第二十二話:管理者コマンドと王宮のデータベース
「技術者ってのは、騙しやすい」
それが、現代のブラックIT企業で揉まれ、この異世界へとドロップアウトした健二の持論だった。
国王直属の天才魔導士・エレノアを言葉巧みに誘導し、罠仕込みのクリスタルを接続させることに成功した健二。宿屋の安ベッドの上に寝転びながら、彼は今、一国の最高機密をその手の中に収めようとしていた。
狂信的なまでの忠誠を誓うセリアに見守られ、ヘラヘラと笑いながら国家の闇を漁る健二。しかし、イージーモードのマネーゲームは、ある「異常なフォルダ」を見つけたことで、突如として世界の存亡を賭けたバグハントへと変貌する――。
「お、来た来た。ログイン成功っと」
宿屋の天蓋付きベッドの上で、健二はスマートフォンの画面が淡い光を放ち、膨大な「国家最高機密」のフォルダ群を次々と展開していくのを眺めていた。
それは、エレノアが自分の端末(魔導盤)に、健二の仕込んだ『トロイの木馬』付きクリスタルを接続してくれたおかげだった。
【システム接続:王宮中央魔導院・大格納庫(基幹データベース)】
【権限:最高管理者(Root)――全データの閲覧・改ざん・削除が可能】
「うわぁ……。さすが一国のメインサーバー、ファイル(機密)の量がエグいな。地方の男爵とは比べ物にならん」
健二はヘラヘラとした営業スマイルを浮かべながら、画面を流れるログを高速でフリックしていく。国家予算の隠し口座、隣国へのスパイ計画、王族の隠し子の名前……普通なら一目で国家憲兵に首を撥ねられるレベルの裏データが、フォルダ分けされて綺麗に並んでいる。
「健二様……、本当に王宮の、それもあの中央魔導院を完全に制圧してしまわれたのですね」
横にぴったりと寄り添うセリアが、驚嘆と、もはや信仰に近い熱い眼差しを健二に向けていた。
ゲームAIのデータが上書きされている彼女にとって、健二は世界の法則そのものを書き換える唯一絶対の『創造主』に他ならなかった。
「技術者ってのはな、どれだけ有能でも『知的好奇心』っていう最大の脆弱性を抱えてるんだよ。あのエレノアとかいうガキは特に分かりやすかったな。……さて、せっかく最高権限をもらったんだ。俺たちの利益になる『面白いデータ(お宝)』でも探すか」
健二が「資産」や「魔導具」のカテゴリーを検索しようとした、その時。
画面の奥深く、三重の暗号でロックされた不自然な非公開ディレクトリ(隔離フォルダ)が目に留まった。
タイトルは――『【最重要・破棄予定】世界生成バグ・テストケース』。
「……あ?」
健二のエンジニアとしての直感が、ドクンと跳ね上がった。
その暗術式をスマホの特権コマンドで無理やりクラック(解凍)し、内部のソースコードを読み解いた瞬間、健二のヘラヘラとした笑みが完全に消え失せた。
「なんだよ、これ……。この世界、思った以上に『プログラムのバグ(・・・)』だらけじゃねえか」




