第三十六話:ガベージコレクションの機能不全
世界を維持するためのシステムリソース(魔力)が、すでに限界を迎えている――。
再び『世界の墓場』へと足を踏み入れた健二たち。
彼らの目の前に現れたのは、かつてエレノアが力任せにぶち抜いた、一直線の巨大なトンネルだった。
通常ならばダンジョンの自動修復機能によって、とうに元通りに塞がっているはずの異形。
だが、そこに残されていたのは、修復されるどころか、ピチピチと虚空にノイズを吐き出し続ける「バグった断面」だった。
ダンジョン自体のデータ破損まで、残り時間はあとわずか。
絶望的なシステムハングアップの予兆を前に、健二は不敵に笑い、この「バグった直線ルート」を最速で駆け抜ける決断を下す――!
「……なあ、エレノアお嬢様。これ、あんたがぶち抜いたトンネルだよな?」
再び『世界の墓場』に突入したサトウ(健二)、セリア、エレノアの三人。
健二が呆れたように指差した先には、本来なら複雑に入り組んだ迷宮であるはずの場所が、直径数メートルにわたって綺麗にくり抜かれた一直線の空洞が、どこまでも奥へ続いていた。
「ふん、そうよ! 障害物は全消去して直線で進む。これが私の最適化(やり方)よ!」
エレノアはふんぞり返って自慢げに胸を張る。
しかし、健二はその滑らかな岩肌に触れ、冷や汗を流した。
「……おかしいな。普通、この手の高難度ダンジョンってのは、世界の自動修復機能が働いて、破壊された地形データは数時間で『バックアップ(元の迷宮)』から自動生成されて元に戻る仕様だろ?」
「え……?」
健二の鋭い指摘に、エレノアがピクリと動きを止めた。
「それが、あんたが数日前に通ったはずのこのトンネル、これっぽっちも再生してねえぞ。それどころか、削られたデータの断面が……まるで処理落ちしたみたいに、ピチピチとノイズを吐き出してる」
健二の言う通り、くり抜かれたトンネルの縁は、ボヤけたデジタルモザイクのようになって静止していた。
「嘘……。中央魔導院の定義(仕様)では、迷宮の欠損は1日で完全修復されるはずなのに……」
エレノアの顔から、みるみる血の気が引いていく。
「世界全体のメモリ(魔力)が枯渇しかけてて、自動修復のコマンドを処理するだけのシステムリソース(余力)が残ってねえんだ。メモリリークでサーバーが完全に重くなってる(ハングアップ寸前)。……このままだと、ミスリルを回収する前に、このダンジョン自体が『データ破損』して消滅するぞ」
「そんな……! 冗談じゃないわ、私の演算が追いつかないなんて認めない!」
エレノアは焦りで魔導短剣を握りしめる。
「お嬢様、焦るな。この一直線のトンネルは、リフレッシュされてねえおかげで『最速のショートカットルート』としてそのまま使える。これだけは、クソ仕様に感謝だな」
健二は泥だらけのネクタイをクイッと引き上げ、不敵に笑った。
「チート移動が使えなくても、あらかじめ開通してるこの直線ルートを爆走すれば、最深部のバグ地帯(暗黒領域)まですぐだ。セリア、お嬢様を護衛しつつ、フルスロットルで駆け抜けるぞ!」
「御意、サトウ様!」




