第四十話:昭和風物理デバッグ(叩けば直る)
「ダメじゃ、マナの供給経路が完全に凍りついてやがる!」
老ドワーフのバルカンが頭を抱え、天才魔導士のエレノアが冷汗を流しながら、赤く点滅する無数のエラーログ(魔法陣)を睨みつけていた。
世界を管理するシステムが引き起こした、原因不明のフリーズ。誰もが絶望する中、元・社畜ゲームデベロッパーの健二だけは、腕を組んでそのエラー画面をじっと見つめていた。
(……待てよ。このエラーの出方、プログラムのバグじゃない。処理の限界を超えたデータが局所的に滞留して起こる、アレだろ)
「バルカン、そのデカい槌を貸しな」
サトウは困惑するバルカンからズシリと重い鍛冶槌を受け取ると、青白いデジタルノイズが火花を散らす溶鉱炉の「最も歪んだ一点」へと歩みを進めた。
「排熱プロトコルが異常ループしてやがる……。つまり、全体の回路のどこかに『接触不良(データの詰まり)』が起きてるだけだ!」
健二はバルカンから受け取った巨大な槌を両手で構え、凍りついた溶鉱炉の側面に狙いを定めた。
「ちょっとサトウ!? 何するつもりよ、そんな原始的な方法で世界のシステムエラーが直るわけ――」
エレノアが止めようと叫ぶ。
「お嬢様、昭和の家電ってのはなぁ……調子が悪くなったらぶっ叩くのが一番の最適化なんだよ!!」(親父の受け売り!)
健二は社畜時代のゲーム開発室で、フリーズした業務用サーバーの筐体を蹴飛ばして無理やり再起動させた思い出を脳裏に浮かべながら、全身の体重を乗せて槌を振り下ろした。
――ガキィィィィィンッッッ!!!!
溶鉱炉の魔力配線が集中する歪んだ空間(バグの発生源)へ、強烈な物理的衝撃が叩き込まれる。
「グアッ!?」
バルカンが悲鳴をあげる。しかし次の瞬間、溶鉱炉の表面を覆っていたデジタルノイズのモザイクが、ガラスが割れるように『パリン!』と弾け飛んだ。
一時的に世界の処理が強制リセット(ハードウェア・リブート)されたのだ。
――ボオォォォォォォッッッ!!!
「な……ッ!?」
エレノアが目を見開く。
凍りついていた溶鉱炉の奥から、目の眩むような真っ赤なマグマの熱気が、爆音と共に一気に噴き出した。街全体の気温が、一瞬にして元の汗ばむような熱気へと書き換わっていく。
「な、直った……? 嘘、叩いただけなのに、マナの熱循環サイクルが正常値に戻ったわ……!?」
頭を抱えていた老ドワーフ、バルカンは、ゴウゴウと燃え盛る火柱を見上げて、ガタガタと震え出した。そして、健二の前にドカドカと歩み寄ると、その太い両手で健二の肩をガシッと掴んだ。
「あんた……! 今の、ただの力任せじゃねえ! 炉の魔力の『ツボ(結合部)』を完璧に見抜いて、衝撃で歪みを補正しやがったな!? 天才だ、あんたは最高のハードウェア職人じゃ!」
「いや、ただの昭和の知恵(物理リセット)だけどな……」
健二はヘラヘラと笑いながら汗を拭った。




