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30歳エンジニア、異世界へ  作者: 玉玉G


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第十七話:謎の文字列(シグネチャ)

王都の絶対的な防衛システム『アイギス』のRoot権限(最高管理者権限)が何者かに奪取されたその時、中世の人間には到底理解できない、ロジックとデバッグの血で血を洗うサイバー戦の火蓋が切って落とされる。


世界を書き換えるのは、最高峰の「正規の管理者」か、それともルールを嘲笑う「最強のクラッカー」か。

いま、異世界史上最も泥臭く、最もインテリジェンスな『サイバー魔導ウォーズ』が幕を開ける――!

王都レムリアを揺るがした大炎上から数日。ヴァン・デル・バルク商会が解体され、解放されたエルフたちが保護される中、王宮の最深部――国家防衛の心臓部である『中央魔導院』は、かつてない緊迫感に包まれていた。

「……ありえない。我が魔導院が数百年にわたり構築してきた鉄壁の結界『アイギス』が、完全に掌握されていたというのか!?」

豪奢なローブを纏った老魔導士たちが、青ざめた顔で巨大な水晶盤メインモニターを囲んでいる。

水晶盤に映し出されているのは、あの昼、王都中に闇のログを流出させた「実行コード」の残滓ログファイルだった。

魔術的な痕跡マナ・コードは一切ない。

代わりに、そこには中世の天才魔導士たちの頭脳を以てしても1文字すら解読できない、不気味で完璧に整列された**「謎の文字列」**が刻まれていた。


User-Agent: Mozilla/5.0 (iPhone; CPU iPhone OS 17_5 like Mac OS X)

X-Forwarded-For: 127.0.0.1

Status: 200 OK (バルクデリート完了)


「これは古代の呪詛か!? それとも隣国の禁忌魔術か!?」

騒ぎ立てる老人たちの後ろで、一人の少女が冷徹な目でその文字列を凝視していた。

彼女の名はエレノア。十代にして中央魔導院の『システム最高責任者チーフ・アーキテクト』を任された、世界で唯一「世界の法則を数式として理解できる」本物の天才少女だ。

エレノアは美しい金髪をいじりながら、ペロリと飴を舐め、冷ややかに呟いた。

「バカね、おじいさまたち。これは魔術の術式なんかじゃないわ。世界そのものの構成言語ソースコードを直接書き換える、未知の『概念干渉インジェクション』よ。……それに、この犯人、確信犯プロだわ。ログの最後に、あえて自分の『署名シグネチャ』を残していってる」

エレノアが水晶盤の一部を拡大する。そこには、健二が半ば悪ノリで残した、一列のコメントアウト(落書き)があった。


// TODO: 王都のクソ仕様、これにて修正完了。 by Kenji


「ケン、ジ……。面白いじゃない。この私を出し抜いて、アイギスのRoot権限(最高管理者権限)を奪い取った不届きなネズミ。……絶対に、パケットを追跡トレースして引きずり出してあげるわ」

エレノアの瞳に、天才ゆえの、狂気にも似たハッカーとしての対抗心がバチバチと燃え上がった。

一方、高級宿屋のベッドの上では……

「ハァッ……、あ、健二、様……っ」

王都の最高級ホテルの特等室。外の喧騒を完全に遮断した静寂の中で、健二はセリアと熱い「セッション(事後)」の余韻に浸っていた。

奴隷市場から買い受けた時とは見違えるほど、セリアの肌は艶やかに輝き、その銀髪がシーツの上に美しく散らばっている。コンパイルされたゲームヒロインのデータは、健二からの「直接的なパケット通信(夜の営み)」によって、より強固に、そしてより甘美に肉体へと定着していた。

「ふぅ……。やっぱり新サーバー(王都)での初リリース(大炎上)の後は、こうしてローカル環境でリフレッシュするに限るな」

健二はセリアの引き締まった腰を抱き寄せながら、片手でスマホの画面をチェックした。

だが、その画面を見て、健二の眉がピクリと跳ね上がる。

「おっと?」

スマホの画面の最下部、バックグラウンドで動かしていた「ポート監視ツール」のログが、真っ赤な警告を発していた。


【システム警告:外部からの逆探知(追跡パケット)を検知】

【発信元:王宮内・中央魔導院】

【解析速度:毎秒500テラハッシュ。現在、こちらの偽装IPを猛烈な勢いでクラック中】


「へぇ……」

健二のヘラヘラとした営業スマイルが、徐々に「本物のエンジニア」の戦闘的な笑みへと変わっていく。

中世の人間には絶対に理解できないはずのハッキング。それを、力技(魔術)ではなく、的確なロジックで逆探知して追いかけてきている気配がしたのだ。

「健二様……? 何か、不具合トラブルですか?」

セリアが不安そうに、健二の胸元に顔を埋めてくる。

「いや、トラブルじゃない。……どうやらこの王都のシステム開発部には、男爵の憲兵や脳筋の商人とは違う、**『まともなプログラマー(敵)』**が一人いるらしい」

健二はスマホを構え、画面を高速でフリックし始めた。

「俺のログを追跡してくるか。いい度胸だ。お望み通り、ダミーの接続先ハニーポットを山ほど用意して、一晩中無限ループのデバッグ地獄にハメてやろうじゃねえか」

王宮の天才魔導少女エレノア。

そして、地球のチートスマホを持つ社畜エンジニア佐藤健二。

王都のインフラの支配権を巡る、世界のソースコードを書き換え合う「サイバー魔導ウォーズ」が、今ここに開幕した。


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