第二十九話:ノー・チート、ノー・ライフ
チートなしの暗黒領域、始まるは「バグ」と「論理」の直接対決。
最深部の闇で、健二は己の身ひとつで世界の理を読み解き始めていた。
スマホがつかえず、生身のデバッグを強いられる極限の冒険。
一方、その背後には天才魔導士エレノアの猛追が迫る。
「規格外のハッカー」を捕らえようとする追跡者と、「社畜根性」でバグを突破する男。
ルール崩壊のダンジョンで、二つの才能が正面衝突する。
チート封印の「ガチ攻略」、ついに運命のエンカウント!
一方、そんなエレノアの猛追を知る由もない健二とセリアは、ダンジョン『世界の墓場』の最深部――チートが完全圏外になった「暗黒のバグ地帯」で、人生最大のピンチを迎えていた。
――グォォォォォォン……!
「うおっと危ねぇ!?」
健二は安物のスーツを泥まみれにしながら、地面を転がった。
彼の真横を、上下の概念がバグって「天井から生えてきた岩の触手」が猛烈な勢いでかすめていく。
いつもならスマホの『索敵フリーズ』や『HPデバッグ』で一撃のはずのトラップ。しかし、画面は完全に真っ暗で、ただの黒いガラスの板と化していた。
「健二様、下がってください! 敵の挙動が不規則です!」
セリアが白銀の聖剣を構え、闇の中から襲いかかる「バグモンスター」の攻撃を盾で弾く。
その敵は、通常の魔物とは明らかに違っていた。グラフィックが崩れたように全身がノイズで歪み、攻撃のタイミングが一定ではない。突如としてワープしたかと思えば、次の瞬間にはあり得ない角度から爪が伸びてくる。
「チッ、敵のモーションデータ(当たり判定)自体が壊れてやがるのか……! 予備動作のフレーム数がゼロなんて、どんなクソゲー(無理ゲー)だよ!」
健二は前世の開発室で、バグだらけのテストプレイをさせられた時の苦い記憶を思い出していた。
今の彼は、ただの「運動不足の30歳サラリーマン」だ。セリアの超絶的な剣技がなければ、一秒で即死している。
「セリア、奴の動きをよく見ろ! 完全に不規則に見えるが、世界の処理落ち(ラグ)のせいで、3回に1回、必ず動作が1秒間フリーズ(同期ズレ)するタイミングがある!」
チートツールは使えなくても、健二の目は「バグの法則」を見抜いていた。
「そのフリーズの瞬間に、奴の右脚の付け根――データの結合部を叩け!」
「了解しました(コンパイル)!」
セリアの体が電光となって弾ける。
ノイズを撒き散らすバグモンスターが次の攻撃に移ろうとした瞬間、健二の指摘通り、世界の歪みによって敵の体が『ピクッ』と完全停止した。
そこへ、セリアの容赦のない一閃が叩き込まれる。
――ズシャァァァン!!
結合部を破壊された魔物は、悲鳴を上げることもできず、デジタルノイズのような光の粒子となって霧散した。
「ふぅ……。生身のデバッグは心臓に悪すぎる。だが、これで少しはコツを掴んだぜ」
健二は額の汗を拭い、泥だらけのネクタイを緩めて不敵に笑った。
チートを奪われてなお、社畜時代に培った「デスマーチの執念」と「バグ解析の論理思考」で、地獄のダンジョンを泥臭く突破し始める健二。
しかし、目的の『ミスリル』が眠る最深部のコアへ向かって進む二人の背後に――猛烈なスピードで、かつてない「魔力の嵐」が近づきつつあった。
王宮から最高速の魔導馬車(と、道中の魔物を力技で消し飛ばす規格外の魔術)で追いかけてきたエレノアが、すぐそこまで迫っていたのだ。
ついにバグ地帯のルールを掴み始めた健二たちと、怒り心頭でダンジョンに突っ込んできたエレノア。
チートの使えない暗黒領域で、この二人がついにリアルで「対面」することになる。




