第四十一話:職人の意地と超導魔導回路(リファクタリング)
健二の放った強烈な一撃により、溶鉱炉を覆っていたデジタルノイズが弾け飛んだ。一時的なハードウェア・リブートである。
凍てついていた炉の奥から真っ赤なマグマが噴き出し、街全体の気温が一気に書き換わっていく。
「直った……? 叩いただけなのに、マナの熱循環サイクルが正常値に戻ったわ!?」と目を見開くエレノア。
老ドワーフのバルカンは震えながら火柱を見上げ、健二の肩を掴んだ。
「あんた、炉の魔力の『ツボ』を完璧に見抜いて歪みを補正しやがったな! 天才じゃ!」
「いや、ただの昭和の知恵(物理リセット)だけどな……」と健二が汗を拭う中、溶鉱炉が復活したとなれば、ドワーフの仕事は早かった。
溶鉱炉が復活したとなれば、ドワーフの仕事は早い。
「よおし、お前ら! 命の恩人の頼みだ、最高の仕事をしてやるぞ! ミスリル原石を炉にぶち込めぇ!」
バルカンの号令で、街中のドワーフたちが一斉に槌を振るい始めた。
――カン! カン! カン! カン!
地底の都市に、小気味良い鍛冶の音が響き渡る。
健二たちが持ち込んだミスリルの原石は、マグマの熱でドロドロに溶かされ、不純物を完全に削ぎ落とされた、まばゆい純銀の液体へと変わっていった。
「サトウ、ただ融かすだけじゃダメよ。世界のメモリリークを止めるには、私の魔術基盤をそのまま流せるような、超精密な『回路の溝』を金属内に刻まなきゃいけないわ」
エレノアが魔導短剣を取り出し、空中に複雑な魔術幾何学を展開する。
「お嬢様、そこは俺とバルカンさんに任せな。バルカンさん、俺が指示する『座標』通りに、コンマ数ミリの狂いもなく槌を入れてくれ」
「おうよ! ワシのこの目に狂いはない!」
健二がエレノアのソースコードを読み解き、「ここを1ビット削れ」「ここに伝導のラインを通せ」と、鍛冶のタイミングを細かくディレクション(指示)していく。
「そこだ、叩け!」
「オラァッ!!」 ――カキィン!
「次、右へ0.5ミリ! 叩け!」
「これかぁッ!!」 ――カキィン!
ソフトウェアのロジック(健二とエレノア)と、ハードウェアの職人技が、完璧な同期を見せる。
数時間のデスマーチ(徹夜作業)の末――。
完成したのは、透き通るような銀色の輝きの中に、青い光の魔導回路が幾重にも精密に巡らされた、前代未聞の『超導魔導パッチプレート』だった。
「……できた。これなら、世界全体の魔力の漏れ(メモリリーク)を、物理的に塞いで書き換えることができるわ……!」
エレノアが、その美しく完成したプレートを見て、うっとりと声を漏らした。
「よし。開発環境は整った」
健二は泥と煤で真っ黒になった安物のスーツの襟を正し、ポケットの中で少しずつ電波(チート機能)が回復し始めたスマートフォンをそっと握りしめた。
「納期(世界の滅亡)まで、あと2ヶ月。……お嬢様、次はいよいよ、このパッチ(ミスリルプレート)を世界の中枢サーバー(根源の祭壇)に直接デプロイ(設置)しに行くぞ」
お互いの実力を完全に認め合い、最高のチームワークを発揮し始めた三人。
しかし、世界の中枢へと向かう彼らの前に、この世界を「クラッシュ(滅亡)」させようとする、システムの本当のバグそのものが牙を剥こうとしていた――。




