第二十五話:リモート不可(物理バグの壁)
世界崩壊のタイムリミットまで、あと3ヶ月。
王宮の最高権限を駆使し、手元のスマートフォンから「世界のバグ」を修正しようと試みる健二でしたが、立ちはだかったのは最悪の『物理エラー(ハードウェアの寿命)』でした。
必要な修理素材は、数グラムで城が建つという超希少金属『ミスリル』、それも100キログラム。
遥か彼方の超高難度ダンジョンにしか存在せず、普通に行けば往復だけで世界が滅びる計算です。
しかし、数々のデスマーチを生き抜いてきた元SE・健二の辞書に「納期遅れ」の文字はありません。
リモートがダメなら現地出張!
チートコマンドを引っ提げ、世界の命運を懸けた、超特急のダンジョン大攻略が幕を開けます――。
ダメだ。やっぱりリモート(手元のスマホ)からじゃ、この根深いバグは叩けねえ」
宿屋のデスクで、健二はスマートフォンの画面を睨みつけながら、大きくため息をついた。
世界生成のソースコードに残されたメモリリーク――世界を崩壊させる『世界の歪み(グランド・エラー)』を修正するため、健二は数日間にわたり、王宮から奪った最高管理者権限を使ってプログラムの書き換え(リファクタリング)を試みていた。
しかし、画面には無情にも、真っ赤なエラーメッセージが点滅し続けている。
【システムエラー:物理レイヤーの破損(ハードウェア不具合)】
【原因:基幹術式を固定する『超導魔導回路』が経年劣化により融解しています】
【修正に必要な物理オブジェクト:高純度魔導金属『ミスリル』100kg】
「おいおい……ソフトウェアのバグかと思ったら、サーバーの基盤自体が物理的に焼き切れてやがる。そりゃいくらコードを書き換えても直らんわけだ。この世界の『神(開発者)』、どんな安物のパーツ使って設計してんだよ」
健二は頭をガシガシと掻いた。
直すには、物理的な修理素材として『ミスリル』が大量に必要だ。しかし、ミスリルはこの世界において、ほんの数グラムで城が建つと言われるほどの超希少金属。しかも、王宮のデータベースで検索しても、王都の備蓄は先日の大炎上で全て使い果たされているという最悪のステータスだった。
「健二様、ミスリルのまとまった鉱脈があるとすれば、ここから何千キロも離れた、大陸最果ての未踏地『世界の墓場』と呼ばれる超高難度ダンジョンの最深部のみです。……普通に旅をすれば、片道だけでも半年はかかります」
セリアが世界地図のログをスマホに投影しながら、沈痛な面持ちで告げる。
「世界の納期(崩壊)まであと3ヶ月。普通に行ってたら、素材を手に入れる前にサーバーごと世界が消滅するな」
健二は立ち上がり、いつもの安物スーツの上着をバサリと羽織った。その目は、納期直前のデスマーチに強制突入させられた、プロの社畜エンジニアのギラついた光を放っていた。
「上等だ。リモートが無理なら、現地に出張してやるよ。移動時間も攻略時間も、俺のチートコマンドで限界まで『最適化』してやる。セリア、冒険の準備だ。3ヶ月で世界を救う、超特急のデスマーチに行くぞ」
「はい、健二様! どこまでもお供いたします!」
セリアの瞳が、新たな戦いへの期待で美しく輝いた。




