3汗
それから一週間。
私の日常は「訓練、訓練、休み(という名の筋トレ)、訓練、訓練」という、狂ったメビウスの輪の中にあった。
そのわずかな間に、10名の仲間が機材の不具合――という名の「発汗制御失敗」により、山芋となって文字通り部隊から溶けて消えた。店員から買った最高級オムツと制汗剤の有効性を疑う暇もないほど、死は隣り合わせで、かつベタついていた。
「脂モヤシ! ピーマンの脂詰め!」
キャンプに軍曹の、あの鼓膜を削るような怒声が響く。
「お前らは新しい脂身(新兵)10名を連れて、ここから42キロ離れた補給拠点へ向かえ! そこで弾薬とヒドラジンEXを受領し、ここまで運んでこい! 猶予は三日だ!」
「え……? 軍の輸送トラックとかで運ぶものじゃないんですか?」
思わず口をついて出た言葉に、軍曹の血管が音を立てて浮き上がる。
「貴様! 脳みそまでカタボ(筋肉分解)っているのか!? 口答えする前に『サー』をつけろ! 腕立て50回追加だ!!」
「さ、サー・イエッサー!!」
私は泣きながら、地面に手をついた。先月までタブレット端末より重いものを持ったことすらなかったのに。今や私の腕は、自分の体重と「理不尽」を支えるためだけの棒と化している。
「ピーマンの脂詰め! なぜ輸送トラックが単独で来られないか、貴様にはわかるか!?」
「サー! 醜いタコちゃん達が繁殖期を終え、新たな群れとなって湧き出してくる頃だからだと愚考します! サー!」
ピーマンの脂詰めさんが、ハイライトの消えた瞳で虚空を見つめたまま、教科書通りの回答を叫ぶ。
「よろしい! 完璧だ! 俺の実家の弟をファックしていいぞ!」
軍曹から「褒美」という名の強烈なビンタが彼女に飛ぶ。彼女の首がガクンと揺れたが、その死んだ魚のような瞳に変化はなかった。
「貴様の言う通りだ! 補給ラインはタコ共の餌場になっている! とっとと行って、燃料と弾薬を積んだトラックを護衛しながらここまで引っ張ってこい! 行け、行け、行け!!」
どやされ、突き飛ばされるようにして、私たちは『スウェット2055』に詰め込まれる。
狭い。暑い。そして、あのヒドラジンの甘い臭い。
「……ねえ、脂モヤシちゃん」
ハッチが閉じる直前、隣の機体からピーマンの脂詰めさんの声がモノラルスピーカー越しに聞こえた。
「……新品のオムツ、履いてきた?」
「……。サー、最高級のやつを、二枚重ねで。サー」
「……賢い選択ね。それじゃあ、行きましょうか。地獄のデリバリーへ」
電磁ゲートが重々しく開放される。その向こう側に広がるのは、真っ赤な砂嵐と、数え切れないほどのタコの触手が待ち受ける死の荒野だ。
ゲートを蹴って飛び出す12機のスウェット。
加速する振動の中で、私は確信していた。
……この中の半分は、二度とこのゲートをくぐることはないだろう、と。




