第三十五話:チーフ・アーキテクトの物理最適化(更地化)
サトウ(健二)とセリアが、あまりの異常事態に一度町へと撤退を余儀なくされていた、まさにその裏での出来事である。
『世界の墓場』と呼ばれるその最悪の深淵へ、狂気とも言える速度で突入していく一つの影があった。王宮最高戦力にして、最凶の天才少女――エレノア・フォン・ローゼンバーグである。
彼女が乗ってきた最高速の魔導馬車は、すでに世界のバグに巻き込まれ、原型を留めぬほどに大破し乗り捨てられていた。しかし、彼女の足が止まることはない。
手に握るは、王宮のメインサーバーに直結された超高性能デバイス『演算用魔導短剣』。だが、その画面に表示されるログは、すでに彼女の想定を遥かに超える危険信号を告げていた――。
「ハァ……ハァ……! もう、なんなのよこのクソダンジョン……っ!」
サトウ(健二)とセリアが町へ撤退するより少し前。
エレノアは、最高速の魔導馬車を乗り捨て、単身で『世界の墓場』の内部へと突入していた。
彼女の持つ演算用魔導短剣は、王宮のメインサーバーに直結された超高性能デバイスだ。しかし、このダンジョンの奥に進むにつれ、世界生成のバグによる「ラグ(処理落ち)」が激しくなり、通常の自動照準や索敵術式が次々とエラーを起こして強制終了していく。
「チッ、敵の挙動データが壊れてて読み切れない……! だったら、動作パターンを予測して避けるなんて高度なこと、やってられるわけないじゃない!」
暗闇から、グラフィックの崩れたような不気味な上位魔物の群れが、あり得ない速度と角度からエレノアに襲いかかる。
並のAランク冒険者なら一瞬で肉塊にされる絶望的な状況。だが、王宮最凶の天才少女の解決策は、健二の『ハッキング(仕様改ざん)』とは根本的に異なるものだった。
「バグったオブジェクト(魔物)が邪魔なら――そのエリアのメモリ(存在)ごと、一括消去(全消去)すればいいのよ!!」
エレノアが魔導短剣を地面に突き立て、自身の膨大な魔力を一気に解放する。
「王宮最高権限(Root)・広域コード実行――『傲慢なる白銀の劫火』!!」
――ズガガガガガガガガガギィィィンッ!!!!
彼女が放ったのは、敵の弱点を突くようなエレガントな魔術ではない。
ダンジョンの通路という「空間の枠組み」そのものを、圧倒的なマナの質量で無理やり焼き尽くす、いわば物理的なサーバークリーンアップ(更地化)だった。
「ギエェェェーッ!?」と悲鳴を上げる暇もなく、襲いかかってきた魔物たちは、彼らが立っていた頑丈な岩壁や、配置されていた凶悪な罠のデータごと、まとめて光の塵へと消滅していく。
エレノアがハァハァと荒い息を吐きながら短剣を引き抜くと、そこには――本来なら複雑に入り組んでいるはずの迷宮の壁が、直径数メートルにわたって綺麗にくり抜かれ、最深部へと直通する「一直線の滑らかなトンネル」が完成していた。
「ふん……。これで障害物はゼロ(更地)ね。歩いて行くのが一番確実で速いわ」
空間をジャンプするチート(健二)に対し、エレノアは「目の前にある障害物を、壁ごとすべて消し飛ばして直線で進む」という、文字通りの力技(物理最適化)で最深部まで時間をかけずに到達していたのだ。
だからこそ、後から来た健二が「……お嬢様。これ、壁が全部溶けて一直線のトンネルになってるんですが」と呆れることになるわけですね(笑)。
チートでサクッと移動した健二と、圧倒的な国家予算級の魔力でダンジョンを破壊しながら進んだエレノア。
この二人のアプローチの違いが、今後の共同攻略でどう化学反応を起こすのか――。




