第二十七章・改:見えない壁(暗黒のセグメントエラー)
チートなし。攻略猶予は、世界が滅びるまでの3ヶ月。
「壁抜け」も「テレポート」も通用しない、データ崩壊の暗黒領域へ。
最強のハッカーがスマホという唯一の武器を奪われ、剥き出しの異世界に叩き落とされる。
頼れるのは、泥臭いデバッグ根性と、隣に立つ相棒の聖剣だけ。
システムの理が通じない極限状態で、男は世界を「再起動」できるのか。
ハッキング不能、逃げ場なし。
社畜魂が火を吹く、極限のガチ攻略戦、開幕。
「壁抜け(ウォールハック)」を適用し、ダンジョンの壁を直線距離で突き進んでいた健二とセリア。
数千匹の魔物たちが巣食うエリアをすべてスルーし、最短ルートで最深部へと向かっていた。健二のスマホのGPSが示す残りの直線距離は、あとわずか300メートル。
「ハハ、このままいけば攻略時間は5分未満だな。これぞ最速の最適化――」
健二がヘラヘラと笑いながら一歩を踏み出した、その瞬間だった。
――ピキィィィィン!!!
「ぶふっ!?」
透過しているはずの岩壁の途中で、健二の顔面が「何もない空間」に激突した。
鼻血を抑えながらよろめく健二。スマホの画面には、今まで見たこともないようなノイズが走り、文字が激しく明滅し始める。
【重大なシステム不具合:セグメンテーション違反(不正な領域参照)】
【警告:これより先のエリアは、世界生成の『バグ』により、空間の座標データが物理的に崩壊しています】
【ステータス:透過・テレポート・GPSを含む、すべての『空間干渉コマンド』が使用不可能です】
「な、んだって……っ!?」
健二が驚愕して前方の壁の先を注視する。
壁を抜けた先にあるはずの最深部エリア――そこは、世界の寿命が残り3ヶ月となった原因である「魔力のメモリリーク」が最も深刻な、いわば『完全にデータが壊れたバグ地帯(暗黒領域)』だった。
地形データはグチャグチャに歪み、上下左右の概念すら怪しい。
おまけに、チートコマンドを維持するための「魔力」そのものが、その領域に足を踏み入れた瞬間にすべて霧散して(通信が遮断されて)しまうのだ。
「健二様……スマホの光が、消えていきます……!」
セリアの言葉通り、健二の最強の武器であるスマートフォンの画面が、電波の届かない圏外のようにスーッと暗くなっていく。
「チッ、世界の根幹のバグに近づきすぎたせいで、システムの基本機能が全部使えなくなってやがる……! ここから先は、完全に手探りで行くしかねえってことか」
健二はいつもの営業スマイルを完全に消し、冷や汗を流しながら暗黒の奈落を見下ろした。
これまではスマホの画面越しに「データ」として世界を見ていた健二だが、ここからは本物の「剥き出しの異世界」が牙を剥く。
「健二様、ご安心ください」
セリアが健二の前に一歩踏み出し、白銀の聖剣をスラリと引き抜いた。その刃が、暗闇の中で唯一の頼もしい光を放つ。
「健二様の『魔法』が使えない間は、私の剣が仕様書(お体に触れるバグ)をすべて切り伏せます。3ヶ月の納期、絶対に遅れさせはしません」
「……頼もしいな、俺の嫁。よし……チートが使えねえなら、前世の社畜時代に培った『徹夜の根性(ド根性デバッグ)』で見せてやるよ。行くぞ、セリア!」
チートという最強の武器を奪われ、文字通り「生身の冒険」を強いられることになった健二。
グチャグチャに壊れた最深部の地形と、チートが通用しない古代の凶悪なバグモンスターたちが、二人の前に立ち塞がる――。




