第三十一話:マッチングエラーの酒場
宿敵とのエンカウントは、酒場の片隅で。
世界を「書き換える」男と、世界を「解析する」天才少女。
極限の暗黒領域を退き、束の間の休息を得た二人が、辺境の酒場で最悪の(あるいは最高の)出会いを果たす。
チート無効のクソゲー攻略に挑む健二と、その謎を解き明かそうとするエレノア。
互いの正体を知らぬまま、技術者としての直感が火花を散らす。
「あんた、どこのロジックで動いてるの?」
運命の歯車が回り出す。社畜ハッカーと天才魔導士の、知略と執念の邂逅。
辺境の町『フロンティア』。
ダンジョンに挑む猛者たちが集う酒場で、健二とセリアは泥と汗にまみれた体を休めていた。
「ふぅ……。やっぱり生身のデバッグはクソきついな。まずは装備のアップグレードと、美味い飯でMP(体力)の回復だ」
健二が注文した山盛りの串焼き肉をガツガツと口に運んでいると、酒場の扉が乱暴に開け放たれた。
入ってきたのは、仕立ての良い(しかし道中で激しく汚れた)高価なローブを纏った、金髪の少女だった。お供の老魔導士たちを完全に置き去りにして一人で突っ走ってきたのか、彼女は息を荒らし、完全に不機嫌な顔で空いている席にドカリと座った。
「ちょっと店員! 一番強いお酒……じゃなくて、一番甘いジュースと、お肉持ってきなさいよ! もう、なんなのよあのダンジョン! 術式の構成がバグりすぎてて、私の最高演算が全部エラーを起こすじゃない!」
エレノアだった。
彼女もまた、健二の後を追って『世界の墓場』に突入したものの、チート(魔術)が通じない暗黒領域の仕様に足元をすくわれ、一度撤退してきたのだ。
「……ん?」
隣の席の健二が、その「バグ」というワードにピクリと反応する。
エレノアの方も、隣の席でボロボロのスーツを着た締まりのない男(健二)と、その横に控える美しすぎる銀髪の騎士の組み合わせに目を留めた。
(なによあの男……変な服。でも、あの女騎士の持ってる盾……どこかで見たようなマナの残響が……?)
(なんだあの生意気そうなガキ。魔導院の制服を着てやがるな。……いや待て、あいつの腰にある短剣の魔力回路、どこかで見たロジックだな……?)
お互いに「画面の向こうの宿敵」だとは夢にも思っていない。
しかし、優秀な技術者同士、相手の持つ「雰囲気(コードの匂い)」にどことなく引っかかるものを感じていた。




