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3/4

3汗

血と粘液、そして加熱された鉄が混じり合う。ここは文字通り、銀河で最も暑苦しい「地獄の一丁目」。

目の前では、弾丸を撃ち尽くし、刃を折られた『スウェット2055』たちが、ただの鉄の塊と化してタコ共の触手に飲み込まれていく。私の愛機も、もはや武装は全滅。残されたのは、タコのヌメる皮膚を掴むことしかできない、無骨なマニュピレーターのみ。


「新兵! 足だ! 脚部にあるぶっといブツを忘れるな!!」


教官の怒声が、爆音を突き抜けて響く。

見れば、あの人は弾の切れたライフルに銃剣ナイフ一本で、タコ共を八つ裂きにしながら踊っていた。生身の宇宙服一枚で、なぜあの人は死なないの!?


「あ……そうだった……マグナム……!」


脚部装甲に格納された、88口径マグナムリボルバー。

だが、その瞬間、私の脳裏に「絶望」という名のマニュアルが蘇る。これを取り出すには、規定のポーズが必要なのだ。


「バックランジ……! やらなきゃ死ぬ……でも、お腹がつかえて……!」

極限の疲労と、昨日食べた増量飯のせいで、姿勢が作れない。焦って前屈みになった瞬間、私の腹肉が内壁の制御パイプを無慈悲に圧迫した。

――ドッボォォォォォン!!


「あ、誤作動……!」


背中のスラスターが斜め上方に火を噴く。制御不能のまま宙を舞う私に、タコの頭から銃剣を引き抜いた教官の罵声が追いすがってきた。

「馬鹿野郎! 腹に無駄な肉が残ってるからだぁ!!」

なんであの人はあんなに元気なの……。

妙に冷めた思考のまま、私の機体はタコ共の密集地帯のど真ん中へ、無様に墜落した。


「嫌ぁぁぁぁぁ! 来ないでぇぇぇ!!」

死の恐怖が、私の括約筋と、そして「脚」を突き動かした。

光速の、それこそ人生で一番キレのある左右バックランジ。

ガシャリ、と引き抜かれた二挺のマグナム。私は目を瞑り、顔を背けながら、狂ったように引き金を引き続けた。

ズドン! ズドン! ズドン! ――カチッ、カチッ……。


「あ……終わった。死んだわ、これ」

無情な弾切れの音。手から滑り落ちるマグナム。

群がるタコ共の触手が、スウェットの装甲を締め上げるギチギチという音が聞こえる。

……さよなら、私のWEBライター人生。


「諦めるな新兵ッ!!」


スピーカーが割れんばかりの叫び。


「教えただろ! 今のお前の発汗量……特に脇汗エネルギーなら、アレができるはずだ!」


「……え? あ、ああっ!!」

そうだ。これだけ熱くて、これだけ怖くて、これだけ汗をかいている今なら。

私は叫んだ。恥も、外聞も、WEBライターとしての理知的なプライドも、すべて火星の砂に捨てて。


「モスト・マスキュラーーーッ!!」


その瞬間、機体が吠えた。

全身の駆動系が過負荷オーバーロードで発光し、ヒドラジンEXが私の汗を食らって爆発的な推進力へと変換される。

軽い。機体が、羽根のように軽い!


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」

鋼鉄の拳がタコを引き裂き、触手を掴んで岩壁に叩きつける。

私は獣のように吠えながら、一際巨大な親玉タコの脳天に馬乗りになり、拳がひしゃげるまで殴り続けた。緑色の体液が視界を染めても、私は止まらなかった。


「……せ、 よせ! もう死んでる!!」

気づけば、生き残った二機の同僚に羽交い締めにされていた。


「もう終わったんだ……! 俺たちは、生き残ったんだ……!」


涙声の味方の言葉。……その時だった。

無慈悲なシステムボイスが、彼の機体から冷酷に流れ出した。


『警告:異常水分(涙)を検知しました。ヒドラジンEXの暴走防止のため、機内温度を強制上昇させます』


「やめろぉぉぉ! 泣いてるだけだ! 漏らしてな――あぁぁぁぁ!!」

みるみると機体が赤熱し、中の同僚がミイラのように干からびていく。

……私ともう一人は、声も出せず、ただその「干し肉」になった戦友の機体に、震える手で敬礼を送った。


「……行こう。回収ポイントへ」

私は、干からびた味方の機体を引きずりながら、重い足取りで歩き出した。

次は、私の番かもしれない。

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