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30歳エンジニア、異世界へ  作者: 玉玉G


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第十八話:分散型サービス拒否(DDoS)

王宮が誇る最年少の天才魔導サイバーハッカー、エレノア。

彼女は、突如として王国の重要サーバーに現れた謎の凄腕エンジニア「ケンジ」の足取りを掴むため、容赦のない広域総当たり(ブルートフォース)攻撃を仕掛けた。


圧倒的な魔力量と演算速度でケンジを追い詰めた――そう確信したエレノアだったが、それこそがケンジの仕掛けた罠だった。

ケンジは逃げるどころか、エレノアの攻撃をそのまま王都の魔導インフラごと反射カウンターする用意を進めていたのだ。


そして今、運命のパケットがエレノアの元へと送り返される――。

「……おかしいわ。追跡トレースのパケットが、全部別の場所に吸い込まれていく」


王宮の『中央魔導院』。天才少女エレノアは、大容量の魔導クリスタルに指先を滑らせながら、苛立たしげに眉根を寄せていた。


画面に映る王都の地図。彼女が放った逆探知の術式は、犯人ケンジの居場所に直撃するはずだった。しかし、標的に届く直前で空間の座標データがパッと書き換わり、街外れの公衆便所や、教会の貯水槽、挙句の果てには魔導院の先輩魔導士の自宅の寝室へと強制転送リダイレクトされてしまう。


「ダミーの接続先ハニーポットをこれだけ瞬時に生成するなんて……。ふん、ただ隠れるだけじゃなくて、私をからかう心の余裕があるってわけね」


エレノアは口の中の飴をガリリと噛み砕いた。彼女の負けず嫌いな性格に、完全に火がついた。


「だったら、力技パワーでねじ伏せるまでよ。防衛結界『アイギス』の全魔力プロセッサを同期。ダミーごと、この街に存在するすべての魔力通信を飽和パンクさせてあげる!」


エレノアがクリスタルを両手で叩く。王宮の地下に眠る、国家規模の巨大な魔力炉が『ゴォォォ……』と不気味な重低音を響かせて駆動し始めた。

それは、健二の言うところの「総当たり攻撃ブルートフォース・アタック」。王都中の全パケットを魔力で埋め尽くし、偽装をまとめて押し潰すという、国家の最高アーキテクトにしか許されない超力技だった。


一方、高級宿屋のベッドの上では……

「おっと、おいおい。随分と気性の荒いプログラマーだな」


健二は、セリアの柔らかな体を片腕で抱きしめたまま、スマホの画面を凝視して苦笑した。

画面上の「リソース監視グラフ」が、一気に限界(100%)を突破して真っ赤に染まっている。王宮側から、文字通り桁違いのデータ量(魔力)が押し寄せていた。


「健二様……? スマホが、とても熱くなっています」


セリアが心配そうに、健二の手元を見つめる。スマホの筐体は、処理の過負荷によって触るのも躊躇うほどに熱を持ち始めていた。


「王宮のサーバーをフル回転させて、力任せに俺のIP(位置情報)をあぶり出す気だ。このままじゃ通信が遮断タイムアウトして、こっちのスマホの回路が焼き切れるな……」


国家規模のインフラが本気で放ってきた、膨大な魔力の波。いかに地球のチートスマホとはいえ、端末1台のハードウェアスペックでは、物理的な処理能力に限界がある。


だが、健二の顔からヘラヘラとした余裕は消えなかった。


「上等だ。トラフィックで勝負しようってなら、エンジニアリングの基本・・を教えてやるよ」


健二は熱を持ったスマホの画面を、電光石火のスピードでフリックした。


ターゲットにするのは、押し寄せてくる王宮の魔力そのものではない。

王都の至る所に設置されている、公共の「魔導街灯」や「水道の汲み上げポンプ」といった、街のあらゆる末端のインフラオブジェクト(デバイス)の仕様書ソースコードだ。


「どんなに巨大なサーバーでもな、末端の処理を最適化キャッシュしてなきゃ、一発でパンクするんだよ!」


【コマンド実行:末端魔導オブジェクトの一斉書き換え】

【対象:王都内のすべての魔導街灯、および公共魔導具】

【変更:王宮から送られてくる全魔力パケットの『応答(Ack)』を、すべて王宮の中央魔導院へそのままオウム返し(リフレクション)する】


健二が実行キー(エンター)をタップした。


中世の魔術師たちは、中央のサーバーを強化することばかりに目を向け、末端のデバイスの「例外処理エラーハンドリング」を完全に怠っていた。健二はそこを突いた。


エレノアが健二を炙り出すために放った莫大な魔力は、健二のスマホに届く直前で、王都中の何万という「街灯」や「ポンプ」によって完全に反射リフレクトされた。

そして、そのすべてのデータが、一つの発信元エレノアのクリスタルへと一斉に逆流ブーメランしていった。


高度なハッキング技術を応用した、世界初の『魔導リフレクションDDoS攻撃』の完成だった。


『中央魔導院』の執務室。


「え……? 嘘、パケットが、戻って……?」


エレノアが目を見開いた瞬間。

彼女の目の前にあった巨大な魔導クリスタルが、キャパシティを完全に超過し、内側から眩い紫色の光を放ってパァァァン!!と派手に爆発した。


「きゃああっ!?」


エレノアは衝撃波で床に転がり、美しい金髪を煤で真っ黒に汚した。

周囲の老魔導士たちも「ひぃっ!?」「魔力炉が緊急停止シャットダウンしたぞ!」と大パニックに陥っている。


頭から煙を上げ、床にへたり込んだエレノアは、壊れたクリスタルの破片を見つめながら、呆然と、そして激しく顔を紅潮させた。


「あはは……、あはははは! 凄い……! 私の総当たりを、街のインフラごと全部ひっくり返してぶつけてくるなんて……!」


彼女は恐怖ではなく、未知の強者に出会った狂喜に震えていた。

完全に一本取られた。しかし、ログの最後には、またしてもあの男の「コメント」が、焼き切れる直前の魔導院の壁面モニターに一瞬だけ浮かび上がっていた。


// FIXME: サーバーの過負荷には気をつけましょう。お疲れ様。 by Kenji


「ケンジ……! 待ってなさいよ、次は絶対に、私の手で貴方をデバッグ(解剖)してあげるんだから……!」


王宮の天才美少女ハッカーを、文字通り「炎上(物理)」させて完全にノックアウトした健二。

しかし、この大派手なカウンターによって、エレノアの執着はより一層深いものへと変わっていくのだった――。

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