2章汗結
「カスタードちゃん、ちょっと悪いけどドームへ帰ってて!」
私は気絶して硬直している彼女の機体を無理やり不格好なバックランジの姿勢に固定し、制御系の端子を誤作動させる。ジェット噴射が火を吹き、彼女は綺麗な放物線を描いてドーム内へと射出されていった。……よし、これで新兵一人の命は確保。
さて、第二波は……ざっと見て、さっきの3倍。
地平線を埋め尽くすタコの群れを前に、私は思わず乾いた笑いが漏れた。
「……もう、終わってもいいかな?」
そう呟いた瞬間、背後から地響きと共に「危険色」の鉄の巨体が火星の赤茶けた荒野に躍り出た。
機体ナンバー072。全身から殺意の蒸気を噴き上げている。
「……やっと起きたんだね? ピーマンさん」
エビ君が必死に機体にしがみつきながら叫んでいる。
「もう人間の言葉が通じないんです!」と。
それを見た瞬間、緊張の糸が切れた私は、力が抜けて無様なランジ姿勢を取ってしまう。……あ。
ボッ、ドォォォォンッ!!
案の定、私の機体もジェットパックが誤作動。
ジェット噴射の目的地は、あろうことかタコ共の陣地のど真ん中。
(……あぁ、最後にチョコレートパフェ、食べたかったな……)
なんて走馬灯を秒速で振り払い、私は絶叫した。
「って、うおぉぉぉーーーッ! 燃えろ私の命の灯火ぃぃいいい!!」
着地と同時に、全力全開の――モスト・マスキュラーッ!!
私の機体が放つ衝撃波につられるように、ピーマンさんも本日二度目のマスキュラーを解禁。
修羅だ、あの人はもう完全に人間を辞めている。
背後ではエビとラードが健気にマグナムを連射していたが、すぐにカチカチと乾いた音が響く。弾切れ。……ふふ、あんなにキラキラしていたのに、今の絶望顔は昔の私にそっくり。
「って、触んじゃねぇよ! この触手野郎がぁぁぁぁー!!」
鬼神の如き私たちの奮闘――というか「発狂」に近い暴走により、戦線はギリギリのギリギリで死守された。
そして空軍到着予定時間。
本当に現れた輸送機に、ボロ雑巾のように回収された汗かきたちは、100名にも満たなかった。
◇数日後
また収容された軍病院の談話室で、MNNのデイブさんがお送りする「独占:マーズ1の英雄」という放送を見た私は、手近なダンベルを投げつけてテレビをカチ割った。
検閲に次ぐ検閲。
そこには「市民を守る気高い海兵隊」と、タコの海で孤軍奮闘する「勇敢なる上等兵・ユキナ」の姿が美化されて映し出されていた。私のリーク計画は、軍のプロパガンダに完全に飲み込まれたのだ。
「ガッハッハッハ!! モヤシとピーマン! 大活躍だったなぁ! 良い汗かいたかァ!?」
病室に現れたのは、眼帯に義足という、これまた「プロパガンダ映え」する姿になった無敵超人(教官)だった。
「喜べ! 昇進だ! ユキナ・ホソカワを海兵隊伍長に任命するッ!!」
まただ。
また除隊が遠のいた。
伍長になれば、責任も、戦場での滞在時間も増える。Webライターへの道は、もはや火星の地平線の彼方だ。
「……せめて、休暇をください。マーズ1のカフェで、爆食いしなきゃやってられません……」
私は、ようやく人心地ついたピーマンさんと、まだ震えが止まらない新兵たちを振り返る。
「……もちろん、全員分、私が奢るから。戻せるだけのカロリーを、全部戻しに行くわよ」
私たちの「汗」はまだ、火星の荒野を潤し続けるらしい。
『宇宙のマッチョ達:Sweat Troopers』第二章 完




