第三十七話:同期不全の最深部(リアルデバッグ戦闘)
エレノアが開通させた「元に戻らない一直線の不具合」を駆け抜け、三人はついに『世界の墓場』の最深部、スマホが完全に沈黙した暗黒領域へとたどり着いた。
そこは、世界の寿命が残り3ヶ月となった原因――メモリリークが最も深刻な『仕様崩壊エリア』だった。
「ひっ、冷たっ……!? 何よこれ、上から水が降って……って、これ、下から上に水が逆流して弾けてる(・・・・・・・・・・・)!?」
エレノアが驚愕の声を上げる。
上下左右のグラフィック(重力データ)が完全に狂っており、天井から生えた奇妙な結晶が明滅し、足元の地面は沼のようにドロドロとデジタルノイズを吐き出していた。
――ピキピキピキ……、ゴガガガガッ!
空間のノイズが一点に集まり、三人の前に巨大な影が形成される。
それは、かつてこのダンジョンを統べる守護者だったはずの『古代の地竜』。しかし、その姿は世界のバグによって見るも無惨に変貌していた。
皮膚はテクスチャが剥がれて剥き出しの黒いブロックのようになり、頭部が3つにブレて二重、三重にブレて残像を残している。
「グオォォォォォォッ!!」
「嘘っ、なによあの魔力質量……! 防御陣、展開ッ!!」
エレノアが咄嗟に魔導短剣を掲げ、幾重もの幾何学的な魔術障壁を張る。
しかし、地竜がバグった腕を無造作に振り下ろした瞬間――。
――パリンッ!!!
「なっ……!? 私の最高密度の障壁が、接触すらしてないのに一瞬で砕かれた……!?」
「お嬢様、落ち着け! 奴の腕の『当たり判定(攻撃範囲)』のデータが引き伸ばされて肥大化してやがるんだ! 画面上の見た目に騙されるな!」
サトウ(健二)が叫びながらエレノアの襟首を掴み、泥まみれになりながら横へ飛び退いた。直後、エレノアがさっきまでいた空間が、目に見えない衝撃波で爆発したように消し飛ぶ。
「サ、サトウ……あんた、なんでそんなことが分かるのよ!?」
「伊達にフリーランスで修羅場を潜ってねえんだよ! セリア、奴のモーション(動き)の『同期ズレ』が来るぞ、カウントを合わせろ!」
健二はチートスマホが使えない今、自分の『社畜時代に何万回と見たバグ画面の経験』だけを頼りに、地竜の狂った挙動を凝視していた。
「あいつの攻撃は、世界の処理落ち(ラグ)のせいで、**右腕を振り下ろした後の『コンマ5秒』だけ、全身の処理が完全に停止**する! エレノア、お前の魔術演算で、そのフリーズの瞬間の『座標』に最大火力を叩き込めるか!?」
「コンマ5秒……!? 冗談言わないで、そんな一瞬のラグ、人間の目で捉えられるわけ――」
「お前の『天才的な演算(頭脳)』なら、できるだろ(・・・・)!!」
健二がヘラヘラとした営業スマイルを完全に捨て、真剣なプロの目でエレノアを見据える。
エレノアはその瞳の奥にある圧倒的な「ロジック(知性)」に気圧され、思わず小さく息を呑んだ。この冴えないおじさん、ただの冒険者じゃない――。
「……ふん、あったり前じゃない! 私を誰だと思ってるのよ! 王宮のトップよ!」
エレノアが不敵に笑い、短剣を構える。
「セリア、行くぞ! 3、2、1……今だ(フリーズ)!!」
「はあああぁぁぁッ!!」
健二の合図と同時に、セリアが電光石火の速度で地竜の足元へと滑り込み、バグって静止した巨大な前脚の結合部を、白銀の聖剣で深く切り裂いた。
「グアッ!?」
世界のバグ(ラグ)によって完全に動きを止められた地竜が、苦悶の声を上げる。その隙を、エレノアの青い瞳が見逃さなかった。
「私の演算をなめるなぉぉぉ! ロックオン、一括消去(全消去)ォッ!!」
エレノアの放った最大級の光線が、静止した地竜の脳直撃し、その巨体を木っ端微塵に爆破した。
――ドガァァァァァァンッ!!!!
バグったオブジェクトが消滅し、暗黒の空間に静寂が戻る。地竜がいた場所には、まばゆい輝きを放つ、透き通った銀色の鉱石がゴロゴロと転がっていた。
「……はぁ、はぁ……。やった、わね……」
エレノアが膝をつき、荒い息を吐く。
「ああ、見事なリファクタリング(バグ退治)だ、エレノアお嬢様」
健二はその銀色の輝き――求めていた超希少金属『ミスリル』を見つめ、泥を拭いながらニヤリと笑った。
まずは最初の関門を、チートなしの「共同デバッグ」で突破した三人。しかし、世界の崩壊を止めるには、このミスリルをどう運用するかが鍵になる。
お互いの実力を認め合い始めた凸凹トリオの冒険は、ここからさらに加速していく――!




