第三十二話・改:偽名の登録(エイリアス・プロトコル)
宿敵とは知らずに、最強のタッグ結成。
天才魔導士エレノアが追うのは、世界を狂わせる「最強のハッカー」。
しかし、彼女が勧誘した実力派の冒険者「サトウ」こそ、その正体である健二その人だった。
「私が追っているのは最低最悪のクソバグ野郎よ」
「あはは、そんな奴と俺が同一人物なわけないだろ(冷や汗)」
互いの正体を隠し、腹の探り合いをしながら進む「バグだらけ」の共同戦線。
チート不可の地獄ダンジョンを攻略せよ!
偽名で潜入する社畜ハッカーと、何も知らない天才少女の、キケンで滑稽な共同開発の始まりだ。
「ねえ、そこの変な服のおじさん」
エレノアがジュースのグラスを片手に、ツカツカと健二の席まで歩み寄り、上から目線で声をかけてきた。
「あんたたち、さっきまで『世界の墓場』にいたでしょ。あの奥の、空間がグチャグチャに壊れてるエリアのルール、何か分かった?」
健二はいつものヘラヘラとした営業スマイルを浮かべ、串焼き肉をモグモグと噛み砕きながら答える。
「お嬢ちゃん、お目が高いね。ああ、あのクソステージ(エリア)な。あそこは普通の力技じゃ進めねえよ。敵の挙動に一定の『ラグ(同期ズレ)』があるのを見抜かないと、一瞬で詰む(全滅する)」
「ラグ……? そう、それよ! 周期的に術式がフリーズする瞬間があるの! あんた、ただの一般人かと思ったら、意外と構造をよく見てるじゃない!」
エレノアは我が意を得たりとばかりに身を乗り出した。その青い瞳がギラリと光る。
「私はエレノア。王宮の……まぁ、ちょっと高名な研究者よ。訳あって、あの最深部にある『ミスリル』の鉱脈に3ヶ月以内にたどり着かなきゃいけないの。……ねえ、あんたたち名前は? 私と手を組まない? あんたのその『観察眼』と、あの騎士の腕っぷしがあれば、私の演算と合わせてあのクソダンジョンを攻略できるわ」
(おっと、危ねぇ……。王宮の最高チーフ・アーキテクト様がなんでこんな泥臭い場所にいるんだよ)
健二の脳内CPUがフル回転する。
ここで本名を名乗れば、王宮のシステムにバックドアを仕掛けた犯人として、目の前の天才ロリ魔導士に一瞬でブチ切れられるのは火を見るより明らかだった。
「俺か? 俺は……『サトウ』だ。しがないフリーランスの冒険者さ。こっちは相棒のセリア」
健二は咄嗟に苗字を名乗り、ファーストネームの「ケンジ」を完全に隠蔽した。
「サトウ? ふーん、地味な名前ね。まぁいいわ。……実はね、私が本来追っているのは『Kenji』っていう、世界で一番傲慢で、不届きで、最低最悪のクソバグ野郎(天才ハッカー)なんだけど……あいつ、テレポートでこの近くに逃げ込んだはずなのに、どこにも見当たらないのよ。名前の響きも全然違うし、あんたみたいな冴えない男があの『Kenji』なわけないわね!」
「あ、あはは……そりゃそうだ。俺みたいな弱小プログラマー……じゃなくて一般冒険者が、そんな大層な奴なわけないだろ(冷や汗)」
セリアが横で、表情を一切変えずに健二の偽名を即座に脳内処理し、話を合わせる。
「はい。主のサトウ様は、少し目の付け所が良いだけの、ただの凡人でございます」
「おいセリア、そこまで言わなくてもよくない?」
エレノアはフンスと満足げに鼻を鳴らし、腰の魔導短剣を軽く叩いた。
「よし、決まりね、サトウ! 納期(3ヶ月)まで時間がないの。お互いのスキルを持ち寄ってあのバグ地帯をデバッグ(共同攻略)するわよ。足手まといになったら、すぐにシステムから除外するからそのつもりでね!」
「へいへい、よろしく、若きチーフ・アーキテクト様」
健二は心の中で「釣れた釣れた」とニヤリと笑った。
ネット上(システム上)ではお互いを「クソパッチ」「バグ野郎」と罵り合って物理爆発まで引き起こした二人が、リアルでは「サトウ」と「エレノア」として、正体を隠したまま奇妙な共同開発を結成する。
装備を調え、飯を食い終えた凸凹トリオは、再びあのチート圏外の地獄ダンジョンへと歩みを進めるのだった――!
これで完全にバグが取れましたね!「サトウ」という偽名を使ったことで、エレノアの疑いを完璧にすり抜けつつ、コミカルですれ違った関係性がより強調されました。




