る、世界のシステムを強制的に書き換える圧倒的なハッキング・ログ。
そして何より、健二が打ち込んでいるコードの「クセ(・・・・)」――。
無駄が一切ないのに、どこか冷徹なほど合理主義で、それでいて既存の魔法体系を嘲笑うかのような不届きなバックドア(抜け道)の仕込み方。
(このコードの組み方……、この、私の中央魔導院のセキュリティを紙切れみたいに破った、あの最低最悪の、意地悪なハッカーのロジック……!)
エレノアの脳裏に、画面の向こうで自分を徹底的に煽り散らかしてきた、あの『Kenji』の残響が完全に重なった。
「……嘘。サトウ、あんた……」
エレノアが、カチコチに震える指で健二を指差す。
「あんたが、私がずっと探してた……天才ハッカー『Kenji』ね!?」
健二はキーを叩く手を一瞬たりとも止めず、泥と汗にまみれた顔で、ニヤリと不敵に笑った。
「ああ、そうだ。俺が王宮のシステムにバグパッチを送り続けた不届き者、Kenjiだ。……怒るなら世界が直った後にいくらでも聞いてやる、お嬢様! 今は納期が先だ! お前のその天才的な魔術演算(CPU)を貸せ! 二人でこの世界のバグを、完全にスクラップ(全消去)するぞ!!」
「っ――、この、バグ野郎……!!」
エレノアは怒りで顔を真っ赤にしながらも、同時に、胸の奥から湧き上がるような「技術者としての歓喜」で震えていた。ずっと画面の向こうで追いかけていた、自分より遥かに先を行く最強のエンジニアが、今、目の前で世界を救うためにコードを叩いている。
「いいわよ、やってやろうじゃない! 納期遅れなんて、天才魔導士エレノアの名が廃るわ! 私の魔力を全部、あんたのその変な板に同期しなさい!!」
「よし、一発で通すぞ(ノンバグ・リリース)! ――エンター(実行)だッッ!!」
二人の天才のソフトウェア・ロジックが、ドワーフのハードウェアの上で完全に融合した――。




