第三章:私欲とチートの境界線
チートスマホを手に異世界へ転移した元社畜の健二。男爵の金庫から金を掠め取り、悠々自適な引きこもり生活を満喫する彼は、その欲望をさらに加速させる。お気に入りの美少女ゲームの衣装を現実に出現させた健二は、次なる標的を「本物のエルフ」に定め、欲望のままに突き進む不道徳な異世界ライフを幕開けさせる。
転移から数週間が経った。
健二は、この「エルドラド大迷宮」の周囲に広がるファンタジー世界――剣と魔法の国レムリアにおいて、ある種の「怪物」として密かに頭角を現していた。
彼の武器は、あの夜から異常な進化を遂げたスマートフォンだ。
異世界のあらゆる事象を「データ」として認識するその端末は、充電が減るどころか、異世界の大気中の魔力を吸収して永久に駆動していた。
「よし、今日の『ログインボーナス』を回収するか」
迷宮の近くにある宿屋の一室。健二はベッドに寝そべりながら、スマホの画面をタップした。
画面に映し出されているのは、この街を治める横暴な貴族、バルタザール男爵の隠し金庫のライブ映像だ。「カメラ機能」を応用した透視・遠隔スキャン能力。男爵が厳重に隠した暗証番号も、スマホの画面にはご丁寧に『1234』と透過表示されていた。
「セキュリティ意識低すぎだろ、中世クオリティめ」
健二が画面の「転送」ボタンを押すと、空間がわずかに歪み、スマホの画面からキラキラと金貨が溢れ出て、ベッドの上に転がった。
「アイテムボックス機能」の応用。物質のデータ化と実体化だ。
これだけの能力があれば、世界を救う勇者になることも、あるいは魔王として君臨することもできるだろう。だが、健二にはそんな大それた野望はなかった。
「命を懸けて魔王と戦う? 冗談じゃねえ。俺はもう、サビ残もデスマーチもこりごりなんだよ。これからは、俺が俺のためだけに、最高に快適な人生を送る番だ」
手に入れた潤沢な資金で、健二は宿屋の最高級スイートルームを貸し切り、最高級のシルクの寝具を整えた。
食事は、街で一番の料理人を金で雇い、部屋まで運ばせる。
さらに、スマホの「能力改変」を使い、自身の身体ステータスを密かに書き換えていた。疲れを知らない肉体、病気にならない免疫、そして――。
「ふぅ……」
夜、静まり返った部屋で、健二はスマホを横画面に構えた。
起動しているのは、地球にいた頃にダウンロードしていた、お気に入りの3D美少女エロゲー『純情☆アクア・プリンセス』だ。オフラインモードだが、データは完全に残っている。
画面の中で、メインヒロインの聖騎士エルフ・セリアが、健二のタッチに合わせて恥ずかしそうに身をよじる。
「この『太ももからふくらはぎへのライン』のポリゴン、やっぱり神だな。……待てよ、今の俺の能力なら、この『質感』を現実の衣服や触感にフィードバックできるんじゃないか?」
健二はスマホのデバッグ画面を開き、ゲームのグラフィックデータを、異世界の布地生成魔法の術式へとドラッグ&ドロップした。
術式が書き換わる。
次の瞬間、ベッドの上に、ゲーム内でセリアが身に着けていたものと寸分違わぬ「超高精細なシルクのビスチェ」が実体化して現れた。指先で触れると、地球の技術でも不可能な、吸い付くような極上の肌触り。
「……化け物じみてるな、このスマホ」
健二はニヤリと笑い、そのビスチェを眺めながら、画面の中のセリアに語りかける。
「よし、次はこれを『生身の人間』に着せる方法を考えるか。この世界には、本物のエルフもいるらしいからな……」
何気ない日常から、完全に逸脱した非日常へ。
欲望のままにチート能力を使いこなす30歳男の、誰にも縛られない不道徳で最高な異世界ライフは、まだ始まったばかりだった。




