第十六話:グランド・クラッシュ(大炎上)
王都の象徴である巨大掲示板が突如として明滅した。健二が仕掛けたハッキングにより、国家インフラのシステムは完全に掌握されたのだ。平穏な日常は一瞬にして崩壊し、群衆の視線が一点に注がれる。そこへ映し出されたのは、栄華を極める大商会の裏に隠された、あまりにもおぞましい「絶対の禁忌」だった。
その日の昼。王都レムリアの中央広場は、未曾有の大パニックに陥っていた。
普段は王室の布告やギルドの依頼を表示している、街の巨大な「魔導掲示板」が、突如として真っ赤に明滅し始めたのだ。
――ピコーン! ピコーン!
「な、なんだ!? 掲示板がバグったのか!?」
「おい、見ろ! 何か文字と……映像が映し出されているぞ!」
王都の騎士も、貴族も、平民も、何千人という群衆が足を止め、掲示板を見上げて悲鳴を上げた。
そこに映し出されていたのは、王都の誇る大商人ヴァン・デル・バルク商会の地下で、カプセルに閉じ込められたエルフたちが苦痛に喘ぎ、魔力を吸い上げられている**「生々しいリアルタイム映像」**。
そして、その横には、商会が密猟組織からエルフを「1匹あたり金貨100枚」で買い叩いていた、言い逃れのできない詳細な「闇の会計データ」だった。
「防衛システム『アイギス』は、魔石ではなくエルフの命を貪って動いていたのか!?」
「ヴァン・デル・バルクめ……なんておぞましいことを!」
怒号と悲鳴が王都を包み込む。
時を同じくして、ヴァン・デル・バルク商会の本部には、真実を知って激怒した近衛騎士団が怒涛の勢いで突入していった。
「ば、バカな……! なぜ我が商会の最高機密(隠しサーバー)のデータが、国家システム経由で流出しているのだ!?」
贅沢な執務室で、大商人ヴァン・デル・バルクは泡を吹いて腰を抜かしていた。
彼が必死に隠してきた闇の仕様は、健二の手によって「王国のインフラ」そのものを使って強制的にデプロイ(公開)されたのだ。商会の資産は即座に凍結、バルク本人は国家反逆および奴隷法違反で終身刑が確定した。
広場から少し離れた時計塔の上。
心地よい風が吹く特等席で、健二はスマホの画面で「ヴァン・デル・バルク商会:倒産」のニュース(ログ)を確認し、満足そうにハーブティーを喉に流し込んだ。
「ふぅ。仕様書通りの完全勝利(リリース成功)だな」
「見事な手際でした、健二様。これで同胞たちの無念も晴れました」
隣に座るセリアが、心からの、そしてこれまでで一番美しい笑みを健二に向けた。その表情は、ゲームのAIデータを超えて、一人の少女としての本物の感情に満ち溢れている。
「ま、俺の嫁の過去を汚したバグどもへの、エンジニアとしての正当な評価だ。……さて、王都の闇サーバーも一つ潰したことだし、次はどうする?」
健二がスマホをポケットに仕舞いながら立ち上がると、セリアもそのスリムな身体を起こし、健二の腕にそっと自分の手を絡ませてきた。
「どこへでも、健二様の望まれるままに。次の『デバッグ』のお供をいたします」
王都の利権をハッキングで根底から覆した30歳エンジニア。
彼と、最愛のバグ取り騎士セリアの不道徳で最高にロジカルな異世界ハックライフは、まだまだ終わらない。
(第2章・王都ファイアウォールクラッシュ編 完)




