第二十八話:迷子になったチーフ・アーキテクト
世界の納期まで、あと3ヶ月。
規格外の「バグ」を抱えた男・健二を追うのは、王宮きっての天才魔導士・エレノア。
彼が世界の理を書き換える「ハッカー」であると見抜き、その術式を奪わんと猛追を開始する。
健二が向かった先は、物理演算が崩壊した最果ての地。
追いかける天才少女と、追い詰められる社畜のハッカー。
世界を滅ぼすバグ(メモリリーク)の深淵にて、運命のデバッグ作業が今、衝突する。
「あいつを捕まえて、全てを吐き出させるわよ!」
追う者、追われる者。最速の追跡劇、ついに幕開け。
「ちょっと! なんで誰もあいつの足取りを掴めないのよ!?」
王都レムリアの冒険者ギルド本部。
煤けた金髪をなんとか整え、演算用の魔導短剣を腰に差したエレノアは、受付のカウンターを激しく叩いていた。
彼女は、健二の残した魔力の残響を物理的に辿って王都の街へ繰り出した。しかし、彼女が正門に辿り着いたときには、健二とセリアの気配は「東方300キロメートル先」へ一瞬で不連続ジャンプしていた。
「位置情報の強制書き換え(テレポート)なんて、国家規模の魔導陣が必要な大魔術よ!? それを、なんの予備動作もなく、初級魔術みたいに気軽に使うなんて……あいつ人間じゃないわ、やっぱり歩くバグ(不具合)よ!」
ギルドの職員たちは、王宮の最高権限を持つ天才少女が血相を変えて激怒している姿に、ただただ怯えていた。
「え、エレノア様……。その『Kenji』なる者の足取りですが、ギルドの広域通信碑に、微かにログが残っております。東方の辺境都市、そしてさらにその先の未踏地――『世界の墓場』に向かったようです」
「最果ての超高難度ダンジョン!? あいつ、あんなデータの壊れかけた危険な場所に何しに行くのよ……!」
エレノアは小さく舌を打った。
普通なら、王宮の箱入り娘である彼女がそんな地獄のような場所に赴くなどあり得ない。しかし、彼女の持つ第一級の魔導知識が、ある最悪の可能性を弾き出していた。
「……まさかあいつ、世界の中心にある『あのバグ(メモリリーク)』に気づいたんじゃ……?」
もしそうなら、健二は世界を壊そうとしているのか、それとも――。
技術者としての焦燥感と、健二への異様な対抗心がエレノアを突き動かす。
「いいわ、こうなったら私も行くわよ! 王宮の最高速・魔導馬車を緊急配備しなさい! 納期(世界の崩壊)まで3ヶ月しかないのよ、あいつを捕まえて術式の書き換え方法を吐き出させるのが先か、世界がクラッシュするのが先か、勝負よ!」
エレノアはフンスと鼻を鳴らし、お供の老魔導士たちが止めるのも聞かずに、爆速で王都を飛び出していった。




