第十四話:例外処理(デリート・プログラム)
最強の力を覚醒させた銀髪のエルフの少女・セリア。彼女はかつて自分を絶望の淵に突き落とし、故郷を滅ぼした悪徳密猟組織「ルナ・ノワール」への復讐を誓っていた。健二のサポートを受け、ついに仇敵の本拠地へと足を踏み入れたセリアの、容赦なき神速の剣撃が炸裂する――。
高級美術品店『月影堂』の地下室。
そこは、檻に入れられたエルフの子供や女性たちが、恐怖に震えながら泣き声を上げる地獄のような場所だった。
「おい、明日の朝までに、ヴァン・デル・バルク商会へあと5匹納品だ。王都の結界が少し不安定になってるらしいからな、魔力の高いやつを選べ」
ルナ・ノワールの密猟者たちが、酒を飲みながら下卑た笑い声を上げている。
その時、地下室の頑丈な鉄扉が、何の前触れもなく*――スッ……*と、音もなく内側から「透過」するようにして開いた。
「誰だァ!?」
密猟者たちが一斉に立ち上がり、武器を構える。
現れたのは、安物のスーツを着た怪しげな男と、信じられないほど美しい、しかし凍りつくような殺気を放つ銀髪のエルフの少女だった。
「セ、セリア……!? なぜここに、お前は辺境に売られたはず――」
「お前たちが、このシステムの『バグ』か」
健二は相手の言葉を遮り、冷酷にスマートフォンを突き出した。画面には、地下室にいる密猟者全員の「生命ステータス(HP)」が緑色のバーで表示されている。
「な、何を言ってい――」
「黙れ。お前たちに、釈明の猶予は与えない。セリア、やれ」
健二が画面を力強くスワイプした。
【コマンド実行:広域ステータスデバッグ(デバフ)】
【対象:ルナ・ノワール構成員全員】
【効果:筋力(STR)・俊敏(AGI)を『1』に強制固定】
「が、はっ!? 体が……重……っ!?」
密猟者たちが一斉に、まるで体に数トンの重りを乗せられたかのように床へ倒れ込み、這いつくばった。指一本動かすことすらできない。呼吸をすることすら困難な、絶対的な「システムの支配」。
「な、何をした……っ、バケモノめ……!」
身動きの取れない敵のリーダーの前に、セリアが静かに歩み寄る。彼女の手には、健二のスマホから実体化された、まばゆい光を放つ白銀の聖剣が握られていた。
「ルナ・ノワール。我が故郷を滅ぼし、同胞をモノのように扱った罪……ここで完全に、消去いたします」
「ひ、ひぃっ! 待て、待っ――」
――閃光。
一切の慈悲のない、音速の剣撃が地下室を駆け抜けた。
かつてセリアを絶望の淵に叩き落とした密猟者たちは、悲鳴を上げる間もなく、その肉体をただの「塵(消去データ)」へと変えられていく。
檻の中にいたエルフたちが、呆然とその光景を見つめていた。
すべての処理を終え、剣を収めたセリアは、すっきりとした、しかし涙の浮かんだ目で健二を振り返った。
「健二様……ありがとうございました」
「いや、まだこれは『フロントエンド(前哨戦)』だ、セリア」
健二はスマホの画面を見つめ、不敵に笑う。密猟者たちを消去したことで、その上位サーバー――つまり、エルフを買い取っていた大商人『ヴァン・デル・バルク』への通信ログ(証拠)が、完全に健二の手元に掴まれていた。
「次が本番だ。この誘拐ルートのデータを王都の防衛システム(アイギス)に直接叩き込んで、あのドヤ顔商会ごと、王都のシステムを盛大にクラッシュさせてやろうぜ」
セリアへの復讐を遂げ、次なるターゲットである「王都の大物」へ照準を合わせた健二。
30歳エンジニアのハッキングは、ついに王国の絶対的な根幹へと牙を剥く――。




